N試作場

ジャンルにとらわれず、新しい組み合わせ、おもしろいことを考えていきます。

人間味

2012年08月15日 | 日記
叔父さんの通夜に出てきた。

小さい頃は怖い印象しかなかったが、
大きくなって大変お世話になり、顔を会わせる機会も多かった。

叔父さんは、平日は夜勤の仕事をし、土日はビル掃除のバイトをして、
毎日、よく働いていた。

家計は非常に厳しかったと思われるが、
家を買って、子供4人を育て上げたことは尊敬に値する。

自分は、高校生の頃から、たまに叔父さんのビル掃除のバイトを手伝うようになった。

その頃、人と接するのが苦痛になっていた自分にとって、黙々とやれる仕事は性に合った。

そのバイトは、高校、大学、そして社会人になってからも続けていたのだが、
やがて会社の仕事があまりに忙しくなり辞めた。

今でもたまにビル掃除の仕事はやりたいなと思うことがある。

お金の問題ではなく、あの作業自体が好きなのだ。

掃除は、第一土曜は銀座、第二日曜は三田、第三土曜は上野…といった具合に、
現場が決まっていた。

ただ、たまに御茶ノ水の現場を手伝うことがあって、そこに小田さんという人がいた。

掃除しながら、つばをペッペッと吐くのがクセだった。

小田さんとは、ほかの現場でも一緒になることがあり、
それなりに顔見知りではあった。

さて、大学4年のとき、自分がアフリカに数ヶ月間行くことになり、
現場でいっしょになった小田さんにその話をしたことがある。

仕事が終わり帰ろうとすると 「ほい、餞別」 と、
その日の小田さんの日当くらいの金額を渡された。

普段、それ程のつながりはないのに、この金額はもらえないと
さすがに辞退したが、

「いいから持ってきなよ。アフリカに行くってえ。そんな話を聞かされちゃなー」

と茶封筒を押し付けられ、ありがたく頂戴することにしたのだった。

それがとても深く印象に残っていて、いまだに忘れられない。


叔父さんの通夜の話に戻すと、掃除でいっしょだった
かつての仕事仲間も来るだろうなと思っていた。

受付をしながら、4~5人は来るかなと顔を思い浮かべていたが、
通夜が始まっても誰も来ない。

結局、通夜も終わりかけの時間に小田さんが現れて、
思わず声が弾んだ。

「あっ、小田さん! お久しぶりです!!」

「よっ、久しぶりだな。元気だったかい。」

とてもいい顔をしている。目が澄んでいる。

「俺はさあ、年金もらって暮らしてるよ」

「掃除は今も続けてるんですか?」

「ああ、ダメダメ。不景気でさ。8年前に辞めたよ。
今はさ、年金もらいながらタクシーの運転手してんの」

語り口といい、相変わらず 「寅さん」 みたいな人だ。

「ああ、あのさー、言っといてくんない?香典返しとか要らないからさあ」

「え」

「困るんだよー。なんか大きい物とかもらっちゃったりするとさ。使わねえから。
結構、入ってっから、気ぃ使われるとなー」

そういって香典を差し出した。

書き損じたのだろう、ぐちゃぐちゃと何かを塗りつぶした下に「小田」と名前が書いてある。

それで小田さんは、すっと会場に入って焼香を済ませたと思ったら、
あっと言う間に出てきた。飲み食いもしなかったようだ。

「車できてっからさ。仕事中なんだよ。じゃ、元気でな」

そういうと、さっと帰っていった。

香典袋の裏を見ると 50,000円 と書いてあった。


昔、掃除をしながら、どこに住んでいるかと言う話になって、

小田さんは母親といっしょに小さなアパートに住んでいると言っていたことを覚えている。
確か風呂もなかったと言っていたような…その辺の記憶は少しあいまいではある。

香典の住所を見ると、●●荘と書いてあり、
相変わらずの暮らしぶりなのではないかと察せられる。

そう言えば、叔父さんを病院にお見舞いに行ったとき、掃除時代の話になった。

叔父さんは、「掃除のときの連中も何人かきたよ。こないだは、小田がきた」
と言っていたっけ。

叔父さんは小田さんのことを言うときは昔からうれしそうに言う。

「あいつは人はいいけど、バカだからよ~」とか親しみを込めて
結構ヒドイことも言う。

お見舞いのときも、例によって「小田はさ~」と、うれしそうに言っていたのだが、
ふと「あいつは●●●●ーだからよ」と言ったのでビックリした。

ああ、そうだったのか。


会社勤めをしていると、ずるかったり、いじわるだったり、えばったり、
上を見ると尊敬できない人間が多いし、やはりそれなりに内面が顔つきに表れている。

もちろん、全員ではないけれど、ああはなりたくないなと思う人のほうが多い。

会社では日々そんな感じだが、
今日は、年をとったら小田さんみたいにありたいなと思った。


最近は、本を読んだり、セミナーに出たりして、
これからの時代の変化に思いを馳せたり、今後の自分の生き方を見直したいと
強く思うことが多いのだが、

今日は、子供みたいな目をした小田さんに久しぶりに会って、
セミナーとは、また違った刺激を受けたようだ。

叔父さんには、明日また会いにいく。いよいよお別れだ。


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