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自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

社会保障カードの実証事業 年金情報の閲覧のみ(実験の意味なし?)

2009年11月19日 10時13分54秒 | 情報化・IT化
事業仕分けに関連して「社会保障カード」を取り上げた。どちらの関心が高いのかわからないが、PVが急増する。国民に広く知られているものではないので、社会保障カードの関係者が多いと思うが。
社会保障カードが「予算計上見送り」と仕分けられ、実現の可能性が遠のいたことから、7地域に動揺が広がっている。そのためか、噂話程度で裏づけはないが、公開しておいたほうがよい情報を頂くことができた(星の数ほどあるブログの1つとはいえ、後々に検証できるように)。

実証事業は、以下の7地域で実施されている。

医療法人鉄蕉会(千葉県鴨川市)
株式会社日立製作所(三重県名張市)
株式会社サイバーリンクス(和歌山県海南市)
社団法人出雲医師会(島根県出雲市)
株式会社システム環境研究所(香川県高松市)
国立大学法人九州大学(福岡県前原市・大野城市)
株式会社NTTデータ(長崎県大村市)

厚生労働省
「社会保障カード(仮称)の制度設計に向けた検討のための実証事業」の受託者及び実証地域について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/09/h0909-1.html


なお、8月の受託者は、日本システムサイエンス株式会社である(このブログにコメントを頂いた。厚生労働省のホームページには、「各受託者」とあるので、別の会社や人が絡んでいるかもしれない。いずれにせよ、追及があったように、不適切で不透明な関係が疑われる契約である)。
また、実証事業の狙いは、

・中継データベースなどの情報連携の仕組みが機能すること
・社会保障カードが便利なものであることを利用者に実感してもらうこと
・社会保障カードを導入するにあたっての課題を抽出すること
・実証事業後も、社会保障カードの活用のモデルとして機能すること

である。
しかしながら、この実証事業で導入される社会保障カードでアクセスできるのは、構築する仕組みに接続された年金データベースのみ。閲覧できる情報項目は、ねんきん定期便と同一。医療保険や介護保険の被保険者証としては使えないというものらしい。その程度ならば、社会保険庁が提供している仕組みを使えばよい。利用者に申し込んでもらい、ユーザIDとパスワードを発行してもらえば、0円。ICカードと仕組みの構築に20億円もかけずに済む。

社会保険庁
年金個人情報提供サービス(手続きの流れ)
https://www3.idpass-net.sia.go.jp/neko/service/s00002.html

事業仕分けのやりとりでは、年金記録の確認には「年金通帳」を使う方針とはいえ、社会保障カードは、年金記録をオンラインで閲覧できるだけでなく、医療保険や介護保険の被保険者証としても使えるとのことであった。政策統括官がそのように答えながらも、導入に向けての実証事業では、被保険者証として使う際の課題を抽出することすら考えられていないというのは、あまりにもお粗末。健康情報にアクセスできるようにするコンソーシアムはあるらしいが、1990年代初めの保健医療ICカード事業と大差ない程度。五色町や加古川市などが有名だが、ほとんどの地域では普及することなく失敗に終わっている(当時の様子は、神戸新聞社のホームページに残っている)。
しかも、8月には、「年金加入記録や、医療機関を受診した際のレセプトや特定健診の情報も閲覧できる」と発表している(共同通信社が勝手に書いたこと?)。仕様書を出して公募しているのだから、年金情報の閲覧のみしかできないことはわかっていたはずである。

実証事業は、来年7月まで。来年度の秋には、日本システムサイエンス株式会社と7つのコンソーシアムから報告書が出され、公開されることになる。このまま続行して、報告書に「社会保障カードで年金記録を閲覧できるようになって便利になった(民主党の考える年金通帳なんて要らない)」とでも書いて、長妻大臣に報告するつもりなのだろうか。
決定からまだ2ヶ月少々。どの地域も、まだ利用者を募集するに至っていないと思われる。契約を済ませたから止められないとはいえ、前提条件が大きく変わっているのだから実証事業を続ける意味はないし、何の説明もなく社会保障カードを住民に配ると、(長妻大臣と行政刷新会議に逆らって、厚生労働省が社会保障カードの事業を推進し続けようとしている、のような)変な誤解を生じさせるおそれもある。ここは、7地域にお願いして使っていない分を返してもらい、「年金通帳」のあり方に関する検討にまわしたほうがよいのではないだろうか。