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イランディールと2015年9月

2018-05-14 13:14:09 | アジア情勢複雑怪奇

トランプがイランとの核に関する合意、通称イランディールを反故にした。アメリカからも欧州方面からも非難の声があがっている。

中露も非難してるけど、基本的にイランとの合意を守るという線を崩す気はまったくないので落ち着いてる。

この合意についてトランプはまったく無茶苦茶なことを言っている。このへんはまぁなんてかイギリス政府のノビチョク話とあんまり変わらないといってもいいぐらい。理由はどうでもいい、イランに対する制裁を解除しない、というのが眼目。

少なくとも問題は核ではない。イランは中国相手には人民元で石油を売り、欧州にはユーロにすると言っているのでこちらに対する「おしおき」という側面の方が核よりは強いのではあるまいか。財務省が仕切ってる制裁だし。

 

で、そこから、じゃあ何がしたいんだ、イランを追い詰めてレジーム・チェンジ方針をあきらめないのかという話が付いてくる。あたらずとも遠からずじゃないかと思う。

そもそも、イランディールだって、必ずしもイランを含めた中東を平和にしましょうと思ってやっていたとは限らない。

ソ連崩壊の話と同じで、これで平和になるのだと本気の人もいたが、後ろにはハーバードの一群のように間違った経済政策を一式もっていって、そこからソ連の資産をかすめてやろうと思ってる奴もいる。

イランディールの場合は、2015年7月までの長い間にイランは国連の制裁を掛けられ金融ネットワークから外されたため他国がイランと取引できにくかった。つまり売り物はあっても売れない、金がない。金がないなら金欲しさに俺の言うことを聞くはずだ、という西側仕様。

そこにイランと国連安保理常任理事国5か国とドイツとEUが契約当事者となって核問題について、イランにいろいろ譲歩させて合意して、制裁解除となった。

日本もそうだったが、よしそれイランに投資だ!という声が財界などから上がる。つまり資金力の大きな国が入って行く。これはつまり経済政策の主導権がそれら資金力の大きな国に優位性をもたらす可能性があった。ぶっちゃけ、宗教者にモラル・オーソリティーのある現在の体制にとっては結構なリスクだった。

つまり、言われているほど平和な合意ではないと読むこともできるわけです。

さてしかし、その後いくばくもしないうちに、2015年9月の国連総会にプーチンがでかけていって、名高い、「Do you realize what you have done? (あんたら何したかわかってますか)」演説をして、そこからシリア国の要請に応じて、軍事力をもって登場。IS使ってシリアを取ろうとしてたオバマ政権+αの西側プロットは、まったくの誤算となった。

国連総会70: プーチンのスピーチ

2015-09-29 14:58:16 

この行方が見えたのが2016年12月のアレッポの陥落。この大都市を落としたISとその親方連中は、もうシリアをひっくり返せなくなって今に至る。

 

■ 立場が向上しちゃったイラン

イラン・ディールが締結された時のイランは上で書いたように弱含みのイランだった。怒涛の西側資本の流入がはじまれば、宗教者が強い体制が弱まる可能性があった(西側視点からいえばローハニなら大丈夫、という話)。

ところがロシアがシリアでIS撃退をはじめたので、イランはその地理&地位的優位性がいかんなく発揮される格好となった。カスピ海は俺らの海であるとロシアとイランが宣言するというこっちも地理的優位性を使った宣言をした。

中国とイランの関係ももちろん安定的に重要だが、イランの戦略的な位置、中東における重要な位置をいかんなく発揮させることになったのは、ロシア南部→カスピ海→イラン→イラク→シリアを航空戦力のルートとして繋げたから。(別の言い方をすればこの地域の制空権が最終的にロシア優位になったともいえる。)

グレートゲーム v.2.2:NATO、イランとロシアにカスピ海から締め出される

「カスピ海は俺らの海」宣言の効果確認

こんなこともありましたね。アサド大統領が密かにシリアからモスクワに行っていた。この時使ったルートがこれ。ここは安全だという意味でやったんだと思う。

 


この結果として、ロシアはイランを戦略的な問題として、つまり自国の安全保障にとって欠かせない問題として庇い出す。ロシア、中国が庇うということは国連安保理で西側がインチキを仕掛けられる確率がぐっと低下するということ。

冷戦後のロシアは、ソ連と違って、自国の弱さを自覚してるから、抵抗はするが、最終的には西側、つまり英米仏の3つが揃った時にはそれに従っていた。中国もそう。そもそも安保理5つのうち3つが西側なので国連というのは結局そういうところではあるが、この2国が揃って抵抗するようになれば、過去30年のようにはできなくなるだろう。

(国連を使った制裁だと、世界中の国を巻き込めるが、アメリカ単独、EU単独だと各国にはまだ協力しない、関与しないという選択肢が残る)

 

■ トランプ登場

で、トランプはこの状況を覆したいという意図を持った人々の一押しによって勝ったんじゃなかろうか。

オバマがイランとディールしたからこうなった、あの合意は間違いだらけだ~とか言ってるわけですが、もし2015年9月にロシアがシリアに出てこなかったら、アレッポを落とせなかったら、すなわち2015年10月にはISがダマスカスを落としていたのなら、トランプは出て来ただろうか?

これですね。

去年10月にはダマスカスにISの旗が翻っているはずだった?

