アメリカの議会が国民にほとほと愛想をつかされているという話は何度か書いたけど、2日ぐらい前に見たTACの記事はなかなか凄かった。
共和党はどうやってイスラエルの党になったのか、
という記事。
How the GOP Became the Israel Party
Bill Kristol and John McCain have replaced Robert Novak and Pat Buchanan in Republican foreign policy influence.
By Scott McConnell • April 8, 2015
http://www.theamericanconservative.com/articles/how-the-gop-became-the-israel-party/
TACというのはThe American Conservative(アメリカの保守派)という雑誌の略称。だいたい、孤立派とかもよく言われる。つまり、世界制覇するとか馬鹿なこと言ってないでアメリカを立派な国にすることを考えろ、って系統。だから、ここは全盛期に戦略としてばらばら結んだ同盟を全部解消しろという人もいるので、おそらくそれが故に日本ではまず絶対に取り上げられない、存在を消された派閥なのではなかろうか、などと思ってみたりもする。しかし、あくまで共和党支持者の集団なので、決して影響力は極小ではない。
上の記事は、そのTACに載っていた、ある種この会派ならではの記事。オールタナティブ勢を別にすれば、この会派以外でイスラエルロビーと政党の関係を正面から論じるところはほぼないから。(俺がTACを読み続けているのはまさにこういう記事が出るからだ、とコメント欄にもあったが、まさにそれ)
イスラエル右派の影響力が強くなって共和党はもう共和党ではなくなるという危機感はずっと前からあって、それに抗する動きもあるにはあった。が、それもむなしく、今や共和党はイスラエルの党になっている。なによりも驚く(驚かないけど)のは、共和党のたとえばマケインなんかの放言の凄さだが、これを制御する勢力が共和党にはない、と。
イランの核問題で6か国協議が行われフレームワークが出来たとの発表があった時、共和党のカーク議員は、こんなことをしてると最後にはテヘランあたりでキノコ雲を見るはめになる、といい、マケイン議員はイスラエルはgo rogueで行くべきだ(悪党、狂人になれ、ということ)、と公言してる。
つまり、ものすごく簡単に戦争を考え、ものすごく無責任なことを語ってるわけだけど、それが精査される、詰問される、問題になる仕組みさえない。20年前にはこれを諌めて党内議論を別の方向に持っていこうという人たちもいたが、今ではいない。ジェームズ・ベーカー、コリン・パウエル、ブレント・スコウクロフトといったリアリスト系の人たちはもはやまったく影響力を持っていない。
こうなった一つの大きな要因はお金で、昔はイスラエルマネーは民主党の方が多かったが今では共和党が受け取る方が多い。2007年には大統領選に立候補したWesley Clarkが、New York Money peopleが大きな影響力を持ってるといって波紋を呼び、結果的にWesleyは謝らされた。
で、お金がメディアに入って、その媒体の性質が変わっていって、冷静な媒体が変質し、それに踊らされた人々がいて・・・・、といった話が延々続く。しかし、この方向に勝ち目があるかといえば、ありそうにない。なぜなら、イランは中東地域で最も安定した最も近代的な国になっていくだろうし、その一方イスラエルは恐ろしい傾向が見え見えで、そういうリアリティがアメリカにも入ってくる。するとアメリカ人はもうイスラエル支援なんてしたくなくなる。
と、希望のない話で終わってる。そうなんです。イスラエルの党になったはいいけど、そのイスラエルに勝ち目があるように見えないわけで、共和党どうするの、ってな話なんですね、実際。
いやほんと、共和党は復権できるんだろうか。民主党も同じだろうと言いたいところだけど、あっちは、民主主義とは手続きの公平さだ、とか、差別しない、権利の平等とかとか、退避地点として有効活用できる汎用性のあるアジェンダが結構ある。しかし、共和党にはそういうのがないから、リアリストか、イデオロギーか、宗教か、みたいな怪しい合作だったところから反共主義もダメ、リアリストもダメになって、宗教しか残らなくてその宗教がシオニズムでした、って、もうね、シャレになってない状況。
共和党が復権するシナリオがまったく見えない。
