あるマーケティングプロデューサー日記

ビジネスを通じて出会った人々、新しい世界、成功事例などを日々綴っていきたいと思います。

プロが示すインテリジェンス交渉術の実例

2007-08-19 00:03:02 | インテリジェンスの歴史
こんばんは。

前回に引き続き、今月の文芸春秋からもう一つ。『自壊する帝国』で有名な元外務省外務事務官佐藤優氏の『インテリジェンス交渉術』という記事が、非常に面白かったのでご紹介します。

ビジネスマン必見と謳っているだけあって、世界外交の駆け引きの実態が生々しく語られています。以下引用します。

筆者が現役時代、ロシアにおける情報収集活動で重視したのは、失脚した要人である。ソ連時代に共産党政治局員や中央委員を務めた人々は、「権力の文法」がわかる。従って、筆者が別のところで入手した情報をあてて分析や評価について質すと、旧権力の中枢にいた人々は実に正確で深い分析を提示してくれた。

筆者の印象では、これらの人々は現政権に対する反発から協力してくれたというよりも、重要な政局の問題について意見を求められるのが嬉しいのである。

かつて権力の中枢にいて、5分の面会時間を捻出することにも苦労していた人々が、突然仕事を奪われると、形容しがたい寂しさに襲われる。この寂しさを利用することも、インテリジェンス交渉術においては重要だ。

(※中略)

人間にとって一番大切な価値は生命だ。当時、北方領土の病院は、メスの代わりにカミソリを使い、手術に工業用のノコギリが使われ、医薬品もほとんどないという悲惨な状態だった。そこに日本がレントゲン施設や病院を寄贈し、「住民の生命を守ってくれるのは、モスクワやユジノサハリンスクではなく東京だ」という雰囲気を醸し出した。しかし、日本外務省はそこに“毒”を入れておいた。

日本政府の立場としては、北方四島はロシアに不法占拠された状態である。従って、ロシアの不法占拠を追認したり、強化することにつながるインフラ整備は行えない。そこで、病院やレントゲン施設にしても、あえてプレハブ施設にした。ロシア側が図に乗って、日本の利益に反する行動をとったらいつでも解体、撤去するという含みをもたせたのだ。

病院、レントゲン施設を供与した後、現地の対日感情は目に見えて好転した。日本外務省は更に知恵を働かせた。北方四島のライフラインを本格的に日本が握ることを考えたのである。(※中略)

狡猾な日本外務省のロシア屋たちはここに目をつけた。人道名目で、ディーゼル発電機を供与する。ただし、発電容量は民生用ぎりぎりで産業には使えないようにする。しかもロシア製ではなくメンテナンスが難しい日本製にし、重油も日本が供給する。そうすれば、日本が北方領土のライフラインを握ることができると考えた。そもそも外交の世界に純粋な人道など存在しない。常に「人道」は名目で、自国の保全、機会があれば増進を狙っているのだ。

しかし、その狙いを公言すれば、ロシアは「そんな人道支援はいらない」と断ってくる。事実ロシアは、日本の狙いに気付き、「電力支援は歓迎するが、ぜひ地熱発電にして欲しい」と言ってきた。確かに国後島、択捉島は火山島なので地熱発電が可能だ。地熱発電だと、一旦施設を設置したら、ロシアは電力を自由に得ることができる。それは現地のライフラインを握るという日本の戦略に合致しない。

そこで日本の外務省は、エリツィン大統領から「ディーゼル発電機がいい」という言質をとることにした。クレムリンに「エリツィン大統領との関係を強化するためには北方四島にインフラ整備を行わないという従来の方針を覆し、ディーゼル発電機を供与するという腹を日本政府は固めた」という情報を事前に流し、その上で、1999年4月の静岡県伊東市川奈で行われた首脳会談で、橋本首相から「ディーゼル発電機でどうか」と水を向けてもらい、エリツィン大統領から「それでいい。ありがとう」という言質をとったのである。

この発言を盾に日本側は、「エリツィン大統領がディーゼル発電機と言っているのに、あなたはそれに反対するのか」というと誰もが黙った。ロシアでは大統領の発言は絶対だ。

ここには、プロフェッショナルのやり方の一例が示されています。感情論ではなく、徹底した機能論で推し進めていく。正確な情勢分析とそれに基づく戦略。この場合の最終GOALは、“日本の国益”です。

上記の事例は民間のビジネスシーンに置き換えると、元有名企業の社長を顧問に迎えたり、ライセンス供給での駆け引き等、似た状況はたくさんあります。そこの“原理を読み取る”ことができ、“有効な手を打てる”ことが、交渉術で勝つための重要なファクターなのではないでしょうか。

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