湖のほとりから。

花と空と心模様を写真と詩と文に託して。

お月様が生まれるとき

2018-09-28 09:14:50 | 日記
老婆は
お茶をすすりながら
私に聞いてきた


『お月様の生まれる時をみたことがあるかー』


お月様が生まれるとき、、、。


私はつぶやきながら
思い巡らして
そんなときを見たことがあるのかと
分厚くなって
探すのが大変になったものを
パラパラとめくっていくようなことを
慌ててしているようだった


けれど
見当たらない


老婆は続いて言った

『あの日、少しあたりが薄暗くなってるときに、浜辺にいたのよ。
水平線ギリギリから
小さな小さなルビーみたいな光が見えたの。
怖くなってね。
すこし、ゆらゆらしてるみたいに見えたの。
UFOかしらって思ったり
けれどね、その怖いような光に魅入られてしまってね。
しばらく見ていたら、その光が
だんだんと大きくなっていくのよ。
いったい何がどうなってるのかと
また、しばらく見ていたの。
それが水平線から登って顔を出したら
なんと、お月様だったから
私はお月様の生まれる時を見たんだなぁって思ったの。
一度見るといいよ
それはそれは、怖いほど、美しいもんだよー、人生が変わるようだよー』


もし
その
お月様が生まれる瞬間が見れるのは
選ばれた者であるならば
私は選ばれたいと思った


老婆が同じ日に
同じように
地平線を見ていても
一緒にいた数人は
何故かその数分を見ることはできなかったらしい。
その老婆だけが見れたという。


どこが、人生のスイッチかと
わたしには分からないけれど


その老婆はいつも穏やかで
人には誠実で、にこやか
話上手、聞き上手な人で
私の憧れの一人の人で

こんな人になりたいと思う実在の人


選ばれし者の後をついていくように
慕うことから始めようと
時折訪ねていた


その老婆がいつになく語った日


鬱陶しい雨と眠気で半ば思考停止だった私に
キラキラとしたルビー色を放り込んでくれた


『お月様が生まれる時』を私は
いつか
きっと
見るんだ!


そう
思わせてくれた


そう
この胸の中に煌めいたものを作ってくれたんだ






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