どんぴ帳

チョモランマな内容

くみたてんちゅ(その44)

2009-09-30 02:41:25 | 組立人
 マッサージが始まると、ダンとマイケル、三人のマッサージ嬢は楽しそうに話し出した。

 当たり前だが、会話の内容は全て中国語だ。
「…わからん」
 私一人がまるで蚊帳の外だ。心なしかお気に入りのシュウユの手の動きも、なんだかおざなりな様な気がする。
 少しだけ孤独を感じる私を意に介さず、合計五人の中国人はかなり盛り上がっている。
「うひゃひゃひゃ!」
 マッサージが終わったマイケルが、一人のマッサージ嬢に強引に抱きついた。
「いやぁ!」
 と中国語で叫びながらも、当の彼女もまんざらでも無さそうだ。
「これ、電話番号」
 ダンとマイケルはいつのまにか名刺を手渡している。
「…く、負けた」
 やはり言語の壁は厚い気がする。

 傷心の私はマッサージ店を出ると、そのままスナックの店内へ移動する。
「ハイハイ、こっちね、ここに皆さんいるからね」
 早口でしゃべる華原朋美似のママの案内で部屋に入ると、すでに佐野と新垣がソファに座っていた。
「お、こっちは始めてるよ」
「いやぁ、マッサージは良かったよ、特にあの瓶を使ったのは気持ちイイよね」
 新垣はガラス瓶を使った足裏マッサージを思い出したのか、顔を弛ませている。
「でもさ、こっちの部屋はマッサージは二人とも男だったんだよ、最初は女の子が居たのにさ」
 佐野が不満げに言う。
「あははは…」
 その女の子を強引に変えさせたのは私だ。

 ダンとマイケルもソファに座ると、ママが女の子たちを引き連れて再び部屋に入って来た。
 スナックと言っても、この店はカラオケボックスの様な部屋が何部屋もあり、大きい部屋は十数人が入れる大きさになっている。もちろんカラオケセットが用意されており、歌詞も日本語が表示される。
「ハイ、アサヒねぇ」
 ドリンクはビールやウーロン茶、ウイスキーやソフトドリンクがあるが、大半は缶で出てくる。店の女の子たちはその缶を開けると、氷の入ったグラスにそれを注ぐだけで、非常に簡単なサービス体制だ。
「ハイ、今日は一人一人選んでもらってイイからねぇ!」
 山瀬まみにそっくりなチーママが、能天気にはしゃいでいる。
「私でしょ!」
 佐野の隣には、いつも佐野が指名する原田知世に似た女の子が座る。簡単な日本語なら話せる子だ。
 新垣とダン、マイケルもそれぞれ女の子を選び、最後に私の番になった。
「うーん…」
 まだ私の前には三人の女の子が残っている。
「じゃ、この子ね!」
 私は新垣結衣に似た女の子を選んだ。
「あ、この子はね、日本語全然しゃべれないよ」
 ママが私に説明する。
「英語は?」
「英語も全然ダメだよ」
「じゃ、中国語は?」
 ママが爆笑する。
「大丈夫?まだ新人だからね」
「大丈夫、大丈夫、なんとかなるよ」
 私は自分のソファの隣をバンバンと叩いた。
「しつれします」

 たどたどしい日本語と共に、その子はおそるおそる私の横に座った。


くみたてんちゅ(その43)

2009-09-26 01:27:37 | 組立人

 ダンが鍋奉行を務めた夕食の代金は、驚いたことにダンが支払った。

「なんか悪いなぁ」
 店内の階段を下りながら、清水がつぶやく。
「じゃあ、飲み代は俺が出すよ」
 佐野が提案する。
「ダンとマイケルを連れてくの?」
「さすがにご馳走になるだけってのはな…」
 佐野を先頭にして、六人でホテルに向かって歩き出す。
「おいマイケル、綺麗なお姉ちゃんがいる店に行くぞ!」
 佐野が酔ってご機嫌なマイケルに話し掛ける。
「マッサージ?マッサージ?」
 マイケルが目を輝かせる。
「違うよ、マッサージは木田君の守備範囲だよ」
 佐野が話を振ってくる。
「イイですよ、どうせマッサージに行こうと思ってたんで、僕がダンとマイケルをマッサージに連れて行きますよ」
 危険な通りの横断歩道を歩きながら、佐野に答える。
 ホテルの前まで来ると、疲れが溜まっている清水が一人で部屋に戻り、五人で再び歩き出す。

