どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ100

2008-02-12 23:50:39 | 剥離人
 今日はバキューム車が入る日だ。

 バキューム車と言っても、浄化槽の中身を回収する車では無い。産業廃棄物に該当する汚泥などの回収を行う『強力吸引車』だ。他には『バキュームダンパー車』などとも呼ばれる。
 強力吸引車は、通常のバキューム車とは異なり、吸引部とタンク部が外見上明確に分離されているのが特徴だ。その吸い込み能力は、浄化槽を吸引する4トンクラスのバキューム車(街中でよく見かけるヤツ)とは比較にならないほど強力だ。

「どこから回しますか?」
 バキューム車の運転手がサクションホースを引きずりながら言う。
「建屋の二階、そこの階段からホースを入れてください」
 職人たちも手伝い、タンク最下部のホッパー出口にホースを準備する。
「ゲートお願いします!」
 C電力系列会社の担当者が、最下部の金属製のゲートを少し開くと、中から銅ガラミがザラザラと出て来る。
「グボォオオオ、グバッ、グバッ、ザァアアア」
 サクションホースの中を、銅ガラミが音を立てて流れて行く。
「佐野さん、これってホース内サンドブラストですよね」
「うーん、そうだね」
「そのうち破れますね」
「まあ、元々このホースも古そうだしね」
 時折、ゲートの出口が詰まって出てこなくなるので、職人が鉄棒を突っ込みながら銅ガラミを掻き出す。
 一頻り吸い込むと、運転手から泣きが入った。
「もうこの辺で終わりにしてもイイですか?」
「ん?まだ少し残ってるけど」
「容量は大丈夫なんですけど…」
 佐野が階段を上がって来た。
「木田君、この辺で一旦終了だね」
「タンク一杯ですか?」
「いや、比重の問題だね」
「ん?ああ、ああ、なるほど」
「うん、そういうこと」
 佐野と道路に下りて見ると、バキューム車後部車輪のタイヤサイドが膨らんでいた。
「あは、結構入っちゃいましたね」
「いんにゃ、タンクの容量はまだ結構空いてるはずだよ。まだ容量的には入るよな?」
 佐野が運転手に訊いた。
「ええ、容量はまだ行けますけど、ちょっとこれ以上は…」
 運転手が苦笑いしている。
「銅は比重が大きいからね」
 佐野がタイヤを触って笑っている。
「鉄よりもですか?」
「鉄は7.85、銅は8.9だね」
 佐野は重量屋の前はメッキ屋に居たので、その辺にも詳しい。
「ステンレスよりも重いんですね、銅って」
「うん。タイヤから判断すると、十分に積んでるな」
「ええ、これ以上積むと過積載になっちゃいますね、きっと」
 私は運転手に礼を言うと、吸引作業を終了することにした。

 しばらく経った、二回目の吸引の時だった。バキュームダンパー車のサクションホースが新しい物に変わっていた。
「あれ?ホース変えた?」
「ええ」
 運転手がホースを引きずりながら答える。
「これ、耐磨耗のサクションホースだよね」
 通常のサクションホースは、補強リング部がオレンジ色で、ホース部は樹脂の半透明色だが、耐磨耗サクションホースは、樹脂部が黒色だ。
「いいねぇ、これやっぱり違う?」
 我々も同じくサクションホースを使用するので、耐磨耗サクションホースの使用感は知っておきたい。
「まだ使い始めてちょっとしか経ってないんですけど、丈夫だと思いますよ。でも、前のよりも少し重いのと、『しなり』も悪い気がしますね」
「そうなんだ」
 耐磨耗サクションホースの導入を検討していたのだが、取り回しが悪いのは頂けない。
「ところで、ホースを換えたのはウチの工事のせいかなぁ?」
 運転手は苦笑いをした。
「いえ、そういう訳では…、前のホースもかなり使っていましたから」
「あ、そう、それならいいけど」
 私はそう言うと佐野のそばに行った。
「ウチのせいですよね?」
「はははは、まあ、確かに古いホースだったけど、止めを刺したのは間違いないね」
「ちょっと悪い気がしますね」
「まあ、こっちも『銅ガラミだよ』って言って仕事を出したんでしょ」
「ええ」
「そう思ったら、次にダンパー車が必要な時にも仕事を出せばいいんだよ」
「そうですね」

 なぜか佐野の言葉を聞くと、私は安心することが出来た。