どんぴ帳

チョモランマな内容

マッチョと行こう!ホタルイカの旅(その1)

2010-05-31 22:58:01 | 旅行
 深夜三時半、携帯電話のアラームで目覚め、布団からむっくりと起き上がる。

 車庫から車を出し、ETCカードをセットする。
「うー、ケッタりぃ…」
 眠いので高速道路を制限速度でボーっと走る。外はまだ真っ暗だ。

 名古屋市中心部に到着し、携帯電話でマッチョを呼び出す。
「おう、着いたぞ」
「どこだよ」
「ホテルを出て左、交差点を左折!」
「今行くよ」
 数分後、マッチョがバッグを後部座席に放り込み、助手席に乗り込んで来る。
「悪いな、出掛けにトイレに行きたくなってさ」
「ふははは、大丈夫だよ、お前が三十分遅れてくることは計算に入れてあったからな」
「うははは、ま、とりあえず出発するか!」
 早朝五時、私とマッチョはまたしてもむさ苦しい男二人旅に出発した。

 六時半、最初の目的地である岐阜県の郡上八幡に到着する。


小雨の降る中、川魚を探すマッチョ
 マッチョの希望により、早朝の郡上八幡を散策する。
「あのさ、あんまり歩きたくないんだけど…」
 初っ端から私は弱音を吐く。
「そんなにダメなのかよ?」
「うん、歩行距離十数メートルで、もう足が張ってる」
「かなり来てるな…」
 早くも腰にまで筋疲労が起こり始めるが、朝一は症状が強く出るので我慢するしかない。

 ほとんど無人の街中を散策していると、湧き水の前でカメラをショルダーバッグから取り出そうとしたマッチョが突如叫びだした。
「おわっ、何だか中が大変なことに!」
「何だよ?」
「中が水でビチョビチョだぞ!」
「雨?」
「いや、俺のペットボトルの蓋が緩んでたらしい…」


突如マッチョを襲う浸水パニック!
 傘を投げ出し、ペットボトルを手に慌てるマッチョ!雨とは無関係にバッグの中を水害が襲います。
「フヒャひゃひゃひゃひゃ、クハハハハ!」
 あまりの馬鹿げたその様に、私は笑いが止まらない。カメラで撮影する手がブレてしまい、写真もピンボケだ。
「うわぁ、これはお前、ミネラルウォーターで良かったよぉおおお」
「コーラとかならマジで悲惨だったな」
 早朝から笑わせてくれる男だ。


宗祇水
 この先に湧き水があるらしいのだが、私が歩きたくないのでパス(笑)

 四月中旬を過ぎたにもかかわらず、小雨も降ってかなり気温が低いので、当然トイレも近くなります。
 

バスターミナルの公衆トイレ
 何やら注意書きがあります。


『明るい未来に一歩前進』
 そこまで大げさな話じゃ…、まるで地方自治体のスローガンみたいです。


モ○ゾーとキッコ○の子供?(笑)
 とある工芸品店で発見、あの公式キャラはオスとメスなのか?


モ○ゾーとキッコ○の子供??(笑)
 あまりにも体毛と瞳の色が違うので、四匹とも要遺伝子検査です。
(認知問題を公式サイトに問い合わせたりしないよーに!)


散り始めの桜
 岐阜の山間部は気温が低いので、まだ花が残っています。


滝なのか単なる排水なのか不明
 でも何となくイイ感じ。


いがわこみち
 町の中の用水路に鯉や川魚が泳いでいます。

 郡上八幡を出ると、今度は高山に向かって移動を開始します。


雪がパラつくナイスな天気


非常に鬱陶しい状況
 マッチョのショルダーバッグと財布がデフロスターに干されています。
「なあ、凄く鬱陶しいんだけど…」
「そんなこと言ったって、まだ乾いてないんだよ」
「いいよ、そんなの多少湿ってても、少なくとも俺は困らないからさ」
「ふざけんな!」

 時刻はまだ朝の8時過ぎ、長い一日になりそうです。 


続・くみたてんちゅ(その21・完結)

2010-05-30 02:40:19 | 組立人
 前回は電車で空港まで移動したが、今回はタクシーを利用する。

 佐野は空港まで電車で移動しようと思っていた様子だが、私は佐野に力強く言った。
「タクシーに乗りましょう!金は俺が払います!!」
「いや、金はイイんだけどね…」
 佐野としては赤城の手前、あまり贅沢な移動方法をチョイスしたくなかったのだろうが、すでに私の全身の筋肉は限界点に達している。
「もう1メートルも歩きたくない…」
 それが私の本音だった。


またしても事故に遭遇(左車線)
 中国に来て一週間、事故を見なかった日は無い。それほど交通事故が頻繁に起きている。
 ちなみにこのタクシー運転手は、中国では非常に珍しいジェントルな運転をする正真正銘の『プロドライバー』だった。


全部で六台の玉突き事故
 車間をガンガンに詰めて走っているので、当然追突事故が起きればこの有様。

 空港に到着すると、またしても『ボンバルディア社』の自動制御モノレールに乗り、搭乗口へ向かう。


金属製のつり革
 厳密には革ではなく、金属製の蛇腹に樹脂製の握りが付いている。


中華的サービス精神全開!
 一両に8席しかないシートだが、前側4席中3席を空港職員が占拠(笑)
 しかも若い二人は携帯でしきりにメールを打っている。
 この国に、
「お客様へのサービス精神」
 が根付くにはまだまだ時間がかかりそうです。

