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pride and vainglory -澪標のpostmortem(ブリッジ用語です)-

初歩の文書分析と論理学モドキ(メモ)

空の翳り 第14章 修正会❸

2021-01-18 06:47:46 | Λαβύρινθος
 百八の鐘が終わり。いや本当に百八だったかどうかはまったく妖しいものだ。要は鐘をつきたがる人間がいなくなるまで自由にさせておいただけの話し。 
 大方の里人が引き上げたのを確かめて、小春婆さんの雑煮の残りにご相伴に預かって冷えた体を温めると、後の整理をオットーと常吉爺さんに任せて庫裏へと引き上げる事にした。
 多分小春婆さんが、ファンタジーの中の果物屋のモデルなのだろう。ふとそんな気がした。婆さんに話してみても面白いかなと一瞬考えたものの、剣呑だからやめにした。鼻先でフンと嘲うだけで済めば良いが、下手をすれば機嫌を悪くされて八つ当たりされかねない。 
 お寺の伝手で幼い頃から本家に奉公に上がり、35過ぎて常吉爺さんの後妻になる頃には女中頭として実質上家政を仕切っていた小春婆さんは本家に対しては辛辣極まりない。
 曰く「金が有りすぎるから、物狂いにもなれる。」「奇人変人も道楽の内」「土蔵の中の骨董品も座敷牢のご主人様。役に立たないと言う意味では同じ事。」 
 一応学者として世間的にはまっとうに暮らしている「僕」にたいしても容赦はない。
「何、時代が良かっただけの事。蔵の経営が軌道に乗って今ではこの辺りだけではなく県北や隣県でもしっかりシェアを伸ばしている。それも本業だけではなくこの頃は介護や特養といった福祉分野までね。それに戯言を喋っても給料を呉れる大学とかやらのお陰で世間での体面も保てるし。」
 おいおい、その蔵(分家)のお先棒を担いで商売を広げているのは、婆さん、お前さんじゃないか、そう思いながら俺は問い返した。
 「俺と僕とは、形式上は従兄弟だけれど、本当は双子の兄弟だぜ。おむつを取り替えてくれたあなたに言うのもおかしいけど。」
 「勿論和尚さんに言われなくてもそんな事は承知していますよ。でも氏より育ちって言うでしょ。大和尚さまが偉いんです。大和尚様に育てられなかったら、和尚様だって、お坊ちゃま見たいになっていたかも知れません。でもそれでは錠前にはなりません。錠前は鍛冶が鍛えて初めて出来るもの。和尚さまは和尚様です」
 随分と前の事だが、小春婆さんと交わした訳の分らない会話の一節ががふと脳裏に浮かび上がった。錠前か、不思議な符合だ。小春婆さんは本家に変わって財務を仕切る分家の事を蔵、本家の当主に異常が生じた際の代行を行うこの寺の住職の事を錠前と呼んでいる。あの家に仕える女中仲間の隠語だと言う。
 多分子供頃からこの言葉になじみがあった「僕」が、送りつけてきた物語の中で意識的に「鍵」と言う言葉を使っている。
 鍵と錠前。方向は逆だが機能は同じ。何かを封じ込めるもの。それに一卵性双生児など自然のクローンそのもの。大叔父に育てられた俺は鍵/錠前となるべくして育てられた。
 そんなコンテキストなのだろうか。すこしピントが外れているような気がする。いずれにせよ修正会が終わってからゆっくりと読む事としよう。
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