 セブンイレブン手前の建物の、やや広めな階段を上り始めると、すぐに階段の上から声が降ってきた。
「あ、いらしゃいませぇ!今日は人数が多いねぇ、何人?五人?」
 やや早口な日本語をまくしたて、華原朋美に似たママが近寄って来る。店の入口の扉はいつも開け放たれ、階段の上の通路では客に付いていない女の子たちがたむろしながら話しており、誰かが店の階段を上がって来ると、女の子たちはすぐに明るく声を掛けるのだ。
「行くよ、後でね、今日はまず全員マッサージね」
 佐野が代表してママに答える。
「マッサージするの?」
「おお、疲れを取ってからな」
「じゃ、待ってるからねぇ」
 ママが手を振って我々をマッサージ店に送り出す。もっとも距離は数メートルだが。

 スナックの隣にあるマッサージ店は、スタッフ全員がきちんと専門学校で資格を取得した、正真正銘の健全なマッサージ店だ。
「隣はとても真面目なマッサジの店ダヨ」
 スナックのママの紹介で、ほとんど英語が通じないマッサージ店に、私は通っていた
「ショウユはいる?」
 私は唯一英語が通じる受付の女の子に声を掛ける。
「はい、居ますよ」
 受付の女の子が笑顔で答える。
「俺にはショウユを付けてね」
「分かりました」
 私はお気に入りのマッサージ嬢を付けるように念を押すと、案内に従って店内に進む。
「俺たちもここでいいのか?」
 一つ目の部屋には私とダンとマイケルが案内された。マッサージ用のベッドが三台置かれており、ダンとマイケルはウキウキとしている。
 しばらくすると、薄いオレンジ色のTシャツを着た女の子が二人、部屋に入って来た。一人は前にも見たことのある子だ。
「ショウユはまだか…」
 私の指名したショウユはまだ来ない。
「じゃ、そっちの二人ね」
 どうせ英語も通じないので、日本語で言いながら指をさす。
「俺とマイケルでいいのか?」
 ダンが訊いてくるので、もちろんだと答える。その時だった、部屋の扉が開くと、黒いパンツと白いシャツを着た男が入って来た。
「…は?」
 思わず私は絶句する。
「ウハハハハ!」
「ヒャヒャヒャヒャ!」
 ダンとマイケルが爆笑している。
「君が俺の担当?」
 眼鏡をかけた大人しそうな若い男は、三人の客の反応を見て明らかに困惑している。
「ショウユは?」
 私の言葉の意味が分かったのか、男のマッサージ師はさらにうろたえる。
 だがそこへ受付の女の子がタイミング良くやって来た。
「何かありましたか?」
 私は迷わず答える。
「ショウユを呼んでよ!」
 受付の女の子は隣の佐野と新垣の部屋を覗き、困った顔で答えた。
「あの、そうすると隣の部屋は男性のマッサージ師が二人になりますが…」
 彼女なりにバランスを考えているのだろう。
「ノープロブレムだよ、とにかくショウユはこっちね!」
 本当にそれでイイのか?という顔をしながら、受付の女の子はショウユと男のマッサージ師を入れ替えた。
「ヒャッホー、ショウユ!」
 私は小柄で可愛いショウユに手を振る。ショウユはいつもの様にニコニコと笑っている。
「あっちは男二人で、こっちが女の子三人?」
 マイケルがニヤニヤしている。
「もちろんだ、何が何でもショウユはこっちだ」
 私の言葉を聞いて、ダンとマイケルは再び大笑いをした。

 私は、風俗嬢とホステスに対するこだわりは持ち合わせていないが、マッサージ嬢は絶対に譲らない人生方針である。


雑食王(その16)

2009-09-25 02:57:59 | 何でも食べちゃう

 三重県にとある変わった牧場がある。

 その名も『エスカルゴ牧場』だ。
 エスカルゴとは、つまりはフランスのカタツムリだ。
 そしてこのフランス産カタツムリを養殖しているのは、なんと鉄工所の社長だ。
 
 どうして鉄工所の社長がカタツムリの養殖を始めたのかは分からないが、世界で初めてエスカルゴの、それも本物の『ブルゴーニュ種』の養殖に成功したらしい。
 ちなみに我々が今までに食べたことのあるエスカルゴは、99パーセント以上の確立で偽物です。鉄工所のパワフルな社長が言うのだから間違いありません(笑)
 我々が今までエスカルゴと思って食べていたのは、『リンゴマイマイ』とか『プティグリ』という別物です。フランス人が本当に愛しているエスカルゴは、『ブルゴーニュ種』というただ一種の本物だけです。


