5-2-1 制度的現実の創出(承前)
II型:構成的規則「XはCにおいてYと見なされる」
境界の地位機能を創出したのとおなじ部族は、単にある特定の人物に地位を割り当てることによって族長の地位機能も創出しうる。しかし幾世代かを経るあいだには、彼らは王を選び出す標準的な手続きをよく進化させうるであろう。大部分が文盲で、王の地位が男系で継承される社会を考えてみる。ヨーロッパはかつて数世紀に亘ってそうだったわけである。そこでは地位機能は死んだ王の長男に冠せられていた。この場合、境界の場合とは異なって、それは実際に規則であった。「任意のxについて、xが死んだ王の長男であるならば、xは王と見なされる」。たぶん、たいした規則ではなかった、とはいえ成文化可能な規則ではあった。*
地位機能の創出と存続は書かれた文書の形態を必要としない。典型的に、共同体はアタマ飾りとか王冠とか特別な衣服といった、他の地位表示を用いるであろう。無文字社会においてさえこれらの象徴としての機能、それらは地位機能の創出にとって必要ではないのだが、それらは維持において有用である。なぜならそれらは問題の地位機能の持ち主を容易に見定めることができるし、またそれらは彼または彼女の王族としての地位を象徴するからである。文字のある社会では制服や結婚指輪のような非言語的地位表示がたくさん用いられる。
「XはCにおいてYと見なされる」構成的規則──この場合「死んだ王の長男Xが新しい王Yと見なされる」という規則──の意味(論理形式、意味内容)は何か?構成的規則を規制的規則(regurative rule)と比べてみればもっともよく理解できる。たとえば規制的規則、「クルマは道路の右手側を走れ」の場合、それは定常命令型言語行為である。その機能はある行動形態をもたらし、行動が規則の内容に整合すれば満たされる。そうした規則は上向きの、つまり「世界→言葉」の適合方向を持つ。対照的に、構成的規則「死んだ王の長男は新たな王と見なされる」は定常宣言型言語行為である。その機能は、旧王の死に際してある人物を新たな王にする、という例を作ることである。誰も、長男が新たな王と見なすために結果を受容すること以外の他に何もする必要はない。それは双方向の、つまり「言葉→世界」と「世界→言葉」の適合方向をもつ。同時にそれは、それがその場合であると表象することによって何かをその場合にする。わたしはこれを定常地位機能宣言と呼ぶ。死んだ王の長男(存命の最年長の息子)という条件を満たす者は誰であれ新たな王であるということを無限の未来に亘ってその場合とするからである。それは何かを場合とするが、しかし同様の無限個の何かに対して適用される。
III型:複合的な場合:法人格(corporation)の創出
以上のハナシを、明示的な規則、複雑な法的構造、書き言葉を必要とする、はるかに複雑な場合と対比させてみることにしよう。それは有限責任会社の創出である。カリフォルニア州においては、[他の]多くの区域と同様、明文法が宣言型言語行為によって法人の創出を可能にする。
カリフォルニア州法(the California Code)は法人格を次のように定めている。
これらの2項は一体として非常に強力な構成的規則を形成している。実際のテキストは定常宣言型言語行為である。それらは、ある特定の条件を満たすあらゆる実体はもうひとつの宣言型言語行為を行うことによって法人を組織することができるという宣言型言語行為によってそれを場合にしている。そして何らかの他の条件が生起しない限り法人は「永久に」存在する。法人の創出にかかわるふたつの宣言型言語行為がこのように存在する。法律はそれ自体ひとつの(あるいは、ひとそろいの)宣言型言語行為である。それが宣言するのはある種の宣言を行ったものは誰であれ法人を組織したことになる、ということである。
そうした構成的規則はどんな制度的事実が創出されるかの条件を特定する宣言型言語行為である。ある場合は(この場合のように)、その条件はもうひとつの宣言を行うことにかかわっている。またある場合には野球で一塁打を打つ場合、あるいは第一級殺人の罪を犯したという場合など、制度的事実を構成する行為であるが、それ自体は言語行為でない場合がある。解くべきパズルのひとつは、もしすべての制度的事実が宣言型言語行為によって創出されるのだとして、一塁打とか第一級殺人のような出来事が言語行為でないことをいかに説明するのかということである。その答は、問われている物理的出来事が一塁打や第一級殺人などの制度的事実を構成するのは、ただただそれらの物理的事実に地位機能を割り当てる定常宣言型言語行為が存在するからだ、ということになる。規則は、これこれの条件を満たすことを特定のある種の制度的事実と見なすことを宣言する。