 これで後は飛行機に乗るだけだと思っていたら、やはり偉大なる中華人民共和国、すんなりとは飛行機に乗せてくれないらしい。
「おい、タバコを持っているんじゃないのか?」
 私本体(身体)はすんなりと金属探知機を通過したにもかかわらず、手荷物をX線透視装置で監視している空港の男性職員が、モニターを見ながら私に英語で話しかける。
「ノー」
 そもそも私はタバコを吸わない。
「いや、タバコを買っただろう」
「ノーだって…」
 理由は分らないが、何か嫌な予感がする。
「このバッグを開けて中を確認させてもらってもよろしいですか?」
 若い女性職員が私に訊いて来る。
「もちろん」
 若い女性職員が私のデイバッグをガサガサと引っ掻き回し始めた。
「ア…」
 女性職員の手が止まり、ふっと苦笑いを浮かべる。
「もしかしてポッキーじゃねえのか?タバコって」
 角度によってはX線で透視をすればタバコに見えてもおかしくはない。
「お菓子だと思うわ」
 正確には分らないが、彼女は中国語で同僚に『タバコの正体』を伝える。
「・・・」
 X線担当の男性職員は視線を一瞬だけ向けて、軽く頷く。
 ところがこの女性職員、ここで止めればよいのに、さらにガサゴソガサゴソとバッグの中を漁り続ける。
「ア、アア…」
「あ、あら、あ…」
 あろうことかその女性職員、私がスーツケースに移し忘れた『火鍋の素(赤と白の2パック)』を引きずり出してしまった。
「チッ、うかつだったなぁ…」
 よくよく考えればレトルト食品とは言え、中身は立派な『液体』だ。しかも容量は間違いなく100mlを超えている。 
「ガサっ、ガサガサ…」
 女性職員はさらに手を突っ込む。
「まだ漁るのかよ…」
 ウンザリとして私は彼女の行動を眺める。
「ズボッ!」
 彼女はバッグの底から白くて薄い物を引きずり出した。
「は?それはギャツビーの『サラサラ爽快シート』じゃないのか?」
 かなり昔に購入し、バッグの底に放り込んで忘れていたはずの品だ。
「・・・」
「・・・」
 私と女性職員を挟んだ白い机の上には、火鍋の素(二種類)と、ギャツビーのサラサラ爽快シートが置かれ、変な沈黙が流れる。何だか異様な光景だ。
「・・・」
「・・・」
 女性職員はギャツビーのサラサラ爽快シートを手に取り、じっと考える。
「・・・」
「・・・」
 おもむろに女性職員はサラサラ爽快シートを私に向かってズイっ突き出し、思わず私はそれを受け取った。
 女性職員は二つのレトルトを手に取ると、やや申し訳なさそうに英語で言った。
「この火鍋の素は没収になります…」
「・・・」
 私と彼女の間に、『テレパシー的会話』が交わされる。
「それ、どう見ても単なるレトルト食品だよね、しかも中国製の…」
「ええ、それは分ります、お好きなんですね火鍋が、私も好きですよ!でも規則なんですよ…」
(完全な私の妄想ですので、本気にしないよーに!笑)
 私はどうせならギャツビーのサラサラ爽快シートを没収してもらいたかったのだが、やはり規定量を超える液体は見逃してもらえないようだった。

 遅れること数分、私は佐野と赤城に合流した。
「どうした?」
「いや、うっかりスーツケースに移し忘れた火鍋の素をボッシュートされちゃいましたよ」
「あははは、それはうかつだったね」
「ええ、でも味の素のレトルトカレーは箱入りだったんで見落としたみたいですよ」
「無事に通過したんだ」
「ええ、しかし火鍋の素はショックだなぁ…」

 それから1時間後、私は佐野と赤城に見送られ、中部国際空港行きのエアチャイナに乗り込んだ。
 行きに12時間も搭乗を待たされた佐野と赤城は、予想通りに帰りも1時間以上搭乗を待たされ、心からエアチャイナにウンザリとして羽田空港に到着したらしい。

 もう北京はお腹一杯かな(笑)



続・くみたてんちゅ(その20)

2010-05-28 05:08:27 | 組立人

 最終日の昼食も、毎度お馴染みのフードコートに突入する。


パチ物ショッピングセンター
 手前は怪しい衣料品やアクセサリー等の販売、奥にフードコートが入っている。


餃子らしき物体
 やや棒状だけど、味は焼餃子。違和感無く美味しい。


中華製トロピカーナ
 ラベルに『鮮果粒』と書かれている、果肉入りオレンジジュース。


刀削麺
 気軽に注文してみると、意外にも器が大きい。
「な、なんか鍋みたいなんですけど…」
 どう見ても二人前…。
「キーちゃん、向こうのテーブルは女の子が二人で食べてるぞ」
「どーもシェアしながら食べる物らしーですね…」
 味、食感共に、ラーメンと言うよりも『うどん』とに近い。
「…もー食えないですね」
 さすがに『味が薄い中華うどん』を二人前を食べ切ることは出来ず、無念のリタイアをしてしまう。