ブルゴーニュ種のエスカルゴ料理
 いきなり半分食べちゃってます、なんで待てないんだか…。


トーストしたパンの上に載せます。
 想像していたよりも、見た目はイケます。
「おおっ、これは美味い!特にこのエスカルゴバターは秀逸だなぁ、しかも身には何の臭みも無いし、エスカルゴバターを受け止めるだけの力強さもあるし…」
「うん、そうだね…」
 一緒に行ったR社元上司のフセイン氏は、返事もそこそこにパクついています。


生野菜のサラダ
 なんと全部自家製らしい。驚異的なのはパセリで、全然臭くありません。
「これ、パセリ?」
 疑うほどの味わいです。嫌な苦味は一切無く、軽やかな香りが鼻口を抜けていきます。
「農薬を使うから苦くて喰えん味になるんだよ」
 ホールに鉄工所の社長が登場。
「じゃあ、害虫はどうしてるんですか?」
「全部手で取り除くの」
「・・・」
 非常にシンプルなお答えでした。
「このパセリと、自家製のエシャロットがあるからエスカルゴバターも美味いんだよ!」
「エスカルゴバターもこちらで?」
「もちろんだよ」
 胃を全摘したという鉄工所の社長ですが、メチャメチャパワフルです。

「じゃ、案内するからね!」
 食事の後は、エスカルゴ牧場の見学です。
「これが繁殖場、毎日産んだ卵の数を記録するの、毎日だよ」
 エスカルゴの生育に最適な環境を土から作り出し、温度湿度を管理した建物の中で、社長は毎日エスカルゴに卵を産ませています。
「こっちがエスカルゴを育てとる場所ね」
 こちらも建屋の中で温度湿度を管理して、プラスチックケースの中でエスカルゴが育っています。このプラスチックケースは金属の枠に三個づつ収められていて、それが四段ほどのラックになっています。そしてそのラックがさらに三本のラインを形成しています。
「作業は効率が大事やからな」
 ラックとラックの間には、作業用の稼動台が設置されていて、キャスターによって端から端まで移動できます。実際の作業時にはこの稼動台の上に、これまたキャスター付きの金属枠を横にスライドさせると、三個のプラスチックケースが現れます。
「まるで物流倉庫だな…」
 まさしくこれは鉄工所の本業を活かしたシステムです。
「今までに7億は投資したねぇ…」
 社長は口にしますが、本業が鉄工所でなければそれじゃあ済まない感じです。
「本物の味を知ってもらいたいんだよ」
 社長は熱く語ります。とにかくこの社長、キャラが濃いです、もうギラギラしてます。正直、鬱陶しいくらいに熱い人です(笑)


でもブルゴーニュ種はとってもカワイイ!
 上の小さいのは、生まれて数週間の赤ちゃんです。ブルゴーニュ種は真っ白で柔らかく、とってもキュートです。
「ペットとして売って下さい!」
 という申し出も業者からあるそうですが、迷わず断っているそうです。

 美味しい本物のエスカルゴを味わい、鉄工所の熱いオヤジの話が聞きたい方は、是非とも行ってみて下さい(笑)


U氏はコリアを走ってる

2009-09-23 23:34:55 | 北海道一周(その後)
 再びドイツ人チャリダーU氏からメールが来ました。

 やあ、どんぴ!色々と情報をくれてありがとう。
 あれから私はずっと折りたたみ自転車について考えている。私のガールフレンドが自転車に乗るのは実質的に二週間だからだ。
 ドイツから日本に自転車を空輸すると、航空会社に片道80ユーロ(約10,800円)もの追加運賃を払わなければならない。しかも鹿児島から沖縄に向かうフェリーでも自転車の運賃が必要になる。
 私は折りたたみ自転車を鹿児島で買うことが、一番安上がりだと思ってるんだ。沖縄の道路はあまりアップダウンが無いと思うので、ギアも三段か五段で十分だと思う。もっとも鹿児島で自転車を売っている店を見つけなければならないんだけどね。
 日曜日(20日)には、私はソウルへ向かう予定だ。
 どんぴ、キミは元気にやっているのか?まだ自転車には乗っているのかい?それても仕事に追われているのかい? 
 Uより

