ドバイ駐在員ノート

一人の中年会社員が、アラブ首長国連邦ドバイで駐在事務所を立ち上げて行く過程で体験し、考えたことの記録。(写真はイメージ)

バベル

2007年03月17日 23時31分51秒 | 観る/聴く
昨日給油のために立ち寄ったガソリンスタンドで、この国では観ることができないだろうと思った映画「バベル」のDVDが売られているのに気づいた。80ディルハムだった。何かの間違いだろうと思っていたら、モール・オブ・ジ・エミレーツのカルフールでも売っていた。79ディルハム。ブログでコメントした責任上(?)購入する。(ちなみに、同じくモール・オブ・ジ・エミレーツのヴァージンでは85ディルハムだった。)

ウェブで調べると日本ではゴールデンウィーク公開とか。「18+」とあるが、全部観終わって、問題のシーンを含めてカットされている形跡はない。女性が裸になるシーンがある映画はこの国では禁止されているのかと思ったら、そうでもないらしい。狐につままれたような感じだ。

付録のメイキングを観る。なぜ日本でなければならなかったかについては、監督が何度も日本を訪れていて日本が好きだからと言うことのようで、日本人ならネガティブイメージで描かれたとしてもクレームをつけないだろうというのは少なくとも第一の理由ではない。役所広司他、演技力に定評がある俳優を使っているし、聴覚障害者の役は、手話通訳者を動員して菊地凛子以外は本物をキャストやエキストラに使ったようだ。菊地凛子達女子高生の溜まり場のロケは渋谷を使っているが、これは現実の渋谷の姿そのもので、偏見とは言えないと思う。(私が長女を渋谷の中学には通わせたくなかったのも、同じ見方をしているからだ)。聴覚障害者がどう感じるかは全く別問題だし、思春期を迎える娘を持つ父親としても考えさせられるが、少なくともハリウッド映画にありがちな売らんかなの姿勢とは一線を画した監督の誠実さを十分に感じることができた。

バベルというのは、旧約聖書の創世記に登場する巨大な塔のことだ。天まで届く塔を人間が建てようとするのをみて、神がそれまで同じ言葉を話していた人間達が互いに意思の疎通ができなくなるよう、別々の言葉を話すようにしたという。

この映画では、モロッコ、メキシコ、日本という3つの舞台で、少なくとも、英語、アラブ語、スペイン語、日本語、それに手話を入れれば5つの言語が話されている。一見ばらばらのように見える物語が、実は偶然によって相互につながっている。少し強引なきらいもあるが、監督は言語や国境によって隔てられている人々が、実は互いに関係していて、なぜなら人類はもともとは同じ言葉で意思の疎通をしていたから、と言いたいのかもしれない。映画は役所広司と娘役の菊地凛子がマンションのベランダで抱き合うシーンで終わる。様々な原因によるミスコミュニケーションの克服が暗示されているように感じた。

蛇足ながら、当地では、「ワールド・トレード・センター」のDVDが同時に発売されている。言うまでもなく、ワールド・トレード・センターは9.11のテロによって倒壊したニュー・ヨークの高層ビルだ。カルフールではプロモのビデオを大型のスクリーンで繰り返し繰り返し流している。実行者の大半はサウジアラビア人だったとされるが、この国のアラブ人はどういう気持ちでこの映画をみるのだろうか。バベルといいワールド・トレード・センターといい、人間の繁栄のシンボルであり後に破壊されることになる点で共通している。折りしも、当地では完成すれば世界一の高さになるという高層ビル「バージュ・ドバイ」を建築中だ。この三つが頭の中で重なって見えた。

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