 食事が終わると、せっかくなので中国の怪しい食材を土産にしようと言う結論に達し、今度はスーパーマーケットに向かって移動を開始する。


驚異的な運搬能力
 黄砂混じりの強風が吹きつける中、大量のダンボールを三輪自転車で運ぶオバサンを発見。


公衆電話
 屋根カバーはオレンジ、電話機本体は黄色、そして受話器は黒色。やたらと派手だ。

 前回の出張以来、久しぶりにスーパーマーケットに入り、じっくりと店内を観察する。


赤い豆腐?
 と思ったら、なんと『鴨血』と『猪血』とパッケージに記載されている。
「これってもしかして?」
「前回ダンと鍋を食べた時の奴か?」
 佐野も気づいた様だ。
「ええ、『猪』って書いてありますけど、これは『豚』のことですよね。あの軟らかいレバーみたいな食感の血を固めた奴ですね」
「そうだな、普通にスーパーに売ってるんだな」
「しかも『鴨の血』までありますよ」
「うーん、凄いね」
 二人で冷蔵ケースの前で深く感心する。たぶん傍から見れば怪しい客だ(笑)


日本米
 まさかの発見、しかも『JA』と書かれている。
「うぉおお、佐野さん、日本の米ですよ!」
「なんか高級品扱いだな」
 誰が買って行くのかは分からないが、どうやら日本米の需要があるらしい。


カレールーも!
 日本米の向かい側の棚にて販売中。
「佐野さん、これってもしかしてバーモントカレーですかね?」
「意外に日本の製品が売られてるなぁ」
「しかも米の向かいにカレー粉なんて、中々ツボを心得てますよねぇ」
 まさか中国のスーパーでこれだけの数の日本商品に出会うとは思っていなかった。
「ほー、なるほどねぇ…」
 手に取って眺めていると、何だか商品のパッケージが色褪せている気がする。
「んー、これは?」
 私の手にあるのは『味の素』のレトルトカレー(中辛)だ。
「佐野さん、今って2010年ですよね」
「おお、そーだな」
「この2009年11月14日って記載、何だと思います?」
「まさか賞味期限が切れてるとか?」
「そーなんですかね?検証の為に買ってみますよ」
「はははは、買うのか」
「ええ、買ってみます」
 他にレトルトの『火鍋の素』等を購入した我々は、続いてセブンイレブンを目指す。
「おお、コレコレ!」
 私は中国製のポッキーや甘い緑茶を購入するとデイパックに詰め込み、ホテルに戻りスーツケースを受け取った。

 あとは空港に移動し、今一つ信用出来ないエアチャイナの飛行機に命を預け、日本に戻るだけだった。

 


続・くみたてんちゅ(その19)

2010-05-25 02:34:13 | 組立人

 翌朝、ホテルのレストランで朝食を摂る。

 今日で帰るのは私と佐野、赤城のW社のメンバー三人だ。
「うぃーっす」
 佐野、そして赤城も眠そうな顔でレストランに現れる。
「おはよーございます」
 佐野の皿にはフレンチトーストと果物程度しか載っていない。
「昨日はあれから随分騒いだんですか?」
「ああ、あれから大騒ぎだったよ、特に佐藤君がね」
 赤城が代わりに答える。
「まさかあんな騒ぎになるとは思ってなかったよなぁ…、佐藤君が全裸になっちゃってさぁ」
「うははは、マジですか?」
「野球拳で盛り上がってさ、最後は全裸でソファに座ってたからな」
 佐野は昨夜の光景を思い出したのか、急に楽しそうに話し出す。
「女の子も脱がしたんですか?」
「いやぁ、女の子は服を着たまま下着だけ脱いでたなぁ」
「部屋に入って来たママが悲鳴を上げてたよね」
「そうそう、意外と純情なんだよな、あのママ」
 佐野と赤城は楽しそうに昨夜のことを話している。
「でも佐藤君がそんなに弾けるタイプだとは思いませんでしたよ」
 私の印象では、どちらかと言うとやや醒めた今時の20代かと思っていたからだ。
「いやいや、かなり楽しそうに遊んでたぞ。俺も野球拳で一回負けただけでいきなりパンツから脱いでやったけどな」
「うははは、そうですか」
 やはり時代は移り変わっても、現場で働く者同士のコミュニケーションは、そういうことが最も効果的らしい。

 朝食を終えて10時前に部屋をチェックアウトし、ロビーのカフェに集合する。
「今からどうしますか?」
 一時間ほど雑談をしたが、フライトまではまだ時間がある。
「土産物でも買いに行くかぁ?」
「そうですね」
 そう言いつつ、私は外を見て苦笑いをした。
「それにしても凄いですね、黄砂…」
 そろそろお昼も近いのに、空の色がどんよりと薄暗く、そして黄色い。