 実はU氏、この前のメールで私に伝えて来ました。
「近いうちにソウルに入り、韓国を縦断して日本に入るつもりなんだ。ガールフレンドとは鹿児島で合流して、沖縄を一緒に走る予定なんだ。ところで北海道で会ったMさんが乗っていた小さい自転車、あれを日本でガールフレンドのために買おうと思っているんだ」
 U氏は稚内で出会った、Mさんの折りたたみ自転車を見て感心していました。特に、
「フェリーに乗るときは折りたたんで二等船室に持ち込めば、追加運賃はゼロですよ」
 という言葉が印象的だったらしい。
U氏は、
「彼女が沖縄で走るのは二週間だし、折りたたみ自転車ならフェリーの運賃も掛からないし、そうだ、鹿児島で折りたたみ自転車を買えばイイんじゃん!」
 という結論に達したらしい。

 U氏の走りに女性が折りたたみ自転車で着いていけるかどうかは疑問だが、まあ優しいU氏のことなんで、ガールフレンドにペースを合わせるんだろうなぁ、うん。

 

くみたてんちゅ(その42)

2009-09-20 01:14:54 | 組立人
 雨は降れども、我々の仕事は工場の中なので関係無い。

 
雨でも自転車
 若干台数は減るものの、お構いなく自転車が道路を走っている。

 アメリカ人五人とトミーとの親交は深まったが、B社中国人スタッフのダンとマイケルとはあまり親交が深まっていない。二度ほど誘った食事も、二人のドタキャンによって実現していないからだ。
 だが、朝から雨が降っていたその日、なぜか佐野が中国人二人との夕食の話を決めて来た。
 仕事が終わった後にホテルのロビーに集合し、私と佐野と清水と新垣、ダンとマイケルの六人で食事に向かう。


プロパンボンベ
 ダンお勧めの鍋屋のテーブルの下には、プロパンボンベが標準装備。危険性は無いと思われるが、微妙に落ち着かない(笑)


テーブルの上の鍋
 プロパンボンベから伸びる緑色のホースは、いきなりテーブルの天板を着き抜け、鍋の下のコンロに直結。


具材
 全てダンにお任せ状態。
「コレとソレ、それからコレもな!」
「はい、かしこまりました…」
 会話は中国語なので詳細は分からないが、どう見てもダンの態度は偉そうに見える。
 白色の具材はエノキ茸、四角い薄切りの物はスパムの様なハム。他にも大量の具材をオーダー。
 ビールグラス左の白い器の中には、出汁で伸ばした練りゴマと香草が入っている。これに茹でた具材を付けて食べる。


煮える鍋
 大量に具材を投入。そしてそれを仕切る鍋奉行は、当然の様にダン。
「さ、煮えたぞ!」
「いいのか?」
「オッケーだ」
 シンプルな会話が交わされる。


怪しい食材
 『豚の血の塊』を鍋に投入。日本じゃあり得ない具材だ。


ためらい無く食す私
 もちろん思いっ切り食べます。
「おお、意外にもあっさりとしてる」
「本当だな」
 佐野も血の塊を頬張っている。
「これ、何の味だろ?」
 清水も不思議そうな顔をしている。
「うーん、淡白で全然癖の無いレバーかなぁ?」
「ああ、でも食感はツルッと入るよね」
 新垣も同意する。
 どうやら『豚の血の塊』は、日本人の舌に合うらしい。

 一頻り鍋の具材をやっつけると、日本人としては当然の様に欲しくなる物がある。
「やっぱり麺を入れたいよな」
「最後は麺か雑炊だよねぇ」
「さっき後ろの席の中国人が、麺を入れてたよね」
「うんうん、ダンに提案しましょうよ」
 新垣がダンに麺を入れることを提案する。
「…ハハんっ」
 ダンがいきなり鼻で笑いながら苦笑する。
「そんな物は鍋には入れない。入れるのは鍋を知らない人間だ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 日本人全員が沈黙する。
「入れ…無いんだね…」
「そうらしいね」
「・・・」
「・・・」
 ここはダンの案内で来た店であり、今夜の鍋奉行にはダンが着任している。

 日本人四人の、
「麺を鍋に入れたい…」
 というささやかな希望は、北京の鍋奉行の前にあえなく砕け散ったのだった。
 


くみたてんちゅ(その41)

