制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

子ども手当の所得制限には納税者番号が必要

2009年11月23日 10時22分59秒 | 子ども手当・子育て
NHKの「日曜討論」で、管大臣は、子ども手当に所得制限を設けるべきだという意見が出ていることについて「納税者番号がない段階ではうまくいかない」「国民が直接給付を受けるものには公平性の問題があり、超党派で考えないといけない段階に来ている」などと述べた。さらに、番組終了後、記者団に「納税者番号があれば(所得把握の)事務作業はわりと簡単だが、ないとものすごい作業があり、費用がかかる」と指摘したとのこと。


子ども手当で菅氏 納税者番号制と所得制限一緒に
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/politics/m20091123024.html

子ども手当所得制限、菅国家戦略相が否定的
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091122-567-OYT1T00982.html


子ども手当に所得制限を設けるべきかについては、論点が2つある。

論点の1つめは、そもそも誰の何に対する手当であり、何らかの制限を設けて「選別主義」的な仕組みにするのか、それとも「普遍主義」的にするのかということである。子育て中の世帯の経済的な負担を軽減するための手当ならば、所得に応じた手当の額にすればよい。困っている世帯に重点的に支給するとなれば、狭義・旧来の「福祉」的で、児童手当と何ら変わらない。
この考え方に対して、経済的に困っている世帯の子どもたちは、必要とする保育や教育などを経済的な理由から十分に受けられないとすれば、国として、子育てに必要な費用を支給しようとなる(子ども版のベーシックインカム保障制度)。子どもの権利を国が保障する手当であり、そのために必要な費用なのだから、親の所得などの条件を付けない「普遍主義」的な制度とすべき。子育て中の世帯ならば、誰でも受けられるとアナウンスすることで、申請にあたってのスティグマは払拭できる。

このブログでも書いたように、制度の理念に関わる基本的な考え方を定めなければ、これより先の議論を始められない。論点の2つめは、この議論が決着してから考えるべきことだが、「理念」だけでは制度を設計し、運用することはできない。行ったり来たりしながら、落としどころを探す「現実」的な検討も必要である。

論点の2つめは、所得制限を設けるための仕組みを構築できるのかという現実的なことである。児童手当においては、その世帯の生計維持者が誰か、前年度の所得はどれほどかなどの現況を確認しなければならない(児童手当法 第四条、第五条)。児童手当法を改正・改題して、支給対象を増やすと、市町村の事務負担が大幅に増えることになる。その費用をかけるぐらいならば、全員に支給したほうがよいという考え方もできる。しかし、これでは、民主党が凍結した「子育て応援特別手当」と変わらないし、理念に裏打ちされていないために「経済的に困っている世帯に重点的に支給すべき(困っていない世帯にまで配ると、制度の効果が薄れてしまう)」との意見が残ってしまう。
今回の発言にあった「納税者番号」だが、社会保障番号と紐付けられた共通番号にすること、国民一人ひとりに番号を付与していくことから様々な議論が必要になる。1~2年で決着するような議論ではないし、このブログでも書いたように、「納税者番号ー住民基本台帳番号ー社会保障番号ー各制度固有の番号」を紐付けて運用するための仕組みを構築するのは容易ではない。また、既存のITシステムの大規模な改修・機能追加が必要になる(番号はITシステムの根幹に係るため、影響範囲は大きい。データの不整合を起こさないためにも慎重な検討と準備が必要になる)。仮に、納税者番号の導入が決定したとしても、仕組みを構築するには、それから数年は必要になる。そうなると、マニフェストを実現することなく、次の衆議院選挙を迎えることになる。
しかも、納税者番号の導入を待ってから子ども手当の支給を始めるという選択はできない。最初は全員に支給しておきながら、納税者番号の導入に伴って所得制限を設けるとなれば、国民の反発を招くのは間違いないからである(しかも、その矛先は、納税者番号に向かってしまう)。

民主党内では、このようなジレンマのなかで、どう決着をつけようかと議論していると思われる。