黄色い空
 この日、北京には大量の黄砂が飛来。
 冗談では無く、ガラス窓の向こう側が黄色に見える。
「それにしても凄いね、中国の黄砂は」
「日本に飛んでくる黄砂とは比較にならないよね」
「とにかく粒子がデカイよなぁ」
 地面に降り積もった黄砂は強風が旋風を巻くと、再び黄色い渦となって空へ舞い上がる。
「とりあえずスーツケースをフロントに預けますか?」
「ああ、キーちゃんの怪しい英語力で頼むよ、俺は勘定を済ませるからさ」
 佐野はカフェのキャッシャーに向かい、私は赤城と一緒にフロントに行き、女性中国人スタッフに話し掛ける。
「あい うぉんとぅーごー さいとしーいんぐ!」
 そして、
「バンバン!」
 とスーツケースを軽く叩く。
「アア…」
 すぐに女性中国人スタッフは私の意図を察し、クローク担当の男性スタッフを呼ぶ。
 別に本気で観光に行く訳ではないが、英語なんてきちんと出来なくても中学生(以下の…笑)英語で十分にコミュニケーションは可能だ。
 きっちりと、
「We want you to keep these suitcases. 」
 と言う必要などまったく無い。英語で会話をする場合に一々文法的に適合するかどうかなんて考えていたら、ギャグの一つも言えなくなってしまう。

 大体、日本人の日本語だってきちんと話す人間は案外少ないのだ。
「あ、お姉さん、ほら、あの、あれ、えーとぉ、この辺の名物のさぁ…」
「あ、○○蕎麦のことですか?」
「そうそう、そのナントカ蕎麦の店で、ほら、有名な…」
「テレビでよく紹介される『△△庵』のことでしょうか?」
「あ、それそれ、そこまでのさ…」
「はい、こちらの地図でご案内致しますね!」
 なんて会話をしているオジサンを、よく観光ホテルのフロントで見かけることがある。
 そのオジサンに、
「あなたは日本語をきちんと話せますか?」
 と質問すれば間違いなく、
「あ?当たり前だろう、俺は日本人だぞ!」
 と答えるに決まっている。日本人の使う英語なんて、テキトーで上等だ(笑)

「○×△□?」
 クロークの男性スタッフの英語も異常に怪しいが、何を言っているのかは理解できるので、
「つーおくろっく」
 と答えておく。預り証にサインをして、半券を受け取れば準備完了だ。
「キーちゃん、預かってもらった?」
「ええ、怪しい英語でバッチリです」
 佐野がカフェの支払いを終えて合流する。

 外に出ると寒風と黄砂が吹きつけ、早くもウンザリとする。
「うわぁ、口の中がシャリシャリするぅ…」
「なんか視界が黄色いぞ!」 
 通りを歩いている人も非常に少ない。


ホテル駐車場のアウディ
 黒のピカピカなアウディも、一晩で黄砂パウダーにまみれています。


まるで放置車両
 三日も黄砂が降り積もれば、見事な『野ざらし車両』の出来上がり。 
「こりゃ洗車屋が繁盛する訳だよな…」
 どこの国の人間であろうと、この状態の車を『洗車機』に入れる勇気は無いはずだ。

「とりあえず昼飯か?」
「ええ、もうフードコートでイイですよ」
「じゃ、フードコートね!」

 我々はまたしてもフードコートに向かった。



続・くみたてんちゅ(その18)

2010-05-22 05:07:25 | 組立人
 多くの観光客が行き交う天安門広場で、先行する佐野、赤城、佐藤の三人から大きく遅れ、私はズルズルと足を引きずって歩いていた。
 それはまるで『牛歩戦術』を駆使して採決を妨害する野党議員が如く、実にみっともない歩き様だった。


不法進入(笑)
 進入禁止エリアに迷い込み、バックで逆走するタクシー。

 傍目には、
「あのデブ、何をチンタラ歩いてやがる!」
 という風にしか見えないだろうが、当の本人は大真面目だ。本気で歩いているのだが、どうにも脚の筋肉が硬直してしまい、筋疲労が激しくて歩けないのだ。
 ふと前方を見ると、先行していたはずの三人が路上でタバコを吸っている。三人の前には、路上に設置された吸殻入れが地面から生えていた。
「…先に行っててくれても良かったのに」
「いや、ちょっと一服したかったんだよ」
 佐野なりの気遣いらしい。
「…ツはぁ…」
 すでに立っていること自体が苦しくなって来ている。
「マジでヤバイかも…」
 腰の筋肉も悲鳴を上げている。

 どうにかこうにか駅に着き、地下鉄を乗り継ぎホテルを目指す。


乗換駅
 とても席に座れる状態ではない…。

 ホテル近くの駅に着くと、そこからもさらに歩きだ。
「・・・」
 私の身体の疲労は完全に限界点を超えてしまい、私は右足を引きずりながら歩き続けた。
 完全に置いて行かれたと思っていると、またしても三人は路上の吸殻入れの前でタバコを吸っていた。
「…どーも、すみません」
 なんとなく謝ってしまう。
「どうしたの?右足をやっちゃった?」
 赤城が小声で訊いて来る。
「ええ、まぁ…」
 曖昧な返事で答える。
 ズルズルと歩き、どうにかホテルの前に来ると、三人が私の顔を見る。私は自分から切り出した。
「…いや、今日は疲れたんで部屋に戻ります。お疲れ様でした」
「じゃ、おやすみ!」
「お疲れ様です!」
「明日ね!」
 三人は口々に私に声を掛けながら、そのままスナック『ハッピー』を目指して歩き始めた。
「ふぅ…」
 私はズルズルと足を引きずって部屋にたどり着くと、ダブルベッドの上にダイブした。
「グハぁあああ…」
 しばらくの間そのままベッドの上に転がり、意味不明な呻き声を上げる。