2009-09-17 11:44:56 | 組立人
 中国で工事をすると驚くのが、日本にはあるはずの当たり前のシステムが無いことに驚く。

 それは機材のリースだ。
 日本ではありとあらゆる物にリースがある。足場材は当然のことながら、敷鉄板や覆工板(地下鉄の工事などで、地上の道路部分に使われている資材)、鉄骨や矢板(地面に垂直に打ち込む鉄の板)もリースがある。クレーンやユンボ(ショベル)、ブルドーザやロードローラー等の建設機器もリースがある。日本ではそれが当たり前だ。だが、中国にはほとんどリース業が存在しないらしい。

「お、今日も青龍(中国の重量屋)の二人は来てるな」
 朝一番、青龍の作業員が二人、軽ワゴン車で現れる。
「いいですね、あの二人」
 何となく二人がうらやましく思える。
「でもさ、あの二人は一体一日中何をしてるんだろうね?」
 清水が半分笑いながら疑問を口にする。時折現場に顔は見せるものの、二人がどこに居るのかは今一つ分かっていないからだ。
 リース業が存在しない中国では、機器のリースを依頼すると自動的にオペレーターが付帯して来る。もちろん日本でも吊上荷重が5トン以上の移動式クレーンを頼むと、一般的にはオペレーターが付いて来るが、これはクレーンを道路で走らせるのに大型特殊免許が必要になるのと、クレーン作業ではクレーン運転士免許が必要になるからだ。
 だが中国ではフォークリフトにもオペレーターが付いて来る。
「フォークリフトくらい自分たちで動かせるっての!」
 と言ってもそれはダメで、絶対にオペレーターが付いてくるのだ。
 もちろんオペレーターとして来ているのだから、雑用を頼む時は非常に便利だ。
「残り三分の一の木箱が、向こうの第三倉庫にあるらしいよ」
「それで数が少なかったんだ」
 なんて時は、彼らに木箱を運ぶように依頼をすると、暇を持て余しているので喜んで運んでくれる。これは非常に助かるのだが、彼らにとって一番大切な仕事は、実はフォークリフトの管理なのだ。

「ジャラジャラジャラジャラ」
 毎朝のことだが、大きな音を立てながら青龍の高倉健クロちゃん(安田大サーカス)が、フォークリフトのハンドルから太いチェーンとゴツい南京錠を取り外している。
「ここは客先の工場の建屋の中だし、夜はシャッターが閉まるんだから、チェーンなんか要らないんじゃないの?」
 と思うが、そんな事は彼らには関係ない。先日、3トンフォークのタイヤがパンクした時も、左前輪を取り外したフォークリフトに、彼らはチェーンと南京錠を掛けて帰って行った。
「つまり盗まれるってことですよね」
「そうだな、現場にそのまま置いておいたら、いつ盗まれるか分からないんだろうな」
 佐野も同意する。
「客先にリースしても、『いや、返したよ』なんて言われちゃうんですかね」
「それで知らない内に転売されちゃったりしてね」
「恐ろしくてリースなんて出来ねぇべ」
 佐野は笑いながら、チェーンが取り外されたフォークリフトのエンジンを始動させる。
「明日でリフト作業は終了だからな、ちゃっちゃと終わらせるべ」
 佐野はそう言うと、残っている木箱の整理を始める。
 その中の一つに、一番最初から工場に入れてあった重そうな木箱があり、佐野は5トンフォークでその木箱を運ぼうとする。
「グォおおおおおおン、グゥうううん、グゥうううん…」
 なんとか木箱を持ち上げようとするが、下手をするとパレット部分が割れそうな雰囲気だ。その時、青龍の高倉健が3トンフォークリフトに飛び乗ると、正面から木箱に近づいた。
「从这里,也举起!」
 何を言っているのかは分からないが、中国語と僅かな手振りで佐野に何かを訴える。
「ああ、うんうん、オッケー」
 佐野は青龍の高倉健の中国語に頷くと、フォークの爪の位置をやや微調整し、高倉健の3トンフォークと呼吸を合わせる。
「行くよぉ!」
 佐野と高倉健がタイミングを合わせて爪を上げ、ギシギシと音を立てながら、木箱が僅かに持ち上がる。
「よし、このままっ!」
 清水が二人に合図を送る。
「グォうううん、シュゴォおおおお…」
 高倉健の3トンフォークが低速でバックし、佐野の5トンフォークが低速で前進する。パレットの底部が僅かに滑らかなコンクリートの床面に擦ってはいるが、床に傷が付く程ではない。
「シュゴぉおおおお…」
 高倉健が3トンフォークのハンドルを切り、僅かなズレも無く佐野の5トンフォークがそれに追従する。
「ハイ、ストぉップ!」
 清水が合図を出し、二台のフォークリフとはピタリと停止した。
「おおお…」
「ここまで来れば、後はクレーンでなんとかなるね」
 清水は佐野に確認する。
「大丈夫、あとは何とでもなるよ」
 佐野はそう答えながら、フォークの運転席から青龍の高倉健に笑顔で右手を挙げる。高倉健も笑顔で右手を返す。
「佐野さん、彼の中国語が分かったんですか?」
「いんにゃ、全然分からんよ」
「そうなんですか?」
「でもさ、アイツも俺も同じ重量屋だからさ、言ってる事が何となく分かるんだよ」
 やはりプロ同士というのは、仕事に関しては言葉は通じなくとも意思の疎通が出来るらしい。