法人の場合において、他の場合──石の線が境界と認識されるとか、長男が王位を継承するとか──がそうであったような、それが転じて法人となったというような対象は何もなかった(no preexisting object)ということに注意しなければならない。法律はある既存のXが法人となるとは言っていない。そうではなく、法人を組織することができるのである。これらの書かれた言語行為の行い──「法人条項の行使と申出」──は法人の創出と見なされる。そして──「法人は条項の申出に基づいて存在を開始し、永久に存続する・・・」のである。
この場合において我々は非常に強い対象物(有限責任会社)を、言ってみれば希薄な空気の中に創出したようである。法人となる前に既存の対象物は何もなかった。法人が存在するという宣言型言語行為、認可(fiat)だけでそれを作り出したのである。そうしようとすることの全体は現実の人々の間にひと揃いの綿密な権力関係を創出するということにも注意しなければならない。実際、企業はそうした関係を含んでいる。法人企業を創出すれば、それによってビジネスを行うことのできる実体、および社長・理事長・株主といった地位をもつ実体を創出する。企業が創出されると、その地位機能は実際に存在する人々に生じる。法人はその中のさまざまな地位機能の位置を占めている人物が変わってもその自己同一性を維持することができる。
(つづく)
II型:構成的規則「XはCにおいてYと見なされる」
境界の地位機能を創出したのとおなじ部族は、単にある特定の人物に地位を割り当てることによって族長の地位機能も創出しうる。しかし幾世代かを経るあいだには、彼らは王を選び出す標準的な手続きをよく進化させうるであろう。大部分が文盲で、王の地位が男系で継承される社会を考えてみる。ヨーロッパはかつて数世紀に亘ってそうだったわけである。そこでは地位機能は死んだ王の長男に冠せられていた。この場合、境界の場合とは異なって、それは実際に規則であった。「任意のxについて、xが死んだ王の長男であるならば、xは王と見なされる」。たぶん、たいした規則ではなかった、とはいえ成文化可能な規則ではあった。*
* | すでに註記した通り、わたしは「x」や「y」などの英小文字を量化の変項として、また「X」や「Y」などの英大文字を隣接する名詞句によって束縛されうる自由変項として用いる。 |
地位機能の創出と存続は書かれた文書の形態を必要としない。典型的に、共同体はアタマ飾りとか王冠とか特別な衣服といった、他の地位表示を用いるであろう。無文字社会においてさえこれらの象徴としての機能、それらは地位機能の創出にとって必要ではないのだが、それらは維持において有用である。なぜならそれらは問題の地位機能の持ち主を容易に見定めることができるし、またそれらは彼または彼女の王族としての地位を象徴するからである。文字のある社会では制服や結婚指輪のような非言語的地位表示がたくさん用いられる。
「XはCにおいてYと見なされる」構成的規則──この場合「死んだ王の長男Xが新しい王Yと見なされる」という規則──の意味(論理形式、意味内容)は何か?構成的規則を規制的規則(regurative rule)と比べてみればもっともよく理解できる。たとえば規制的規則、「クルマは道路の右手側を走れ」の場合、それは定常命令型言語行為である。その機能はある行動形態をもたらし、行動が規則の内容に整合すれば満たされる。そうした規則は上向きの、つまり「世界→言葉」の適合方向を持つ。対照的に、構成的規則「死んだ王の長男は新たな王と見なされる」は定常宣言型言語行為である。その機能は、旧王の死に際してある人物を新たな王にする、という例を作ることである。誰も、長男が新たな王と見なすために結果を受容すること以外の他に何もする必要はない。それは双方向の、つまり「言葉→世界」と「世界→言葉」の適合方向をもつ。同時にそれは、それがその場合であると表象することによって何かをその場合にする。わたしはこれを定常地位機能宣言と呼ぶ。死んだ王の長男(存命の最年長の息子)という条件を満たす者は誰であれ新たな王であるということを無限の未来に亘ってその場合とするからである。それは何かを場合とするが、しかし同様の無限個の何かに対して適用される。