 少しだけ筋肉疲労が回復すると、おもむろにパソコンを起動する。


日○テレビ(在京キー局)を中国で視聴
 『Key Hole TV』を使えば、中国でも日本のテレビを視聴出来ます。
 ただし回線スピードに難があるのか、10分ほどでフリーズしてしまいます。

 気晴らしになるかと思ったが、すぐにフリーズしてイライラするので、ボーっと夜景を眺める。


夜景写真
 ガラス越しに撮影、手ブレも追加(笑)ですっかり怪しい画像になってしまった…。

 そもそも現場の打ち上げに参加しないことなど、今までの自分ではあり得なかった事態だ。
「本当にヤバイな、この身体は…」
 どうやら日本に帰ったら病院に行かなくてはならないらしい。
「あんたね、このまま中国に行ったら死ぬよ!人間ってそういう時期があるんだから、病院に行きな!きっちりと検査しな!」
 とある友人に言われた言葉が頭を過ぎる。
「あははは、そうだね」
 笑って聞き流していたはずなのに、ここに笑えなくなっている自分が存在していた。
「で、一体これはなんの病気なんだ?」
 以前聞いたことのあるヤバそうな病名が頭を過ぎる。
「んー、まさかソレはないよな…」

 私はブツブツと独り言を言いながら、明日の帰国に備えてスーツケースの整理をノロノロと始めたのだった。


 


続・くみたてんちゅ(その17)

2010-05-20 00:55:27 | 組立人
 北京ダックを食べてすっかり満足した我々は、店の外に出た。


賑やかなエリア
 来た時は気にも留めていなかったが、飲食店が集まっているエリアらしい。


ナントカ文化カントカ特色街区
 北京ダックの店は、この特色のあるエリアに存在しているようだ(笑)


派手なビル
 日本じゃ見られない派手ビル、見た目よりも強度は大丈夫なのだろうか…。


LOVE! ガラス張り!!
 中国人はガラス張りのビルが大好きみたいです。

 帰りもタクシーなのかと思いきや、なぜか地下鉄で帰ることになり、全員で駅に向かって歩き出す。
「マジかよ…」
 平地を十数メートル歩くだけで足腰に限界がやって来る私には非常に辛い状況だが、黙って従う。


思えばここからが地獄道
 地下鉄の駅に到着。
「あれ?」
 気づくと7人の集団が、ホーム上で二手に別れていた。
「んー?佐野さん、これからどこに?」
 佐野側には赤城とB社の佐藤が居る。
「ホテルに帰るよ」
「じゃああっちは?」
 ホームの反対側にはB社の新垣、C社の須沢と矢野が電車を待っている。
「あっちもホテルに帰るんだよ」
「…?」
「なぜに二手に?」
「ああ、こっちの方が近いからさ」
「はぁ、そうですか…」
 歩き疲れた私は無条件で佐野チームに加わった。すぐに電車がやって来て、我々は車内に乗り込む。
「佐野さん、どこで降りるんでしたっけ?」
「天安門東か西だな」
「そうですか…」
 疲れた身体と頭で、ぼーっと地下鉄の進路表示を眺める。眺めつつ何か違和感を感じるのだが、まだ判別がつかない。
「・・・」
 しかしいくら脳ミソがフリーズしていても、さすがに『天安門』という文字には見覚えがあった。
「佐野さん、天安門って、紫禁城がある駅ですよね…」
「ああ、そうだよ」
「…んー、天安門ってホテルのある駅と全然違いません?」
「そうだよ」
「…もしかして天安門に向かってるんですか?」
「そうだな」
「…は?」
「ライトアップしてるんだよ、夜は」
「ライトアップぅ?」
 どうやら私はあっさりと佐野に騙されていたらしい。
「それを観に行くんですか?」
「そういうこと!」
「・・・」
 佐野は疲れきっている私の行動パターンを完全に見越して、見事に私を天安門へ誘導したのだった。
「天安門はイイけど、あそこに行くとメチャメチャ歩くんじゃないのか?」
 私は正直ゲンナリとしていた。
「ふぅ…」
 だがここまで来たら諦めるしかないのだろう。私は黙って佐野に従うことにした。


天安門ライトアップバージョン
 うんざりしながら地上に出ると、意外にも綺麗な天安門が出現した。


風になびく国旗
 闇に浮かぶ天安門は、昼間に見るよりも遥かに立派に見える。
「佐野さん、これだけ見れば十分だよね」
「そうだな、中に入る必要性を感じないよな」

 ちなみに夜間はこの門より向こう側には入れません。


予想以上の人出
 ただ門がライトアップしてあるだけなのに、人出は多い。
 ついでに怪しい物売りと、怪しいガイドが道路のあちこちに居る。
「はい、記念のコインあるよぉ」
「明日のガイド、私がやるよ!予約しないか?」
 どこまでも中国人は商魂たくましい人種だ。

