T県TS火力発電所、二月の寒さは半端では無かった。
だが寒かったのはT県の気候だけでは無かった。
「き、木田くん、こ、これは何の足場なの?」
ミストエリミネータに続いて、煙道の中に入ったとき、小磯がかなり芝居がかって叫んだ。
「…えー、犬用?」
「い、犬用?」
「ちゃあ…」
小磯は目を丸くして大袈裟に驚き、ハルは渋い顔で舌打ちをした。
我々の目の前には、T県の気候に負けないくらい『寒い』足場が構築されていたのだ。
「あの、施工範囲は全面ですよね!?」
私は遅れてマンホールから入って来たTG工業の現場担当者、坂本に言った。
「もちろん全面やけど、何か問題でもあります?」
「思いっ切り有ります」
「ええ?思いっ切り?ホンマかいな」
坂本は思わず笑い出した。
「いやいや、笑い事じゃないですよ。ここは床面も剥離ですよね」
「そうやけど」
「なぜ最初の足場板が、床上80センチの位置なんですか?」
「ええっと…」
坂本は返事に窮する。
「こんなの『犬』しか入れませんよね。彼は身長が180センチなので、まず無理です」
私はハルを指差す。
「がははは、木田君、俺も無理だって!」
そばで話を聞いていた小磯が爆笑し、坂本はヘラヘラと笑い出した。
「坂本さんなら大丈夫かもしれませんが、僕でも無理です」
「いやいやいやいや、木田さんもキツイなぁ。そんなもんワシも無理やわ」
「はぁー」
私はため息を付いた。
「ハハハハ!小磯さん!この足場、一番向こうまで真っ直ぐに走れるよ!」
ハルが笑いながら足場の上をガンガンと走ってきた。
「木田君、この小学校の渡り廊下のような足場は何なの?」
小磯が腕組みをして立ち尽くしている。
「あれほど足場の一段目は1800(ミリ)でお願いしたのに」
私は坂本を恨めしそうに見た。
「いやぁ、すまんなぁ木田さん。でも、足場はH電力が直接地元に出しとるもんやさかい」
坂本にそう言われると、私はそれ以上何も言えなくなった。
「で、木田くん、これ、どうすんの?」
小磯が自分の足の下の足場板をガンガンと蹴った。
「えー、四つんばいになって、背中にガンをくくりつけて…」
「がははは、ふざけんな!」
小磯は笑いながらも、うんざりとした顔をした。床面を剥離するには、足場板を全て外さなければならないからだ。
「坂本さん、足場板は全部外しますからね!」
「ええよ、ええよ、頼みますわ」
坂本は苦笑いをしながら、バツが悪そうに煙道から出て行った。
「とりあえず、エリミネータからやりましょう」
私は小磯とハルをなだめすかし、ミストエリミネータのガラスフレークライニングの剥離を開始することにした。
だが寒かったのはT県の気候だけでは無かった。
「き、木田くん、こ、これは何の足場なの?」
ミストエリミネータに続いて、煙道の中に入ったとき、小磯がかなり芝居がかって叫んだ。
「…えー、犬用?」
「い、犬用?」
「ちゃあ…」
小磯は目を丸くして大袈裟に驚き、ハルは渋い顔で舌打ちをした。
我々の目の前には、T県の気候に負けないくらい『寒い』足場が構築されていたのだ。
「あの、施工範囲は全面ですよね!?」
私は遅れてマンホールから入って来たTG工業の現場担当者、坂本に言った。
「もちろん全面やけど、何か問題でもあります?」
「思いっ切り有ります」
「ええ?思いっ切り?ホンマかいな」
坂本は思わず笑い出した。
「いやいや、笑い事じゃないですよ。ここは床面も剥離ですよね」
「そうやけど」
「なぜ最初の足場板が、床上80センチの位置なんですか?」
「ええっと…」
坂本は返事に窮する。
「こんなの『犬』しか入れませんよね。彼は身長が180センチなので、まず無理です」
私はハルを指差す。
「がははは、木田君、俺も無理だって!」
そばで話を聞いていた小磯が爆笑し、坂本はヘラヘラと笑い出した。
「坂本さんなら大丈夫かもしれませんが、僕でも無理です」
「いやいやいやいや、木田さんもキツイなぁ。そんなもんワシも無理やわ」
「はぁー」
私はため息を付いた。
「ハハハハ!小磯さん!この足場、一番向こうまで真っ直ぐに走れるよ!」
ハルが笑いながら足場の上をガンガンと走ってきた。
「木田君、この小学校の渡り廊下のような足場は何なの?」
小磯が腕組みをして立ち尽くしている。
「あれほど足場の一段目は1800(ミリ)でお願いしたのに」
私は坂本を恨めしそうに見た。
「いやぁ、すまんなぁ木田さん。でも、足場はH電力が直接地元に出しとるもんやさかい」
坂本にそう言われると、私はそれ以上何も言えなくなった。
「で、木田くん、これ、どうすんの?」
小磯が自分の足の下の足場板をガンガンと蹴った。
「えー、四つんばいになって、背中にガンをくくりつけて…」
「がははは、ふざけんな!」
小磯は笑いながらも、うんざりとした顔をした。床面を剥離するには、足場板を全て外さなければならないからだ。
「坂本さん、足場板は全部外しますからね!」
「ええよ、ええよ、頼みますわ」
坂本は苦笑いをしながら、バツが悪そうに煙道から出て行った。
「とりあえず、エリミネータからやりましょう」
私は小磯とハルをなだめすかし、ミストエリミネータのガラスフレークライニングの剥離を開始することにした。