 この日の佐野と青龍の高倉健の笑顔は、何だかとても格好良かった。

くみたてんちゅ(その40)

2009-09-15 02:47:00 | 組立人

 アメリカ人たちの我侭と、ダンの根拠の無い自信に溢れた言動に振り回され、私と清水ははまたしても歩かされることになった。


天安門前の信号機
 やたらと本体が大きい。

 すでにアメリカ人五人と佐野、新垣、トミーはバスに乗り込んでいるらしいが、ダンとマイケルは全く意に介せず、悠然と記念撮影を行いながら、天安門広場を歩いて行く。
 ようやくヘロヘロになってバスに到着すると、アメリカ人たちはエアコンの効いた車内で寛いでいた。

 ホテルに着いた私は、すぐさまセブンイレブンに直行。


セブンイレブンのチキン
 あまりにも疲れて腹が減っていたので購入。中国のセブンイレブンでは、店内で調理した量り売りの中華料理が並んでいます。


コカコーラ
 中国では『可口可来』です。


しかも『香草味』…
 香草味とはどんな味かと言うと、
「うぉおおお!、バニラ味のコーラじゃん…」
 非常に複雑怪奇な味わいですが、慣れれば大丈夫です。
「米軍基地で飲んだバニラソーダの方が、もっと強烈だったな」
 当然日本では売られていません。
 ラベルに記載されている『汽水』とは『サイダー』という意味です。

 バスツアーでアメリカ人と二人の中国人に振り回された我々は、夕食はアメリカ人抜きで行くことにする。
 今回は新垣がトミーを夕食に誘い、五人でロビーに集合した。
「何を食べますか?」
 トミーが我々の顔をじっと見る。日本人とどこに食事に行けば良いのだろうかと思案している様子だ。
「うーん、トミーが普段食べてる物だね、俺たちじゃ入れないような店がイイなぁ」
「面白そうだな」
「そうだね、彼らが何を食べているのか知りたいよね」
 私の意見に佐野と清水も同意する。
 代表して新垣がトミーに英語で伝えると、トミーはやや困惑した表情を浮かべた。
「非常にチープな店だけど…」
「いいねぇ、我々はチープな店が好きなんだよ!」
 新垣も気にすることなく、トミーを促す。
「分かりました」
 トミーはようやく納得すると、先頭に立って歩き始める。
「へぇ、こっちなんだ」
 ホテルから五分ほど歩くと、通りに面した間口の狭い店があり、トミーは慣れた様子で店内に入って行き、我々もその後に続く。
「ここは?」
「馬肉の店です」
「馬肉かぁ…」
 やや狭い感じはするが、白いテーブルと明るい照明からは、それなりの清潔感を感じる。
 店内は地元の中国人で賑わっていて、入口でも持ち帰り用の調理してある馬肉を求める列が出来ている。
「人気店みたいだね」
「中国の人は結構馬肉を食べるんだね」
「ええ、特に北京は馬肉の美味しいお店が多いです」
 トミーがやや聞き取り辛い、中国訛りの英語で答える。
「ダんっ!ダんっ!」
 入口の行列の前では、映画でしか見たことの無い木の切り株みたいなまな板を使い、体格の良い女性店員が加熱された馬肉を切断している。
「あの包丁はすごいな、指なんか一撃で切れそうだな」
 佐野が女性店員の右手にある、巨大な中華包丁に感心する。


まずは乾杯
 いつもの『燕京啤酒(ヤンジンビール)』を喉に流し込む。
 店内で交わされるのは中国語のみ。我々のコミュニケーションツールである怪しい英語の方がむしろ異質。
 当然注文は全てトミーにお任せ。


