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pride and vainglory -澪標のpostmortem(ブリッジ用語です)-

初歩の文書分析と論理学モドキ(メモ)

第13章ファンタジーファクトリーⅤ ❽

2021-01-14 09:38:51 | Λαβύρινθος
 父達を葬り去った後、義父はぼく達二人を慎重に育てた。 
 夢想癖のあるぼくにはコンピューターエンジニア兼クリエーターになる事を奨励し、より勤勉で現実的な妹は外の世界に出て行くように仕向けたのだ。
 夢想の出口があり、鍵が鍵として存在する限り、ミュータントの能力が暴走する事が無い事を知っていたからだ。
 そうミュータントはぼくの方。
 暴走するぼくの夢は現実を食いつくし、夢を現実へと変えて行く。鍵が存在しぼくに鍵を掛け続ける限り、ぼくの夢想は発動しない。しかし鍵に可能な事はそこまでだ。鍵を通じて、ぼくの夢想を制御する事によって理想世界を築こうとするのは、あまりに楽観的過ぎる。万人にとっての理想社会など、仮にいかにそれが整然としたものであったにせよ、万人にとっての悪夢の別名でしかない。
 それに如何に制御可能とは言え、いったん走行をはじめ、世界と干渉し始めた夢見(ぼく)は、いつかは世界と共鳴し始め、鍵の制御を振り切る事となる。
 ロムルスやエシャウの例を見ればよくわかる事だ 思い込みの激しい理想主義者は、突き詰めて言えば自分の見たいものしか見ない。
 ぼくは義父の決断の肩を持つ。
 ぼくよりずっと辛いのは妹の方。暴走するぼくを制御する鍵としてやらねばならぬ事は只生きき続ける事。ぼくを操ろうとする誘惑に耐えていく事など、ぼくにはとても出来そうもない。しかも妹は「創られたもの」いわば押し付けられた運命そのものだ。
 いつしか時は深夜を過ぎている。先ほどまで聞こえていた犬の遠吠えも聞こえなくなった。開け放った窓からは漸く空高く上った下弦の月の光が差し込んでいる。
 夜の闇のむこうから微かなメロディーが聞こえてくる。監視ビデオに切り替えると、和船から渡し板がおろされ、デリククレーンのむこうから異様な衣装を纏った隊列がやってくるのが見えた。
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