私とMがあちこちの各駅停車に乗っていた頃、まだまだ電車の中のトイレは汚かった記憶があります。
トイレの重厚な金属製の扉は、
「ガラガラガラガラ、ドンガッヂャん!」
と豪快に戸車の音を響かせる引き戸タイプだったし、ドアのロックは取り外して指先に装着すれば、今すぐにでもショッカーの怪人として活躍できそうな『鉄の爪』タイプが基本でした。
便器は寒々しいステンレス製が大半で、排水口には、
「パタコン…、パタコン…」
と、なんとも言えない哀れさを誘うゴム製の蓋が装着されている物が多かったです。
もちろん列車の貯水タンク容量には限りがあるので、足元の金属製ペダルを踏み込むと、恐ろしく濃厚な青色の消臭消毒液が流れ出すタイプが主流で、クレゾールっぽいその臭気は、車のアクセルペダルを小型化したようなペダルを踏み込む度に、
「ああ、俺は今列車のクッさいトイレにいるんだなぁ…」
と再認識させてくれる程の臭気パワーがありました。
そしてその中でも最も強烈だったのが、非電化区間を走っていた車輌に多く搭載されていた『列車用ボットン便所』でした。
この列車用ボットン便所には、排水口の、
「パタコン…、パタコン…」
とする蓋が無く、代わりにキッチンの排水口にあるような『菊割り』と呼ばれる、中心部に向かって切込みが入ったゴムパーツが採用されていました。
この菊割りゴム、色は黒が多く、次に濃い茶色が多かったように記憶しています。そしてこのゴムが古ければ古いほど、見えるんですよねぇ、線路が。
ついでに外の音もよーく聴こえます。
「タトンタトン、タトンタトン、タトンタトン…」
という音が、便器の真下から!(笑)
しかも見えますから、しっかりと枕木が!便器の、いや、股間の真下で枕木が、もうビュンビュンと流れて行きます。
非電化区間の列車ですので、エアコンなんて気の利いた装備はありません。夏はトイレで汗ダクダク、冬はトイレで冷えてブルブルです。
特に真冬の雪国では冷たい空気が排水口から入り込み、お尻の表面と下っ腹が冷え冷えになりますが、排水口から見える白い雪と、黒い枕木、そしてそこに落ちて行く自分の糞尿という景色は非常に趣がありますので、
「いとをかし…」
と呟いて見るのも旅情があって良いものでした。(嘘です、呟きませんでした…)
「使用中にトンネルに入ると、風圧で糞尿が吹き上がるんだよ!」
なんて噂もあったみたいですが、それはあくまでも噂だと思います。
何度か使用中にトンネルに入りましたが、列車の下部に対する気流の変化は微小らしく、せいぜい尿が車体に付着する程度だと思われます。
もちろん特急みたいに高速だったり、複線化していてトンネル内で列車同士がすれ違った場合は分りませんが、非電化区間のディーゼル車輌はほとんどの場合は単線区間が多く、また速度もさほど出ているとは思えません。特殊な事例を除いては、糞尿が室内にまで逆流することは無かったはずです。
個人的には、トンネルよりも橋梁上で排便をするのが大好きでした。
橋梁上で排便をすると、狭い空間に居ながらも、実に雄大な気分になれるからです。
特に夏場の渓流の上、自分の尻から川面までの距離は十数メートル、エメラルドグリーンの清流にダイブしていく自分の糞尿の雄姿は、とても感動的な光景でした。
今では許されない状況ですが、当時はそれが非電化区間でのスタンダードなトイレ事情でした。
そんな素敵な列車のボットン便所でしたが、ただ一点、とても大切なお約束がありました。
それは、冷静に考えれば当たり前のことです。
『駅に停車中は、トイレを使用しないで下さい』
列車内ボットン便所の便器の前には、必ずこの文章が大きく掲示されていました。
もちろん私はきちんとルールを守る好青年でしたので、不覚にも排便中に列車が駅に停車してしまった場合、必死で我慢をしていました。
まあ、少量のオシッコくらいはチョロチョロとしちゃっていましたけど…(笑)
ちなみに現在では、線路の枕木が見えるようなトイレは、ほぼ絶滅していると思われます。
もしこのレッドデータブックに載りそうな『列車用ボットン便所』が生き残っている路線がありましたら、是非ご一報下さい。
私が『列車用ボットン便所探索隊』を結成し、自分の股間写真と一緒にこのブログにアップしたいと思っております!(笑)