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狭く、かたくなに、孤独に生きる世界での事、久美子はその頃、真面目に仕事をしてはいたが、それほど、仕事に対して情熱を持てなかったし、仕事に満足して生きてきたわけではなく、私学の短大の卒業だから、久美子は身のたけにあった、与えられた仕事が出来ていれば、それでよかった。
それでも、若く、情熱を持って、仕事に生きがいを持てた時期も確かにあった。
若さゆえに、性格的なのか無謀とも思える事であっても、全力で取り組めば、叶えられる夢をみる、そんな時期の事だった!
あれは、三十代から四十代にかけて、久美子は仕事や世の中の仕組みに強い矛盾を感じた出来事があった。
久美子は、何か、その頃の自分を変えたくて、ある企画書を上司に提出した。
だが、受け取りはしたけれど、久美子の企画としては、認めてはくれず、あろう事か、久美子の企画は、同じ職場の男性社員の提出した企画の物として企画は認められて、仕事として進められた。
久美子はなぜ、自分の考えた企画が他の人の物になってしまうのかを、抗議しても、簡単に拒否された事が、久美子の心を酷く傷つけて、人間不信になってしまうほど気持ちが落ち込んでいた。
その事があってから、何かにせきたてられるような思いと、自分の能力の有無がどれほどのものか知りたいと切実に思った時期があった。
それは、いつも、久美子の心を支配し、久美子の中心にいて、語りかける「存在」が苦しかった。
この「存在」を、もう、取り除いてもいい時期だと、その頃の久美子は思っていた。
その存在を排除出来るチャンスのようにも思えて、久美子自身を変えたいと願っての事かも知れない!
とにかく、久美子は生き方を変えたいと思う時期でもあったのだが・・・
眼に見えぬ存在
言葉を交わせぬ存在
心だけを大きくする存在
時として苦しい存在
未熟だったあの日の存在
ただ穏やかに生きて行く
時を重ねて少しだけ
大人になった私に
重い存在が心を支配する
久美子は故郷では、少しは名の知れた高校を卒業した。
その頃、可能な事であれば、東京の私立大学に行きたかったが、現実には久美子に深い悩み、苦しみもあった事、又、私学に行けるほどの経済力も無い事で、その頃の久美子は、自分の置かれている立場に流されて生きるしか自分の出来る事はないのだと、諦めていた。
日々、久美子の心を捉えて、離さない、姿こそ見えないけれど、早熟な愛が刻む美しい傷あと、炎のように、いつも心の中にいる「春馬」への愛に溺れそうな切ない想いも又、久美子の生き方・・・
その頃はすでに、母は亡くなって、姉夫婦が家を継いでいた。
そして、父の事を話さなくては、この物語は前へ進まないけれど、久美子が高校を卒業出来た事は、経済的な面や家庭の置かれていた状況を考えただけでも、奇跡的な事だった。
だから、久美子は、高校卒業と同時に、故郷を逃げるような思いで、松本に出て就職した。
その理由は、後につづることになりますが、久美子は十八歳の時に、久美子の人生の全てが決まってしまったのかも知れない・・・
それは久美子に与えられた運命のように、めぐりあう愛に溺れて・・・
つづく
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まだ、感性が元気だった頃、いっきに書き上げた、小説なので、今読み返して、あの頃の感情に戻れない淋しさを感じてるけど、これも、私の生きた人生だとおもいながら・・・