大方の予想通り大混乱のアメリカ、といった趣のニュースが続いている。
トランプ政権が課した入国制限の問題は、一つには戦争地域もしくは準戦争地域との間に多少高い壁を築いて国防しようというテーマが一つと、あともう一つは、実のところこれはリベラル帝国主義を終わりにするつもりがあります宣言のような気もするなと思ってみてる。
いずれにしても、ネオコン/トロキストは追い詰められている、ってな流れに間違いはないでしょう。
追い詰められてるネオコン/トロキスト勢
横道にそれるけど、そういえば、アパホテルが奇妙な本を置いたといって騒ぎになっていたけど、あの人たちを南京における事件の否定派みたいに扱うのは事実を矮小化している。彼らの主張の眼目はコミンテルン陰謀論ですからね。
彼らは現在アメリカで進行しているネオコン/トロキスト勢の反乱もどきをどう思ってみてるんでしょうね。まさに今、コミンテルンの末裔たるネオコン/トロキスト勢は最後の決起と思ったからなのか、アメリカで「カラー革命」を仕掛けたはりますがな、だと思うのだが・・・。このへん、日本の右派はどう思ってみてるんだろう? あんまり知りたくもないけど。
■ 話題になってる方の大統領令
まず、テレビとかで空港で騒動が~となっていたのは、この大統領令によるもの。
今回の大統領令は、トランプ政権が移民入国審査手続きを修正する間、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの中東・アフリカ7カ国の人々が米国に入国するのを90日間禁止し、さらに難民資格が認められた人々の入国を120日間停止するというものだ。
http://jp.wsj.com/articles/SB11303642310634324165204582590144261243770
戦争、騒乱が発生しているところなので、これはその時々である程度合理性のある話でしょう。そしてこれらはみんな過去十数年の間にアメリカがひっくり返して中がぐじゃぐじゃになっているところ。政策の見直しの一環としてはここを往来する人のチェックを厳しくするというのも合理的ではなかろうか。
にもかかわらず、妙に騒いでいる人たちがいる。そしてとりわけ著名なIT企業が反対を示している、というので、なんだろう?という感じがした人も多いかも。
■ 話題になってない方の話
それは上の騒乱地を対象とした一時的な入国制限の話ではなくて、労働ビザのカテゴリーの一つの発給システムを変えるという話。
説明しようとしたら産経がちょびっと書いていた。
グーグル、アマゾン、アップル…「移民」が支える米企業が大混乱
http://www.sankei.com/world/news/170130/wor1701300052-n1.html
【ニューヨーク=松浦肇】難民・移民の受け入れ停止や凍結などを命じる大統領令を受けて、米企業に混乱が広がっている。IT(情報技術)分野を中心に米企業は「移民」社員に支えられており、ビザ(査証)の発給は経営の死活問題だからだ。
移民社員に支えられている、とおおざっぱに書いてるけど、冷静に考えれば比率としてはそれは言いすぎでしょう。
で、問題の中核にあるのはこれらの業種が主に利用している、高度にスキルのある外国人を、国内では賄えない場合に労働ビザを発給するというシステム。H1-Bというビザ。
このビザには人数制限があって年間65000人+20000の修士号持ち、というのが上限。これがどう決まるのかは現在はロッテリー方式。つまりくじびき。で、多くの企業が採用を予定して採用予定者が申請して短期間のうちに埋まってしまうのが現状。
これをトランプ政権は基本的に、チープレイバーを支える仕組みになってるから廃止したいとキャンペーン中に言ってた。
高い給料の職種の話なのでチープレイバーという語は不適切だと思うけど、基本的には似た構造ですね。
要するに、国内で同等の能力のある人を雇用するよりも相対的に賃金体系の安い国の技術者をもってくる方が安いという厳然たる事実の前にビジネスは抗えない、と。ぶっちゃけ本当のメインはインドの問題のような気もする。
最初は世界的に見て優秀な人を求めるべきという建前が全面に出ていたとしても、結果的には、海外から引っ張ってくる方が安いからな、とか、海外にアウトソースして統括だけをアメリカでやればいいわけだよな、アメリカ人なんか雇ったら面倒で、という話にどんどん流れて行ったということですね。
で、現在のITとかハイテクとか言われてるセクターは過去20年ぐらい盛大にこの流れに乗ってきたわけなので、今更止められたら俺らのビジネスモデルが崩れる、と怒っている、と。産経の記事も「経営の」死活問題と書いてるわけで、それはつまりこの構図だったということ。
