湖のほとりから。

花と空と心模様を写真と詩と文に託して。

沈丁花のころ

2020-03-09 10:56:00 | コラム
中学2年の夏休みが終わってすぐに
私は転校生になった。

転校生になった自分
不安の中、担任に言われた。
『どこの部活に入る?』
『はい、バレー部に』

それまで、やっていたバレーボールをやめたくなくて、
何にもその中学の情報も知り得ないまま、
元バレー部の転校生が、バレー部に入るらしい、、と
先に噂だけが先行したようだった。

ある日、まだ、入部もしてないころ。
3年生の先輩らしい人から
放課後、呼び出しを受けた。

先輩は言った
『2年がすべて辞めて、3年が抜けたとこに入部してこようなんて、
えらい根性のやつだ!どうせ、キャプテンにでもなりたいと甘い考えしてるんだろう。その考えが甘いことを教えてやる。
ここに3年が5人いる。そのボールがどれだけ取れるかで、入部を許そうやないか』

はぁー?
なんじゃこりゃー?
集団リンチか?

まして、こちらが、制服のまま。
2年の同学年がすべて辞めたのも知らないし、、、。

『はい、わかりました。ボール受けますが、膝にパットだけ貸して下さい』

体育館でもなく、運動場の隅。
どんな球だっても、膝は大事にしたい。

『貸してやれー』と
パットが投げられて
一礼して受け取った。

1人づつ対面パス、、と言うより
片手で、スパイクを打ち続けてくるのをレシーブで返していく。

いわゆる、しごき。

はいはいと、開き直っていた。

私は不良でもなく
普通の中学生だったけれど
やればなんとかなると思っていた。
それだけの練習を前の学校でもしていたし、私は小学生の頃からバレーボールをしていたので
あまり恐怖感もなかった。
先輩方に入部を断られたところで
やめればいいだけのこと。

何球づつだったのだろう
案外軽く返していっていった。
最後に最初にドスを聞かせてくれた小太りの先輩。
一番怖そうだったけど
打ち出される球は、大したことはなかった。

ある程度、打ち終わったあと
『根性あるじゃないかー、入部をみとめてやる!』

はぁ?
あなた達に決められることじゃないのに、子供じみたことをするんだなぁーと、私は冷めていたけど、
ここは、仕方がない。
部活の上下関係と言うのは、控えめに限る。

膝のパットを返しながら
『ありがとうございます』

泥だらけになりながら
ミソギを受けたのだなぁ。
意味ないねーって。

冷静にいたのが良かったのか
それから、その5人の先輩方が
とても私を気に入ってくれて
後に、高校受験やプライペートにも
関わってくることになるのだけど、、。

そして、はれて私は2年ただ1人。


キャプテンなんてどうでも良かった。
バレーボールだけ出来れば良かった。
しかし、先輩、後輩からの狭間で
キャプテンをするしかなかった。

そうして
年も明けて、後輩との仲も上々の部活に変化があった。


春休みの前だった。
後輩が、隣の建物を見てる。
練習しながら。
果ては、練習したくないと言う後輩も出てきた。

なんぞや?

よくよく聞けば
隣の大学病院の病室のとある窓に
いつもこちらを見ている男子がいて、後輩達は、みんな、その男子に
恋をしてると言う。

あ、だからかー
部室から見上げたら
隣の4階あたりの病棟の窓に
色白の王子様のような男子がいるではないか。
手を振ると、手を振り返してくる。

春休みになってから
みんなで、お見舞いに行こうと言う話になった。


4階にむかって
お見舞いに行ってもいいかと聞く。
日にちを決めて、行くよと言う。


これ、キャプテンのお仕事じゃないんですけどー(笑)


私が引き連れて行くように
病棟に入っても
ナースステーションに話をしにいく。
王子様の病室に入るが
みんなモジモジ、だまったまま。
仕方ないので、その男子の年や名前。
どこが悪くて入院してるのかを聞く。

これも、キャプテンだからかー?

いい加減にしろー(笑)

しかし、相手は17歳の美少年
話をする私も悪い気はしない。


元気にバレーボールをしてる私達を見ていて楽しいと言っていた。

みんながそれぞれに持ち寄ったお見舞いを渡してから
ニコニコ顔で帰る後輩の嬉しそうな顔たち。


しばらくは、その姿が窓にあるときは、みんなで手を振ると
17歳の美少年は、手を振り返す。

キャーっと歓声が上がる。

画用紙に元気ですかーって書いてみせる。

相手も、画用紙に
元気ですと書いてくる。

また、キャーと
歓声が上がる。

春休みの練習風景の一つだった。



沈丁花が咲き誇る季節から
その花が終わるころ

気づけば、そこの窓に
美少年の姿はなかった。

腎臓の病だったらしく、
おそらく、今に思えばネフローゼか何かで、しばらくの入院ののち
退院したのだと思う。

ちょっとした、ほのかな思い出
沈丁花の香りとともに。

バカらしいほど
純粋だった中学のころ。







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