でもこの状況は実は2006年ごろにはすっかり出そろっていたとも言える。で、その絶望の中からロン・ポールが登場して、折からのリーマンショックを含む金融危機に際して、そもそも連邦制度理事会について国民は知るべきだという、アメリカの最大の暗部みたいなところから話しを説き起こした。小さい動きだったがまだ死んでない。
しかしこれは劇薬だったので、アメリカの本当の支配者層(人々はこれをdeep stateと呼んだりする)にとっても悪くはないが、多少は国民の言うことも聞きましょう的な人物としてオバマがあてられた。
しかしブッシュの乱行以来ずっと外に出ずっぱりのアメリカという状態そのものは変化せず、その上で過去数年、主に共和党の議員たちが、イランを撃て~、という恐ろしいことを主張し続けた。何度情報機関がその情報は間違っていると言っても、もう聞くもんじゃない、という繰り返し。その間にリビア、シリアでの大混乱もあった(こっちは民主党の責任ではあるけど)。
だから、少なからぬアメリカ国民の間では、もはや共和党か民主党かではなくて、戦争屋だから、という烙印を押されたらもう勝たせないというマーキングが確立されているような気がする。
一説によれば、アメリカのdeep stateにとって、こういう状況にあっては反ロシアムードは願ったりかなったりなんじゃないかという考えもあるという。なぜなら、中東だと相手の軍も弱いし、多数の一般人をぶち殺すシーンばっかりだから、アメリカは一方的な悪者にしかならない。しかしロシアは相応に強いし、リーダーも官僚各層も利口なので大暴発の可能性も限定的。その代わりに、脅威を煽ってNATO加盟国に金を出させることもできるし、なんだかアメリカが正義のような感じもしちゃうしいいじゃ~ん、みたいな。つまりロシア人の死によって自らを助けるという、まあなんだ、第二次世界大戦みたいな状況だすね。
しかしこれは上手くいかないでしょう。むしろ、怒らせないで適当にまとめられた相手であるロシアを敵対させることによって、おそらく冷戦期、あるいはその前のアメリカの過去とは何なのか問題に光が当たりまくって、欧州、中東、アジア、つまり広くユーラシア大陸でアメリカは大きな信頼を失うという流れになってると私はみてる。
つまり、国内的にもダメ、外でもダメという二重の不信感の中にアメリカはいる、という感じだすかね~。
だから、折からのプーチン悪玉論の馬鹿みたいな展開は、アメリカは正義だ、というアメリカ国民向けプロパガンダの要素も大きいのかもしれない。これを2年ぐらいやるとアメリカ人はその気になってくれると思ってるとか? いくらなんでも、いくらアメリカ人でも、ないっしょ。単なる気休めにもなってない。
この間、アメリカ人は、一般人が推挙していって大統領を決めるんだ、みたいな長らくアメリカ人が信じて来た微笑ましいスキームは、嘘だろうとは思ってたけど本当に嘘だったというところまで織り込んだとも言えると思うわけですよ。
さらに、議会も同様にダメで、二大政党制が根本的になんの意味もない的なところまであと数歩みたいな感じ。だってどっちもへんなんだもの。
■ 妄想
で、今後の展開なんだけど、そのdeep stateの人たちも、確かに大イスラエル主義的に世界を大変革させたがってる妄想系の人もいるだろうけど、その他はさすがにアメリカの民主体制までぶち壊したいとは思ってないだろうと思う。
だからどこかで機を捉えて、ケネディー的なものでアメリカをユナイトさせるのかな、と思ってみたりもする。混乱→絶望→ケネディ的な何か、ってな方向。
さてそこで、今現在日本の政権は、このイスラエルになっちゃった共和党にはパイプはあるらしいが、政権を持っている民主党にはほぼ有効なものはないと言われる状況・・・。せいぜいヒラリーにコネがありそう。でも、ヒラリーではケネディーにはなれない。あの人は汚すぎた。
今後の日本の動向はかなり危ぶまれると言わざるを得ないと思うわけですよ。
2008年の金融危機が発生した時、ニーアル・ファーガソンがカナダのケーブルテレビの番組に出ていてこの危機の概要を説明し、その上で、こういう危機になると、1920年代にソ連が脚光を浴びたように中央で大きな権力を持つ国の方が対応が早くて効率的でいいじゃないか、という話になる恐れがある。それはすなわち民主制の危機だ。しかし私(ファーガソン)はどのシステムも悪いにしても民主制は最悪の中の最良だというチャーチルの考えを支持する、という話をしていた。
その時は私も、なるほどと思っていたのだけど、そこから7年たって、相手(概ね中国)がどうのという前に、アメリカという国内の統治機構に潜んでいた闇の問題の方が表面化してしまったのがなんとも痛い。
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