玉子スープ
 いきなりスープが登場。
 味は日本の焼肉屋で出される物と大差は無い。


キュウリと木耳らしき物
 日本人にとって全然違和感の無いメニュー。


冷奴
 完全に日本の冷奴と同じ味。
「ああー、なんだか分らんけどホッとするわぁ」
「いやぁ、まさかここで美味しい冷奴を食べられるとは思わなかったなぁ」
 久しぶりの正統派な味わいに、日本人四人は笑顔になる。


馬肉のホットサンド
 正式な名称ではない(笑)
 温かい小麦のパンに、味の付いている馬肉が挟まっています。
「おおっ、これ、結構イケルねぇ」
 赤身の肉とゼラチン質の部分(タテガミの脂肪部分?)がバランス良く入っていて、あさっりとした旨みにコクがプラスされています。

 この馬肉ホットサンドをさらにもう一つ食べると我々は完全に満腹になり、中国の味覚に満足して店を後にしたのだった。


くみたてんちゅ(その39)

2009-09-10 13:34:32 | 組立人

 バスを降りて歩いた我々は、二日連続の紫禁城へ向かいます。


またしても60元
 アメリカ人たちは、ダンに教えられた中国語の『ファピオ=領収書』を連呼しています。
「ファ~ぴおーぅ!」
「ふぁぴぉー!」
「ファピオ、ファピオー!」
 うるさい奴らです(笑)

 アメリカ人五人と日本人三人、そしてトミーがチケットを購入すると、残りの中国人ダンとマイケルは、我々に手を振っています。
「あれ?入らないの?」
「俺たちはもう何度も観てるからいいよ」
「…うわっ、マジで?俺も買わなきゃ良かった」
「本当だよねぇ」
 私と清水は思わず60元のチケットを見つめます。
「はい、行きますよぉ」
 新垣に促された私と清水は渋々紫禁城の入口に向かいます。


手荷物チェック
 本当に中国人は手荷物チェックが大好きです。これをやらないと、どこにも入れません。

 さて、この全長1キロ以上はある紫禁城を、二日連続で端から端まで一往復するなんて、暇人のすることです。
「新垣さん、僕はこの辺でウロウロしていますよ」
「あ、俺もね」
 バスは裏口近辺で待機させ、またここに戻って来ることになっています。
「本当ですか?」
「ええ、昨日堪能したし」
「そうだよね、もう十分だよね」
「…分かりました」
 私と清水を残し、アメリカ人五人と佐野、新垣、トミーは紫禁城の表に向かって歩き出しました。
「さ、適当にブラブラしますかね」
 私と清水は裏口周辺で時間を潰すことにします。


塗装屋を見学
 ローラー塗りです。日本ではありえませんが、ノーヘルが標準。


刷毛塗り
 なぜ一番上から塗らないのかが、今一つ分かりません…。

 この後、前日に見なかった展示物を見学し、裏口周辺の土産物屋をぶらぶらとしていると、佐野から携帯に連絡が入りました。
「キーちゃん、今どこに居るの?」
「裏口の近くですけど」
「あのさ、こっちに出てこれる?」
「こっち?もしかして表門のことですか?」
「うん、そう。アメリカ人たちが我がままを言い出してさ…」
「まさか戻るのが嫌だから、バスを表に回せとか言い出したんですか?」
「ははは、良く分かるね」
「・・・」
 隣で会話を聞いている清水が、ウンザリとした表情を浮かべる。
「はぁああああ、マジですか…、分かりましたよ、行きますよ」
 私は携帯電話を切ると、清水と一緒に表門へ向けて歩き出した。

 十五分後、我々は表門前広場の土産物屋の前に居た。
「おお、ダン!マイケルも!」
 偶然、紫禁城の外側を歩いて表側に回っていたダンとマイケルに遭遇する。
「他の奴らはどこに居るの?」
 ダンは、
「さぁ?」
 という顔をしている。
「バスは?」
「ここに来るよ」
「ここ?」
「ああ、バスをここまで呼ぶから大丈夫だよ」
 ダンは一部の観光バスが停車している目の前のスペースを指差す。
「大丈夫なのかなぁ、なんか許可を受けた車輌しか入れない感じだけど…」
「そうだよねぇ」
 清水と首を捻る。
「ま、アイスでもどうだ?」
 いきなりダンがアイス売りのオバサンを呼び止めると、袋に入ったアイスバーを四本購入し、私と清水にも一本ずつ差し出した。