 人ごみの中を、佐野と赤城と佐藤はスタスタと歩いて行くが、すでに私の下半身の筋肉は硬直し、パンパンに張っている。それどころか筋肉自体が強烈に痛みを発し始めていた。
「もしかしなくても、このまま隣の駅まで歩くんだよね…」
 私は三人から遅れ始める。本気で歩いても追いつけないのだ。

 私はただひたすらに痛む下半身を引きずりながら、三人の後を追った。
 
 

続・くみたてんちゅ(その16)

2010-05-18 03:29:17 | 組立人
 お仕事は無事に終了し、北京で過ごす最後の夜となった。

 最後の夜はどうするのかと思ったが、佐野の強い希望でとある店に向かうことになった。


ホテルのエントランス
 この雪洞を見るのも明日で最後だ。

 ホテルの前でタクシー二台に分乗し、スナック『ハッピー』のママが予約をしてくれたという飲食店に向かう。


それがこの店


ガラス張りの厨房
 大勢のコックと、大勢のダックたち


スタンバっている北京ダックのみなさん
 首は無いけど、あまりに数が多いのでグロくはありません。いや、非常に旨そうです。
 佐野がスナック『ハッピー』のママに予約をしてもらったのは、そうです『北京ダック』のお店です。


人気店なのか、受付にお客が次々とやって来ます。
 案内役の店員は白のチャイナ服っぽい上着に、黒のスリットスカートにブーツという不思議な制服を着用しています。


なぜかタラバガニ?もあります。
 もうちょっと氷を足した方がイイと思いますけど…。


店内は高級っぽい内装
 白人のお客さんも居ますが、客層の半分以上は『裕福な中国人』らしい。


乾杯
 現場で働く、むさくるしい日本男児(いや、オッサンだ…)が7人、円卓を囲みます(笑)


フォアグラらしい…
 北京ダック用のアヒルの肝臓なのかどうかは不明ですが、結構大量に出てきたので、おそらくそうだろうと勝手に推測。
 味はアン肝よりも淡白だが、やや軽めの歯触りとしつこくない旨みが、とてもビールに合います。


なんか分からないけど肉
 たぶんアヒルの肉だと推測。誰かがオーダーしたらしいが、まあ口に入ればオッケーです。
 噛むと旨みが滲み出る、とっても上質なチャーシューって感じです。


エビチリ
 誰がオーダーしたのかは知らないけど、出てきたら喰らいつきます(笑)
 日本の上品な中華料理店で頂くのと大差ないお味です。


生牡蠣
 誰がオーダーしたのか知りませんが、出てきた以上は食べます(笑)
 日本の牡蠣は白っぽく、味わいに鮮烈な清涼感がありますが、この牡蠣はやや色身がピンクっぽく、クリーミーな歯触りと甘味が強いのが特徴です。

 さて、いよいよワゴンに乗った真打が登場します。


ダックちゃん登場!
 んー、マジで旨そうです。


シェフがきちんとカットしてくれます。


ついに念願の本物登場
 艶々でパリパリの皮が目の前に!
 ちなみに一羽分の皮は、上の画像の皿で三皿分になります。


スタンバイオッケー
 薄餅(薄焼きの小麦粉の皮)に薬味と一緒に載せて巻き、口中に放り込みます。
「おおお…」
 『本場北京で北京ダックを食べている!』という思い込み的調味料もプラスされ、非常に美味です。
 そもそもこのパリパリに焼かれた皮が、実に旨い。
 皆で争うように食べて行きます。


誰も手を付けなかった頭部
 よく見るとちょん切られていたはずの頭部を発見!しかも丁寧に兜割りにされた状態です。
「誰も食べないんだ…」
 中国人が食べられないものを食卓に出すとは思えません。
「ふむ、もしかして脳ミソが旨いのか?」
 頭蓋骨の中の白い部分を箸でつまみ出し、口の中へ放り込みます。
「おお!濃厚で旨いぞ!!」
 意外な発見です。北京ダックのアヒルの脳ミソは、白子のような濃厚な旨さを隠し持っていたのです。
「んー、これはこれは…」
 誰も食べないので、脳ミソは私一人で頂いてしまいました(笑)


スープ
 たぶんアヒルのスープ。非常に濃厚な味わいです。


ゆるい杏仁豆腐みたいなデザート


龍の形に盛られたフルーツ
 以上で終了。

 ちなみに北京ダックは7人で一羽でしたが、それなりに食べ応えがありました。サイドメニューをたくさん頼むと、二、三人で一羽はちょっと食べきれないかもしれません。
 お会計は確か一人120元(約1,700円)程度だったはずです。


帰る時にはさらに混雑
 ウェイティングにもお客さんが溢れていました。予約無しではちょっと難しいかもしれません。

 ここまでは私にとって、とても平和で満足な時間でした(笑)



  
 

続・くみたてんちゅ(その15)

2010-05-15 04:19:24 | 組立人

 気づけば作業最終日、一週間なんてあっという間です。


連結バスに二階建てバス
 中国の交通事情は見ていて飽きません。

 心配していた内側に穴が開いたパネルは、20cm角のアルミ板で穴を塞ぎ、修理完了となっていた。
「すみませんでした…」
 新垣に改めて謝罪をすると、
「うん、まあ、怪我人は出なかったし、これでとりあえずお客さんも納得してくれたからね」
 と言われた。だが、前回の工事の時の件も含め、最終的には私個人の信用は失ったような印象だ。
「はぁ…」
 重い体を引きずりながら、ため息を吐く。