III型:複合的な場合:法人格(corporation)の創出
以上のハナシを、明示的な規則、複雑な法的構造、書き言葉を必要とする、はるかに複雑な場合と対比させてみることにしよう。それは有限責任会社の創出である。カリフォルニア州においては、[他の]多くの区域と同様、明文法が宣言型言語行為によって法人の創出を可能にする。
カリフォルニア州法(the California Code)は法人格を次のように定めている。
第200条A項: | 「ひとりまたは複数の自然人・合名会社(パートナーシップ)・組合・団体は、国内と国外とを問わず、法人(incorporation)条項(article)の行使(executing)と申出(filing)によって、この区分(division)における法人を組織することができる」 |
同C項: | 「法人は条項の申出に基づいて存在を開始し、法律によって、または条項において明白に異なる規定がなされない限りは永久に存続する。」 (太字[原文ではイタリック]は引用者による) |
※ | 法律の条文の言い回しが無駄に難解なのはどこの国でも同じだということだろうが、さすがに外国語のそれとなるともう、手も足も出ない感じである。なんとなくそれっぽく訳しているように見えるかもしれないが、本当のところは何が何だか、である。ググっても同法の訳文らしいものは見当たらない・・・まあ、そらそうだ。 |
これらの2項は一体として非常に強力な構成的規則を形成している。実際のテキストは定常宣言型言語行為である。それらは、ある特定の条件を満たすあらゆる実体はもうひとつの宣言型言語行為を行うことによって法人を組織することができるという宣言型言語行為によってそれを場合にしている。そして何らかの他の条件が生起しない限り法人は「永久に」存在する。法人の創出にかかわるふたつの宣言型言語行為がこのように存在する。法律はそれ自体ひとつの(あるいは、ひとそろいの)宣言型言語行為である。それが宣言するのはある種の宣言を行ったものは誰であれ法人を組織したことになる、ということである。
そうした構成的規則はどんな制度的事実が創出されるかの条件を特定する宣言型言語行為である。ある場合は(この場合のように)、その条件はもうひとつの宣言を行うことにかかわっている。またある場合には野球で一塁打を打つ場合、あるいは第一級殺人の罪を犯したという場合など、制度的事実を構成する行為であるが、それ自体は言語行為でない場合がある。解くべきパズルのひとつは、もしすべての制度的事実が宣言型言語行為によって創出されるのだとして、一塁打とか第一級殺人のような出来事が言語行為でないことをいかに説明するのかということである。その答は、問われている物理的出来事が一塁打や第一級殺人などの制度的事実を構成するのは、ただただそれらの物理的事実に地位機能を割り当てる定常宣言型言語行為が存在するからだ、ということになる。規則は、これこれの条件を満たすことを特定のある種の制度的事実と見なすことを宣言する。
法人の場合において、他の場合──石の線が境界と認識されるとか、長男が王位を継承するとか──がそうであったような、それが転じて法人となったというような対象は何もなかった(no preexisting object)ということに注意しなければならない。法律はある既存のXが法人となるとは言っていない。そうではなく、法人を組織することができるのである。これらの書かれた言語行為の行い──「法人条項の行使と申出」──は法人の創出と見なされる。そして──「法人は条項の申出に基づいて存在を開始し、永久に存続する・・・」のである。
この場合において我々は非常に強い対象物(有限責任会社)を、言ってみれば希薄な空気の中に創出したようである。法人となる前に既存の対象物は何もなかった。法人が存在するという宣言型言語行為、認可(fiat)だけでそれを作り出したのである。そうしようとすることの全体は現実の人々の間にひと揃いの綿密な権力関係を創出するということにも注意しなければならない。実際、企業はそうした関係を含んでいる。法人企業を創出すれば、それによってビジネスを行うことのできる実体、および社長・理事長・株主といった地位をもつ実体を創出する。企業が創出されると、その地位機能は実際に存在する人々に生じる。法人はその中のさまざまな地位機能の位置を占めている人物が変わってもその自己同一性を維持することができる。
(つづく)