正宗『老氷棒』
 日本のカップアイス『みぞれ』の『しろ』みたいな味です。

 アイスを食べていると、また佐野からの着信です。
「今どこ?」
「門を出たところですけど」
「バスはケンタッキーフライドチキンの前に停まってるよ」
「ケンタ?どこですか?」
「そこからさらに歩くよ、昨日の鉄道博物館の方向で、あの交差点を右だね」
「マジですか?かなりあるじゃないですか…、ダンがバスはここに来るって言ってますけど?」
「無理無理、そんな所には入れないよ、運転手がそう言ってるらしいよ」
「じゃあそっちに向かって歩けってことですね?」
「そうそう」
 ふとダンを見ると、どうもトミーからの着信みたいだ。
「フハハハハ、向こうだってよ!」

 細かい事を気にしないダンを先頭に、我々は四人で歩き始めた。


くみたてんちゅ(その38)

2009-09-08 02:48:04 | 組立人
 今回は三輪バイク特集です。


オーソドックスタイプ(私が勝手に銘々しました・笑)
 シートがペラペラで硬そうです。


ボディのパネルはリベット留め
 後部座席にはプライバシー保護の為なのか、レースのカーテン付き。


オープンタイプ
 後部は荷台です。
 どうも中国の人は、バイクにオフィスチェアの様な背もたれ付きの椅子を装着するのが好きらしい。
 しかもこのバイクの椅子には、なんと肘掛まで付いており、ついでに座面にはゴザマットが敷いてあります。


屋根付きオープンタイプ
 後部荷台内側にある一対のツールボックスが渋い。


同じく屋根付きオープンタイプ
 こちらは後部外側に一対の塗装済みサイドケースが装備されていて、微妙に格好イイ。
 でもシートはやっぱり背もたれ付きで、おまけに竹のシートカバーを装着。


フルカバータイプ
 雨風を完全に防げそうです。運転席にも扉、そして後部にもドアノブ付きの扉が!
 この大きさにも係わらず後部は二座席になっていて、非常に狭そうです。

 何台もの三輪バイクを見て気づいたのですが、ナンバープレートは前でも後でも、厳密な位置も関係無く、とりあえず一枚装着していれば『無問題(もーまんたい)』らしい。


またしても紫禁城(故宮博物院)裏門
 昨日とは打って変わって晴天ですが、気分は全然乗っていません(笑)

 アメリカ人技術者五人は、ワクワクしながらチケット売り場に向かいました。

くみたてんちゅ(その37)

2009-09-08 02:47:50 | 組立人
 万里の長城を後にした我々のバスは、高速道路を走り、気づけば都心に入っていた。


電動自転車
 ハンドルの部分はまるでスクーターのようなデザインです。もちろんノーヘル、二人乗りは当たり前。


三輪バイク
 屋根付きで後にはもう一つシートがあります。


中国ギャル
 ビーサンでペタペタ歩いていました(笑)


建築現場
 住居なのか店舗なのかは分かりませんが、レンガが積まれています。


歩道に積まれた大量のレンガ
 どうやら建屋は『レンガ造』らしい…。


三輪自転車
 飲料のケースがギッチリと積まれています。最初は珍しく感じましたが、本来自転車は三輪の方が有効活用できるんじゃないだろうかと思い始めました。


さて、これは何でしょうか


答えは公衆電話
 上のオレンジ色のフードの中も公衆電話です。中国の公衆電話は、必ず二対一組、且つ屋根付きです。


トローリーバス
 真っ黒な排ガスが出ないので、非常に好感が持てるバスです。

 我々の乗ったバスは街中の道路の脇に停車し、ここで降りるようにトミーに促されます。
「新垣さん、僕はバスに残ってちゃダメですか?」
 私は新垣に声を掛ける。
「そんなこと言わないで、一緒に行きましょうよ」
「ははは…、分かりました」
 予想通りの答えだ。
「まさか二日連続で紫禁城に来るなんてね」
「そうだね、これなら昨日は違う場所に行けば良かったね」
 清水が私のボヤキに同意する。佐野は気にする様子も無く、新垣と一緒に歩いている。
 今回はバスをチャーターしてあるだけだったので、行き先はどこでも良いのだが、アメリカ人たちが万里の長城で、
「次はラストエンペラーの城だ!」
 と言い出したので、我々は紫禁城に向かって歩いているのだ。

 あまりにも面白く無いので、私は道々に停まっている三輪バイクの写真を撮り始めた。