 

トランプはイスラエルの味方だと最初から公言しているので、すべてはイスラエルのためなんだ、イスラエルに逆らえない政権だといった書き方をされ、悪いのはすべてユダヤです、みたいな論調を呼び込んでる。

それはそれで間違いとは言えないのだろう。しかし単にイスラエルの味方をするのだったらもっとやりようはある。だからこれは、もっと大枠の、ユーラシアの勃興に対する英米覇権既得権防衛戦争と考えた方が多分適切でしょう。(そして現実的には敗戦処理)

最初の戦略はロシアとイランを分断しようとしてたんだろうなとかも思う。マイケル・フリンとかトランプがロシアに接近すると、イランや中国が警戒し、ユーラシア側の団結に支障をきたすはずだ、みたいな。ところが、そうはならなかった。

2017年1月、トランプの就任に多くの人が注目していた頃、奇妙な出来事があった。中国がロシア国境にISBMを移動したんだったか、サイトを作ったんだったかそんなことがあった。いくばくもしないうちにロシア外務省から、中国のミサイルはロシアの脅威にはならないので私たちは何も心配していない、とかいう声明が出て来た。これは、中国によるロシアの意思の確認だったのではなかろうか。

ロシアはあの時、軍、外務省は冷静だったが、ロシア草の根系がトランプが親ロシアなことを言うもんだから、ぬか喜び的なムードが強くなっていた。現在はすっかり冷めて、米の大統領が何人変わろうとも、彼らの政策は変わらないというラインに戻ってるが。

そして、2017年4月に例の習さんからプーチンへのお手紙がやってくる。

南北朝鮮問題:68年目

ロシア・中国・イラン、けっこう固いよ

 

■ 収拾はつかない、それが新しい現実

こうやって並べて考えればわかるのは、アメリカ or 英米+αは2015年9月のロシアの登場とその後の中露の結束、中露+イラン、中露+インド、の協調姿勢の維持に対抗できてない、多分できない、ということなんでしょう。

2013年に一帯一路が立ち上がってこの流れに基礎を与えてる。

アメリカの中東での代理人が、悪質さの権化みたいなサウジとアパルトヘイト推進派のイスラエルだという時点で詰んでるよなとも言う。あははと笑いたくなるぐらい。

さらにいえば、ヨーロッパとカナダが戦略的一大事としてウクライナでネオナチ政権を庇い続けるという、渾身の愚かさを見せていることも素晴らしい(笑)。

「UKRAINE ON FIRE」with オリバー・ストーン

そのドイツは、先週は外相がモスクワ訪問、今週は経済相とメルケルがロシア訪問だそうで、一体どの面さげて何を話に行くんだろうといったところ。

自分が損しそうになるとこの世の一大事のように騒ぐが、ロシアとウクライナという同一民族を引き離して戦わせて喜ぶ自らの悪質さを顧みる気配は一切ない。行きつくところまで行きついたような、凄まじい堕落だなと思う。

 

■ オマケ1

ロシアがイスラエルを難詰しないといって騒いでいる人たちがいるけど、ロシアにしてみたらイスラエルはロシアに敵対しないが、ドイツ以西の欧州は常にロシアを攻めようという体制を崩さない。どっちが危険なの?という話でしょう。

で、この状況を利用してロシア(or ユーラシア)が考えているのは、イスラエルとイラン、またはその他中東諸国をどうにかして同じテーブルにつかせられないか、なんだろうと思う。

アスタナ会議を使って、イラン、トルコ、ロシアが中心になってシリア問題を語る場を作ったのと同じ、現地民主体で話し合えるメカニズムを作るっつー考え。

これに対して、G7グループは、メディアを使ってロシアを悪魔化しているが、実際にやろうとしているのは昔の植民地主義そのもの。すなわち、現地民の意思を顧みないプラットフォームでどこかで話をつけちゃおうという手法(例、シリア問題のウィーン会議)。

 

■ オマケ 2

上でリンクした自分で書いた2015年の記事を開けてちらっと見たら

国連総会70: プーチンのスピーチ

この重要な局面で日本の報道は、ロシアは存在感を高めようとしている、とか言っていた。まぁなんてかほんと、馬鹿すぎてお話にならない。

しかも、この2週間前には安保法制という戦後日本の道筋を大きく変える法制度を、わやくちゃのうちに制定させていた。これはつまり、ダマスカスに旗が立つ前に boots on the ground(人の戦力)を出せる用意をした、という意味だろうとこの時も書いたけどそうだったんじゃないですかね。

去年10月にはダマスカスにISの旗が翻っているはずだった?

つまり欧・米のぐじゃぐじゃと日本のぐじゃぐじゃは同じ原因と結果のうちにあるということ。日本だけが違うと思ってる人は、ちょっと他国で起きていることも見た方がいいと思うな。

 


 

 

 

 


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1 コメント

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アメリカは宗教国家か (私は黙らない)
2018-05-15 04:45:12
ユダヤ人=イスラエル政権ではない。その辺りの認識が曖昧だったと反省する。
それと、アメリカの宗教国家としての一面を抜きに、中東は語れないのではないかと思い始めている。どうして、アメリカの福音派だけが、こんなにアグレッシブな親イスラエルなのか。クリスチャンシオニズムの背景に何かあるのだろうか。
丸腰で抵抗するパレスチナの若者に容赦なく銃口を向けるイスラエル政府、聖書は右の頬を殴られたら左の頬を差し出せと教えているはず。だとしたら、どうしてこんな暴力的な政府を支持できるのだろう。
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