「無いわけ無いだろう?」
 佐野の声が聞こえてくる。
「無いよ、中国には10.5mmのドリルは無いよ!」
 相手はまたしても怪しい中国人社員の金だ。
「10mmのアンカーが存在するのに、無いわけねぇべや」
「大丈夫でしょ、10mmのドリルで」
「揉みながら開けろってか?」
「出来るでしょ?」
「やれって言うならやるけどさ、仕上がりは保証しないよ!」
 佐野は金にそう答えると、首を捻りながら戻って来た。
「赤城ちゃん、適当にやっちまうぞ…」
「了解」
 前回の工事の時から感じていたのだが、佐野は今後のことも考慮して、なんとか客先の中国人スタッフを教育しようと試みている様子だった。
「一度でも適当な工具でなんとかなるって思われると、ずーっとそのままだからな、あいつらは…」
 きちんとした部品を用意して、適正な機材で工事を行う、佐野はそれを中国人スタッフに根付かせようと思っているみたいだった。
「だけど何回言ってもダメなんだよなぁ、脚立一つ用意出来ないもんなぁ、あいつら…」
 佐野は今後もこの客先との付き合いが続くと見て、長期的な視野で考えているみたいだったが、ちっとやそっとじゃ中国人スタッフの意識は変わらないのが現実だ。
「ったくよぉ、手間が掛かってしょうがないよなぁ…」
 佐野がドリルで穴をグリグリと揉みながら開け、ちょん切ったエアホースを挿し込みコンクリートの粉を吹き出す。
「キーちゃん、掃除機は?」
「金さんから借りて来ましたけどねぇ…」
 私はそう答えると、乗用車の掃除に使うような大きさのハンディタイプの掃除機を佐野の前に突き出した。
「…なんだコレは?」
「いやぁ、日本の工事現場で『掃除機』って言えば、普通は『マキタの掃除機』が出てきますよね」
「コレでコンクリートの粉を吸えってか?」
「ええ、壊れてもイイそうですよ」
「イイも何も壊れるだろ…」
 佐野の予想通り、このハンディ掃除機、三つ目の穴を吸い始めると、
「バホッ!」
 という音を立てて、あらぬ場所からコンクリートの粉塵を噴き出し、全く吸わなくなってしまった。
「・・・やっぱりダメでしたね」
「だな・・・」
「古典的ですけど、ホウキとチリトリを用意しましたけど…」
「いや、それで十分だよ」
 私と佐野が話していると、今度は赤城が声を上げる。
「あっ、やっちまった!」
「・・・」
「・・・」
 またですか?という空気が流れる。
「佐野君、頼む!」
 赤城はアンカーを叩いていたハンマーを佐野に手渡した。
「こんなに歪ませちまってから頼まれてもなぁ…」
 佐野はブツブツ言うと、地面から斜めになってしまったアンカーを見て渋い顔をする。
「って言うかさぁ、この中国製アンカー、やけに弱くないか?すでに本体が歪んで来てるもんなぁ…」
 佐野はアンカーを叩きながら修正し、強引に押し込んでいく。
「おあっ、なんじゃこりゃ!?」
 次のアンカーを打ち込むと、今度はいきなりピンが折れてしまう。
「・・・」
「日本製じゃあり得ないよなぁ…」
「もうどうでもイイ気分になってくるな…」
「とにかく強引にでも打ち込んじまうぞ!」

 我々は最後まで中国人気質と中国製品の品質に振り回されたが、何とか作業を終えホテルに戻ったのだった。


続・くみたてんちゅ(その14)

2010-05-12 11:42:01 | 組立人

 食堂で怪しい日本食弁当を食すも、私の気持ちは落ち込んだままだった。


工場前の荒涼とした風景
 いつも以上に殺伐とした気分になります。

 昼食後、すぐに佐野に呼ばれ、天井パネルの取り付けを再開する。
「キーちゃん、頼むよ」
「ええ…」
 正直、佐野が何を考えているのかは量りかねたが、言われるままに作業を開始する。天井クレーンの操作は赤城の仕事だ。
「ハイ、ストップ、そのままスラー(巻き下げの合図)」
 きちんとパネルを枠の部分と平行にして、慎重に落とし込む。佐野はほとんど無言で私の作業を手伝っている。
「佐野さん、次のパネルが上でいいですか?」
「ああ、それでイイよ」
 もう一枚のパネルも慎重に落とし込み、きちんと収める。パネルをきちんと平行に扱えば、下に落とすことなんて絶対にあり得ないのだ。
「次はそっちね」
「はい…」
 佐野は、私の作業に対する考え方を確認しているのか、それとも同じ作業を行わせて汚名を返上させようとしているのか、その表情からは真意が読み取れない。
「はい、じゃあ落とし込みますよ」
「はいよ」
 淡々と作業をこなして行く。
「よし、じゃあ残りの小さいパネルは手でやってくれる?」
「分かりました」
 佐野は淡々とした表情で、機械の上から降りて行ったのだった。