■ リベラル帝国主義のツールとしての移民政策
この話はしかし、なんか90年代末にも聞いたよなぁとか思っていたりもする。
で、今の状況ではより安いところ安いところを狙った結果としておそらくインドから中東域に畑は移動しているって感じなんじゃないかと思うけど、90年代にはこれは旧ソ連圏の問題だった。
ソ連は教育無償の体制だったために、ほんとにたくさんの高学歴の人がいる。その人たちはソ連解体前後からアメリカ、EU各国へと移民、難民として移り住んだ。結果として西側各国は西側スケールから見たら非常に安価に高学歴労働者を使った。目立ったのは医師とか理工系の人で、イギリスとかカナダでは、ロシア人の医者ばっかりじゃないかみたいなことを言う人がいたりしたのを覚えている。
で、これを全体としてみれば、高い教育を施された人たちをアメリカに集めて、そこで定住させ、「西側でなければ人でない」的な邪宗さえ植え付け、その視点から出身国の人を説き伏せる役目を負わせ(「私たちの国は遅れているんだよ」「アメリカのようにすれば生活水準があがる」といったトーク)、アメリカ中心主義を支える構図になっていたと思う。
ただ、この部分だけを見るとそれは歴史的にどの帝国または地域覇権国でも同じことをするわけで、珍しいことだとは思わない。覇権って力によるものじゃなくて、人々がオーソリティを感じる、信じるという作用が支えるものでしょ。日本だって、かつて唐の長安を目指したわけでしょ。
しかし、この100年のアメリカを中心としたいわゆるthe Westのリベラル帝国主義とこれまでの様々な帝国との違いは、覇権の維持のために世界中を相手とした著しい破壊が組み込まれていることだと思う。
リベラルとリベラル帝国主義
つまり、リベラル的な価値観に合わないという難癖をつけてターゲットを絞り、そこを破壊する、までが一幕で、次に、そこのインテリ階層をワシントン支配地域に移住させ、「西側でなければ人にあらず」教を吹き込んで、尚も抵抗を続ける現地に「リベラル」価値観の布教者として送り込んで新しい体制を作らせる、が二幕目。
一幕のタイトルが「破壊」で二幕目が「創造」なんじゃないですかね。
つまり、この風景こそリベラル帝国主義が第一幕において覚えず志向しているものだということだと思うわけですよ。(シリアの一風景)
■ エゴの病
どうしてこうなるのかというと、実に簡単な話で、他者との共存というアイデアが腑に落ちないから、なんじゃないですかね。全部を支配したいという欲求というのは、他者を認めないという意味ですから。
米軍の方針として、full spectrum dominanceというテクノカルタームが普通に使われていたこの10年かそこらというのは恐ろしい時代だったと思う。全範囲における優越性、と言っているわけですからね。
wikiはここ。
しかし逆にいえば、こうして可視化されることによって、アメリカというか西側というかを司る勢力の心象風景も見えて来たわけだから、悪いことばかりでもないんでしょう。可視化しないと倒せないもの。
で、現状、このエゴの病ともいうべき事態を米国内の人々が崩そうとしているというのは、地球上の大多数の人にとっては好しいことと言うべきでしょう。
ただ、この混乱の先にどういうシステムが可能なのかが見えていないことがそれはそれで不安はあるのだが。
日本の歴史〈19〉開国と攘夷 (中公文庫) | |
小西 四郎 | |
中央公論新社 |
日本の歴史12 - 天下一統 (中公文庫) | |
林屋 辰三郎 | |
中央公論新社 |
人と見れば奴隷か傭兵にする以外に思いつかないレジームになっちゃってたなぁと思うわけですよ。ほんと。
本当に大丈夫ですか?パイプラインのニュース聞いたけど
(特命希望)2017-01-25 22:48:22
オバマ政権で環境破壊防止のため許可しなかったパイプライン建設を、トランプ大統領が承認したと朝日新聞で読みましたが、これってこの間退役軍人が先住民に加勢して中止させたところでしょうか?
だとしたら「軍人のうち現実主義者の支援を得ているから今までと異なり金融帝国主義者の好きにできなくなる」という管理人さんの期待と予測は早くも外れたことにならないでしょうか。
と三種類に分けている政治家が居ますね。
パイプラインの件はオバマの横やり以前に戻っただけなので、今後敷設地等々の条件を詰めるんじゃないでしょうか。ただそれだけ。
で、トランプはおおむね軍人の上に載っている、といういのは別にまだ何も間違ってないと私は考えますけど?
退役軍人って膨大な数がいるわけで、その人たち個々の要求と合致する、などということはないでしょう。