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社会保障カードの「見送り」 厚生労働省の準備不足は明らか

2009年11月16日 10時01分23秒 | 情報化・IT化
先週の事業仕分け2日目、社会保障カードの来年度予算への計上見送りが決定した。並行して検討が進められていた国民電子私書箱は、補正予算の見直し時に執行停止・返納している。衆議院選挙で再び政権が交代し旧来の路線に戻すことになったとしても、今から別の構想がスタートしているだろうから、「国民が1人1枚のICカードを持ち、国が用意するプラットフォームを使い、公的な機関が管理する個人情報にアクセスする」という構想が再浮上する可能性は非常に小さくなったと思われる。

事業仕分けは、無駄が多いと思われる事業を公開の場でカットすることを目的としている。特に今年度は概算予算の圧縮が求められていることから、仕分け人からの厳しい質問が多くみられるが、社会保障カードの説明と質疑応答においては、厚生労働省側の準備不足は明らかであり、最初から諦めていたのか(もしくは、ITのみならず厚生労働省が所管する諸制度や大臣の方針の理解も不十分だった)と思われるほどである。

すべてを聞いていたわけではないが、退職(転職)に伴う医療保険者の異動や被保険者証の扱い、医療機関におけるレセプトの扱いに関する説明には、誤認があるように思えた。また、民主党のマニフェストに書かれていることの読み込みが浅いにも関わらず、「流行のキーワード」を並べた結果として、満足な説明ができず、かえって信頼を失うことになった。「ICカードは何にでも使える」という考え方が仇になったといえる(結局のところ、「何にでも使えるものは、何にでも使えないもの」ということだろう)。
例えば、税・社会保障の「共通番号制度」においては、その番号が公開され、様々な場面で使われることが前提である。例えば、サラリーマンは、就職するときに会社にその番号を知らせ、株を取引するには証券会社に知らせて、いわゆる「納税者番号」として使う。病院にかかれば、受付窓口に知らせて「被保険者番号」として使うことになる。ICカードの中に入れて、番号そのものを見えないようにしようという考え方とは正反対。カードの券面に印字し、特別なハードウェアがなくても使える・伝えられるようにしなければならない情報となる。それにも関わらず、「民主党が考える制度においても、社会保障カード(ICカード)を役立てることができる」と言ってしまったのだから、これらの検討が終わるまで予算計上を見送るようにと判断されても仕方ない。今さら反論しても復活折衝する余地はないだろう。

厚生労働省は、他省庁に先駆けてIT化を進めてきた。例えば、社会保険庁の年金システムを始めとする世界に類をみない巨大なITシステムを次々と企画し、運用してきた(運用はひどいものだったと明らかになったが)。医療分野においても継続的にIT投資がなされ、ようやくレセプトの電子化・オンライン化が実現しようとしている。旧労働省のITシステムを含め、相当なノウハウが蓄積されているはずである。しかしながら、ここ数年のIT化は完全に停滞しているといってよいほどであり、今回の社会保障カードの検討にあたっては、他省庁とはもちろんのこと、省内の調整すら満足にできない状況に陥っていることが明らかになった。

厚生労働省は、思い切ってIT政策を一新し、共通番号制度の実現に向けて検討を進めていってほしい。共通番号を実現するには、財務省や総務省との協議が必要であり、その前に、厚生労働省内の局をまたがって検討を進め、省としての考え方をまとめなければならない。これらは非常に難易度が高く、今回の事業仕分け対応のお粗末さをみると、現在の検討体制では無理がありそうである。
民間の知恵が必要ならば、堂々と使えばよい。しかしながら、これだけの大きな構想になると、「利権」も大きい。事業仕分けの場でも取り上げられ、3日前にコメントでいただいたような不透明・不適切とも疑われかねない業者選定・契約関係(事実を確認したわけでないが)は徹底的に排除すべきだろう。