当たり前だが、会話の内容は全て中国語だ。
「…わからん」
私一人がまるで蚊帳の外だ。心なしかお気に入りのシュウユの手の動きも、なんだかおざなりな様な気がする。
少しだけ孤独を感じる私を意に介さず、合計五人の中国人はかなり盛り上がっている。
「うひゃひゃひゃ!」
マッサージが終わったマイケルが、一人のマッサージ嬢に強引に抱きついた。
「いやぁ!」
と中国語で叫びながらも、当の彼女もまんざらでも無さそうだ。
「これ、電話番号」
ダンとマイケルはいつのまにか名刺を手渡している。
「…く、負けた」
やはり言語の壁は厚い気がする。
傷心の私はマッサージ店を出ると、そのままスナックの店内へ移動する。
「ハイハイ、こっちね、ここに皆さんいるからね」
早口でしゃべる華原朋美似のママの案内で部屋に入ると、すでに佐野と新垣がソファに座っていた。
「お、こっちは始めてるよ」
「いやぁ、マッサージは良かったよ、特にあの瓶を使ったのは気持ちイイよね」
新垣はガラス瓶を使った足裏マッサージを思い出したのか、顔を弛ませている。
「でもさ、こっちの部屋はマッサージは二人とも男だったんだよ、最初は女の子が居たのにさ」
佐野が不満げに言う。
「あははは…」
その女の子を強引に変えさせたのは私だ。
ダンとマイケルもソファに座ると、ママが女の子たちを引き連れて再び部屋に入って来た。
スナックと言っても、この店はカラオケボックスの様な部屋が何部屋もあり、大きい部屋は十数人が入れる大きさになっている。もちろんカラオケセットが用意されており、歌詞も日本語が表示される。
「ハイ、アサヒねぇ」
ドリンクはビールやウーロン茶、ウイスキーやソフトドリンクがあるが、大半は缶で出てくる。店の女の子たちはその缶を開けると、氷の入ったグラスにそれを注ぐだけで、非常に簡単なサービス体制だ。
「ハイ、今日は一人一人選んでもらってイイからねぇ!」
山瀬まみにそっくりなチーママが、能天気にはしゃいでいる。
「私でしょ!」
佐野の隣には、いつも佐野が指名する原田知世に似た女の子が座る。簡単な日本語なら話せる子だ。
新垣とダン、マイケルもそれぞれ女の子を選び、最後に私の番になった。
「うーん…」
まだ私の前には三人の女の子が残っている。
「じゃ、この子ね!」
私は新垣結衣に似た女の子を選んだ。
「あ、この子はね、日本語全然しゃべれないよ」
ママが私に説明する。
「英語は?」
「英語も全然ダメだよ」
「じゃ、中国語は?」
ママが爆笑する。
「大丈夫?まだ新人だからね」
「大丈夫、大丈夫、なんとかなるよ」
私は自分のソファの隣をバンバンと叩いた。
「しつれします」
たどたどしい日本語と共に、その子はおそるおそる私の横に座った。