どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ109

2008-02-21 23:42:30 | 剥離人
 翌日、ミストエリミネータの剥離作業が午前中で完了したので、剥離片を四人で回収することにする。

「さ、ガラ(剥離片)出しやりますよ!」
 正直、全く気分が乗らないが、明るく振舞って作業を開始する。
「木田君、こんなの職人の仕事じゃないよ!」
 小磯は私にブーブーと文句を言ったが、仕事に含まれているので仕方が無かった。四人で土嚢袋に剥離片を詰めると、今度は歩廊のステージから下に土嚢を降ろさなければならない。
 仕事を始める時に設置した電動ウインチと、ナイロン製の『もっこ(ナイロンベルト{本来は縄}が網状に編んであり、四隅に吊り輪が付いている物)』を使って、土嚢袋を地面に降ろす。
「おらぁハル、次行くぞー!」
 小磯は率先してウインチの操作係を買って出て、加納と一緒にもっこに土嚢袋を詰め込み、ステージから降ろして来る。
「小磯さん、そんなに一度に降ろさなくてもイイですから!」
「がはははは、ちまちまとなんかやってられるか!」
 小磯は私の言うことを聞かず、もっこに土嚢袋を詰め込む。加納も苦笑いをしながら手伝っている。
「カチッ!ウイィイイイン」
 土嚢を満載したもっこが降りて来る。満載しすぎて土嚢袋が落ちそうだ。
「ハルさん、危ないから避けて下さいね」
 私はリヤカーに積んだ土嚢袋を整理していたハルに、声を掛けた。
「え?何が?」
「あっ!」
「ドシャッ!」
 もっこから土嚢袋がこぼれ落ち、ハルの近くに落下した。
「うわぁ!危ないよぉ、小磯さん!!」
「がはははは、悪いハル!ちょっと積みすぎちまった」
 小磯は大して反省するでもなく、笑っている。
「後で小磯さんにお仕置きをしないとね」
 ハルがボソッと私に言った。

 リヤカーが満杯になると、指定された場所まで運ばなければならない。リヤカーは土嚢袋の重さで、タイヤが潰れそうだ。
「ほら、小磯さんが前だよ」
 ハルが小磯を促す。
「ああ?前は重いだろう」
「ダメだよ、小磯さんはさっきハルちゃんに土嚢をぶつけようとしたからね」
 ハルは小磯にペナルティを突き付けて、リヤカーを引かせようとしていた。
「分かったよ、ハル」
 小磯は苦笑いをするとリヤカーの手を持ち、ゆっくりとリヤカーを引き始めた。
「すっげぇ重いぞ!」
 タイヤが潰れかけているせいもあり、ゆっくりとしかリヤカーが動かない。
「小磯さん、押してあげようか?」
 ハルがニヤニヤとしながら小磯に声を掛けた。
「おう、ちょっと押してくれ!」
 小磯が不用意に返事をした。
 ハルはニヤリと笑うと、ガッシリとリヤカーのボディをつかみ、力強く後ろから押し出した。
「お?おお?おおぉ!?」
 リヤカーのスピードが徐々に上がる。
「おい、待て待て待て!」
 さらにスピードが上がる。
「危ねぇ、危ねぇって!」
 小磯の脚がバタつく。
「そうりゃあ!」
 ハルが一気にリヤカーを突き放した。
「おおおお!」
 小磯は慌ててリヤカーを放り出すと、リヤカーの手を飛び越して脇に逃げた。
「ガアアアアアッ!」
 土嚢を満載したまま引き手の居なくなったリヤカーは、アスファルトの地面と接触して、火花を散らしながら数メートル滑走した。
「ひゃははははは!」
「ははははは!」
「はっはっはっはっ!」
 小磯以外の三人は、腹がよじれるほど笑っている。特にハルは、地面に転がって笑い転げている。当の小磯は、リヤカーから飛び退いたときに脚をもつれさせ、リヤカーと同じく地面に転がって居た。
「は、ハル!も、もうちょっと死んじゃうところだったぞ!」
 小磯は呆れて笑いながら、ハルに文句を言った。
「あんたら無茶苦茶やなぁ」
 加納も笑ってはいるが、すっかり呆れている。

 たまにはバカ笑いも必要だが、発電所の安全担当者に見つからなくて、私はほっとした。