今日4月12日は、1961年4月12日にソ連のユーリ・ガガーリンが人類初の宇宙飛行をしたことにちなんで、世界宇宙飛行の日と国連によって(2011年)定められている。
で、その日にちなんで、前々から気になっていたケネディーが間髪入れずに人類を月に着陸させるとか言い出したあたりを書こうとしてるんだけど、その前に面白い動画を拾ってしまったので、そっちをアップ。
ガガーリンは、4月12日に偉業を達成し、一躍世界中で大有名人となった。それを受けて各国をツアーして歩いた。いわばソ連の親善大使みたいなものですね。
いろんな写真が残っているのでそれは見たことがあったけど、動画もあった。イギリスのニュース映像。どちらも2分ぐらいのものなので簡単に見られます。英語が聞き取れずとも、歓迎のムードがよくわかる。
これは、空港に到着したところ。
Welcome Gagarin (1961)
こちらは ロンドンの歓迎風景。市庁舎?の前で手を振り、マクミラン首相と会い、バッキンガム宮殿で女王とランチ。
Hail, Gagarin (1961)
女王陛下と首相、そして女王陛下のすべての臣下はガガーリン大佐に魅了されてます、といってニュースを終えてた。
イギリス世界では国民じゃなくてsubjects(臣下)が彼らのアイデンティティですからね。her majesty, prime minister, and all her subjects(陛下、首相、彼女の臣下全員)というのが、UKの国全体という意味になる。
今でも基本はそうだけど、いやぁ61年ではさらに何か、むしろ誇りを持って言ってる。興味深い。
そして、冷戦とか何?って感じの底抜けの歓迎ニュースになってる。
次はBBCがライブでガガーリンに質問してる動画。
イギリス人の面倒くさい質問を通訳が非常に上手に裁いているらしく、ガガーリンはほぼピントを外してない。少なくとも通訳を介した会話にありがちな意味不明感はない。というか、ちょっとはにかんだようなガガーリンの笑顔がまぶしすぎて、おじちゃんたちの会話よりそっちが印象に残る。何か、いわくいいがたい魅力のある人だね、ユーリったら、といった印象。
Yuri Gagarin on BBC TV, July 11 1961
■ エリザベス2の最近のコメント
そこから幾星霜。今年、イギリスで科学とアカデミックのなんちゃらかんちゃらのイベントがあって、そのためのオンライン会話に、エリザベスさんが登場して、その中でもガガーリンの話が出ていた。今週撮ったものではもちろんなく、しばらく前に撮ったものである由。いやぁ、エリザベスさんの頭の中が若い。
'What was Yuri Gagarin like ma'am?' 'Russian!': Queen has scientists in stitches as she recalls her meeting with first man in space
で、その中で、一人のサイエンスライターだか教授だかの女性が、女王はガガーリンに会ったことがあると聞いたんですが、どんなでしたか、と尋ねる。
すると、まず、「Russian」と答えて笑いを誘ってた。
ロシア人でした、彼は英語を話しませんでした。でも、そういうことじゃなくて、違うの違うの、彼は非常に魅力的でした。そして、最初の人だったと思いますけど、それが特に素晴らしい
'Russian,' she said, prompting a roar of laughter. 'He didn't speak English. But no no, he was fascinating. And I suppose being the first one, it was particularly fascinating.'
それに対して対話者が、そうなんです、そこなんです、私が引き付けられるのは、だって最初の人、先がどうなるのかわからない状況って物凄く怖いでしょ、とつなぐと、女王さん、
そうよ、だってあなた帰ってこられるの? それがとっても重要
と、当然といえば当然の、ちょっと面白い切り返しをしていた。結果的に、婉曲的に、最初の人の勇気を讃えているってことなんでしょう。
Russianというのは、受け狙いのジョークというより、結構本当に女王にとっての強烈な印象が、ロシア人だわ、だったのかもしれないなとも思った。
偉業をなしたにもかかわらず、それはそれとして、はにかみがちな笑顔とか、言葉に対して非常にattentive(よく聞いてる)なところとか、humble(つつましい)な感じとか、ユーリ・ガガーリンはソビエト当局者がそんな点を重視して選んだわけもないわけだけど、まぎれもなくロシアの庶民を体現した存在だったと言えるかもしれない。
そしてそれが英国臣民を魅了しちゃった、と。
しかも、折りから、これらの話には一言も出てませんが、わずか16年前、そのロシア人(ウクライナ等を含めた広義の、という意味)の奮闘によって、ブリッツは単独では勝てなかったナチスとの2年間の孤独な戦いの果てに世界大戦を勝利で終われたわけだから、ブリッツ社会では、プロパガンダが何を言おうとも、基調としてロシア(ソ連)に対する敬意が残ってる。
いやぁ、大変だとアメリカ人(または西側ブロックの一体化を考えてるグループ)が考えても無理はない事態だったわけなのね、というところでしょうか。
ロスコスモスのtwitterのトップページ。いいデザインよ!
■ オマケ:遠い関連
そしてナチリベ(≒ユーロコミュニズム)とエバンジェリカルが残った
(略)だけど、イギリスでその時代オックスフォードに通ってたヒッチンズはそうは見ていない。ユーロコミュニズムは、ハンガリー動乱、プラハの春でソ連が批判された後、1968年頃に新しいムーブメントとしてやってきた、と見てる。
1980年モスクワ五輪とムジャヒディーン協賛諸国
イギリスは国の中がてんやわんやになって政府は絶対出ないと頑張るけど、選手を統括するオリンピック委員会が主張を通して選手を派遣するという非常に珍しい恰好になったのは結構知られている。
ケネディの頃は、アメリカでも欧州で戦った兵隊がこの頃は元気で、ソビエトは戦友ドイツ人は卑劣で何するかわからないやつ、信用してはならないという風潮が未だ残っていました、ガガーリンが歓迎されるのは理解できます。
こちらこそ、コメントありがとうございます。
私も昨日初めてみて、これは何か今まで知ってたイメージと違うぞ、と思いました。
そして、なんかみんな嬉しいは嬉しい、素晴らしいは素晴らしいで、はっきりしてて今よりずっと健全だと思いました。
おっしゃる通り信じられるものがある世界という感じ。
冷戦さ中で、ガガーリンがイギリスでこうした暖かい歓迎を受けたこと、知りませんでした。ソ連の国旗を掲げた人、USSRの飾りつけをしたデパート?みたいなのもありましたね。ガガーリン、小柄でチャーミング。
それと、郷愁を感じました。街頭のイギリス人、今よりずっと健全に見えました。私はイギリスに行ったことがないのですが、I Daniel Blakeとか、Billy Elliotとかで描かれる救いようのない現在と比べて、まだ信じられるものがあった社会というか、そんな風に思いました。
良いモノをみせていただいた。ありがとう。