今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

愛をこう人 4 (小説)改編版

2016-12-11 19:39:56 | 小説 愛をこう人 改編前版

(4)
六十五年生きていて初めて体験した事だった、ひと月の病院での日々、心と体に重い荷物をくくりつけているようだった、ベットから起き上がる事がこれほど、エネルギーの要る事だったと思い知らされた。

あまりにもいっきに体力が落ちてしまい、情けない状態だった。
ひと月の入院生活で、それからの私の運命は大きく変わってしまったと感じた。
病院のベットの中で、私は、すべてのエネルギーの抜け落ちて行く夢を、何度も、何度も、みていた、説明の出来ない不安感と微かな体の痛みが続く・・・

時折、浅い眠りからめざめて、ただ、ぼんやりと、横たわるベットから視覚に入ってくる、天井の薄黒く、汚れたシミが、私に襲い掛かってきそうなほど、揺らぎ、動く怪物に見えてきて私は思わず、この体を緊張させて、硬く、小さく体を丸くして眼をとじて、通り過ぎて行く、恐怖感をやりすごしていた。

やがて、検査の結果が出たと、担当医は、無表情に伝える言葉に私は、不思議なほど、驚きも、不安も、怖さもない、私自身も無表情だった気がする、他人事のように聞いていた、体に起きている不快感とは別の人格があったのだろうかとさえ思える。

少し時間が過ぎて、ドクターの話した言葉、ひとつ、ひとつを思いだすように、自分の事として、現実に起きている事として、受入れるしかなかった。
それでも、病院の担当医に、私はわけの分からない事を心の中で言いかえして、抵抗を試みている私の体には!
「ガン細胞などより着くはずがない!」

ただ、そう自分につぶやき続けていた、それほどまで、私は現実を受け入れる事が出来なかった。

けれど、心の何処かで、無駄な抵抗だと、はっきりとした意識も、確かにあったのだと思う、久美子はあの激しい痛みで、意識をなくして病院へ担ぎ込まれるまで、時おり、酷いめまいが起きて、背中の鈍い痛みがあるだけで、四十年以上働きづめに働き、ひとり生きてきた自信があった、結婚もせず、いや、望まなかった、久美子の心にある、言葉に出来ない!
「あの人への深い想い」

消す事の出来ない、強烈な記憶が
『私のすべての感情を支配していた』

世間では一流だといわれた、杉丸商事に、短大を卒業して、事務職から始めて、商社員として、勤めて、定年をあと一年を残して退職した。

久美子が商社に就職した頃は、女性社員は、必ず、同じ職場の方々にお茶を出すサービスからが、最初の仕事の、決まりごとのように、その頃の久美子は、何もわからず、指示されるがままに、無我夢中で仕事をして、毎日が過ぎて行った。

世間一般での見方は、杉丸商事と言えば、海外でも知られている一流の総合商社だ。
もちろん、世界中の国々と取引のある会社だが実態は、封建的で
「男性優位社会で、学歴社会だ」

久美子が事務職を数年勤めていた頃に
「男女雇用均等法が制定された」

そんな中で、久美子が勤める、杉丸商事でも、名ばかりの、男女雇用均等法の実力主義を取り入れはじめていた。
けれど、まだ、まだ一握りの女性社員にだけ認められた、狭き門であって、一般の女子社員には「高値の花」だと思わせる、一流の大学を卒業した女性社員にだけ、認められた事だった。
事実、普通に女性社員のほとんどは嫁入り前の腰掛的職場で、結婚相手を見つけるための職場だと考える人も多かったと久美子は感じていた。

つづく






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