ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

JR芸備線の(部分的)存廃議論が加速されるか

2021年06月19日 08時00分00秒 | 社会・経済

 COVID-19は、日本の公共交通機関にさらなる打撃を与えました。JRグループに話の対象を絞ってみても、JR北海道を初めとして、苦境が伝えられています。とくに注目すべきはJR西日本でしょう。京阪神地区で競合する路線(阪急京都線など)から乗客を奪うなど、活気に溢れているような印象を受けたものですが、それもCOVID-19の蔓延の前まででした。

 JRグループで強い経営体力を持っていると考えられてきたのは本州の会社、つまりJR東日本、JR東海およびJR西日本ですが、COVID-19により、一部の黒字路線によって全体が支えられるという構造が一層明確になってきました。最も極端なのはJR東海で、東海道新幹線の収益が他の全路線をも支えていると表現してもおかしくない状況です。JR東日本およびJR西日本も、JR東海ほどではないとしても同じようなものです。とくにJR西日本は、2018年4月1日に廃止された三江線が典型的であるように、営業係数が高く、かつ輸送密度が低い路線が多く、今後の見直しも示唆されているほどです(2021年2月19日10時35分0秒付の「やはり気になる、JR西日本のローカル線の動向」を御覧ください)。

 さて、少し前の話とはなるのですが、6月14日、JR西日本は芸備線の「今後の在り方を検討する組織を設けるため、広島県に参加を申し入れた」と報じられました。これは山陽新聞社のサイトに同日21時14分付で掲載された「芸備線検討組織、広島県も参加を JR西が広島県に申し入れ」という記事によります(https://www.sanyonews.jp/article/1141173)。

 実は、JR西日本は岡山県、新見市および庄原市には今月の8日に申し入れています。広島県に申し入れたのが14日となった理由はわかりません(庄原市は広島県にあります)。広島県知事は検討組織に参加する意向のようです。早ければ7月にも検討組織が設置されるでしょう。

 この芸備線は、岡山県にある備中神代駅から広島駅までの159.1キロメートルの路線なのですが、JR北海道の札沼線と似たようなところがあり、区間によって平均通過人員が極端に違うのです(JR西日本では福塩線が同じような状況にあります)。「やはり気になる、JR西日本のローカル線の動向」において「区間別平均通過人員および旅客運輸収入(2018年度)」を参照しましたが、再び参照しましょう。すると、驚愕すべき事実がわかります。

 まず、全線通しの平均通過人員は1,341(人/日)です。最も高い東海道本線大阪駅〜神戸駅の389,365、次に高い同線京都駅〜大阪駅の355,068(米原駅〜神戸駅であれば233,166)などと比較すると格段に低いのですが、大糸線の南小谷駅〜糸魚川駅の102(同線の残りの区間はJR東日本)、木次線全区間(宍道駅〜備後落合駅)の200などという区間もありますから、それほどでもないように思われるかもしれません。しかし、芸備線の区間別の平均通過人員は次のようになっています。

 備中神代駅〜東城駅:73

 東城駅〜備後落合駅:9

 備後落合駅〜三次駅:196

 三次駅〜狩留家駅:765

 狩留家駅〜広島駅:8,052

 いかがでしょうか。狩留家駅は広島市安佐北区にありますので、広島市内の通勤・通学路線としては十分に機能しているとも言えるのですが、その他の区間とは桁が違っており、同一路線とは思えないような姿となっているのです。実は一度も芸備線を利用したことがないので、実態などがよくわからないところもあるのですが、数字だけを見ると札沼線と似たような路線であることがわかるのです。札沼線の存続区間である桑園駅〜北海道医療大学駅は平均通過人員の数値も高く、電化までされたのに対し、昨年5月に廃止された北海道医療大学駅〜新十津川駅は極端に低く、末期には浦臼駅〜新十津川駅で午前中の1往復しか列車が走らなかったのでした。芸備線の東城駅〜備後落合駅も3往復しかありません(普通列車に限定すればJR九州は日豊本線の重岡駅〜延岡駅の1.5往復という例がありますが)。平均通過人員が9というのは、JR西日本はもとより、JRグループ全体でも最も低いでしょう。鉄道はおろか、路線バスでもガラガラ状態でしょう。マイクロバスで十分と言えるかもしれません。

 備中神代駅〜東城駅の73というのもかなり低く、JR西日本では2番目に低い数値です。これに続くのが大糸線の南小谷駅〜糸魚川駅ですから、2桁は備中神代駅〜東城駅だけです。1桁、2桁が芸備線にある訳で、JR西日本が廃止を検討するとするならば、まず備中神代駅〜備後落合駅でしょう。

 備後落合駅〜三次駅は196で、3桁です。JR西日本の路線・区間でこれより低い数値を示しているのは、大糸線の南小谷駅〜糸魚川駅、因美線の智頭駅〜東津山駅(162)、福塩線の府中駅〜塩町駅(162)だけです(ちなみに、復縁線の福山駅〜府中駅は6,835です)。これらの区間も存廃論議が起こることは必至と言えます。従って、芸備線については備中神代駅〜三次駅が存廃論議の俎上にあがることでしょう。三次駅〜狩留家駅も低いのですが、これはどうでしょうか。狩留家駅〜広島駅の平均通過人員が格段に高い数値を示しているので、この区間のみ存続し、備中神代駅〜狩留家駅が廃止される可能性はあるということだけは記すことができるでしょうか。何せ、1980年代の特定地方交通線を基準とすると、備中神代駅〜狩留家駅は第一次特定地方交通線の水準と言えるのです。

 JR西日本の上記資料には営業係数が示されていないので、判断を下すには材料が足りないという感は否めないのですが、平均通過人員が3桁となっている路線・区間は多く、山陰本線の一部にも見られるほどです。京阪神地区以外の地方では、これから存廃論議が次々と沸き起こるかもしれません。

 


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