ミネラルウォーターのサーバー
 工場内に数箇所置かれているが、中身が本当にミネラルウォーターかどうかは定かではない(笑)
 タンクの配達人は二個を両手に、三個目は土足で(!)転がしながら新しいタンクを搬入します。 
 

バス亭(?)の人々
 バスが来るのか、何が来るのかは不明です。


オリンピック専用車線?
 高速道路に表示されています。選手団専用の車線だったと推測されます。


戦え!一般人
 横断歩道中央で孤独な戦いを展開中(笑)


戦え!バス野郎
 3車線の道路を完全封鎖!
 何がしたいのか理解不能です。一種の交通テロ(笑)

 ホテルに戻ると、今夜も団体行動で夕食に出かける。
「今日はどこへ?」
「居酒屋に行くみたいですよ」
 B社の佐藤が答える。
「遠くなきゃイイけど…」
 この夜、私の身体はさらに変調を来し、数十メートル歩くだけで足と腰の筋肉が悲鳴を上げ、普通のスピードで歩くことすら出来ない状態になっていた。
「いよいよヤバいなぁ…」
 もう歩けないと思ったその時、ようやく日本風の居酒屋が並ぶ通りに到着した。


赤提灯が暗い通りに浮かぶ…
 なぜか日本風の店が集まっている、謎の通り。

 この夜も私は食事中にウトウトと居眠りを始めてしまい、佐野たちがスナックへ飲みに行くのを尻目に、ヘトヘトになって一人でホテルに戻ることにした。


ホテル近辺の罠(フラッシュ撮影)
 歩道上の暗闇の中、電柱を支えるワイヤーがいきなり張られており、カバー等は一切無しです。
「自転車で突っ込んだら大怪我だな…」
 と思いましたが、中国では自転車と自動車は対等に車道を走っているので、あまり関係ないらしい(笑)
「なんだ、安全じゃん!」

 だんだん思考回路が中国人側にシフトしている気がして、自分自身がちょっと怖いです…。


続・くみたてんちゅ(その13)

2010-05-08 01:45:41 | 組立人

 けが人が出なかったこと、奇跡的に機械本体の損傷が皆無だったこと、落ちたパネル自体の損傷も軽微だったことは、まさに奇跡的な『不幸中の幸い』だった。

「新垣さん、こっちのパネルはそのまま入れちゃって大丈夫?」
 佐野が下部のパネルの被害を確認している新垣に声を掛ける。しゃがみ込んでいた新垣は立ち上がると天井を見上げ、薄い筋のようなパネルの凹みを見て考えている。
「まあ、特に修理が必要って部分では無いですからね」
「かかりの部分はどうだ?」
 佐野が赤城に問い質す。
「ああ、今プライヤーで挟んで直したよ、塗料もほとんど剥げてないし」
 赤城が手でオッケーサインを出す。
「じゃあこのまま吊り直して入れ込んで構わないですか?」
「それは構わないけど、今やっちゃいます?」
 新垣が軽く驚いた顔をする。
「ええ、こいつを入れ込んで午前の作業は終了ですよ」
 そう言うと佐野は天井クレーンのペンダントスイッチを手に取り、新垣に機械の外に出るように促す。
「ウハハハ、木田君、新品の機械なのにいきなり傷物になっちゃったね」
「…ええ、まぁ…」
 天井パネルの上で赤城が無神経なことを口にして私に同意を求めるが、とても笑って答えられる気分ではなかった。
「いやぁ、またB社さんには嫌がられちゃうなぁ…、俺、前も天井パネルを落としちゃってさ、その時は身体を張ってパネルを受け止めようとしてね、指を骨折しちゃったんだよね」
「・・・」
 私は赤城の言葉に耳を疑った。落ち込んでいる私を慰めようとしているのかもしれないが、今は素直にそう受け取れる気分では無い。
「(それで今回もこの有様?だったらもっと慎重に作業しろよ!)」
 心の中で叫んだが、それを口に出すことは出来なかった。私も明らかに同罪だからだ。

 仕切りなおしの作業が始まる。
「準備はいいかぁ?先にそっち側から平行に落とせよ」
 今回は至近距離で、佐野が細かく指示を出す。
「そっちのフックを外せ!」
 三人で慎重に作業を進める。
「よし、降ろして!」
 パネルは、
「ゴトン…」
 という音と軽い振動と一緒に、ようやく所定の位置に収まった。
「ふぅううう…」
 変な緊張感から解放され、一瞬放心する。
「よし、昼飯にするべ…」
 佐野の言葉で我に返り、私と赤城は機械の天井から地上に下りた。
「いやぁ、佐野君、悪い悪い、平行にして落とし込もうと思ったんだけど、予想以上にパネルが回転しちゃってね、あっと思った時には下に落ちちゃってたんだよ」
 赤城が佐野に釈明をする。暗に私のせいだと言っているのか、それとも私を庇っているのか、どちらにも取れるような中途半端な言い方だ。
「だからパネルを平行にしろってあれほど言ったべ、ま、けが人が出なかったのが救いだよ、パネルは直すか交換すればイイ話だからな」
 佐野は淡々と答えると、食堂に向かって歩き出した。

 私は筋肉疲労と萎えた心を引きずりながら食堂に向かい、ノロノロと道路を歩き出したのだった。