あるマーケティングプロデューサー日記

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ドイツ空軍首脳不和の影響

2008-03-29 23:50:09 | インテリジェンスの歴史
引き続き、第二次世界大戦ブックスから。ドイツ空軍の首脳陣の複雑な人間関係を引きづりながら、開戦に突入していきます。(※写真は、大戦が近づくにつれ軍用機の量産に拍車がかかる軍需工場)

◆首脳部の不和

まず、平和だった最後の2年間に、ドイツ空軍首脳部に起こった変化に、目を向けてみよう。

既に述べたように、1936年、ケッセリンクはウェーバーの死後、空軍総参謀長の地位についたが、直属の上官であるミルヒとの軋轢が、次第に大きくなっていった。1年後、ケッセリンクはゲーリングに辞表を出した。ケッセリンクは第三航空軍司令官に転出し、彼の後には、前空軍人事局長ハンス-ユルゲン・シュツンプ少将が就任した。

しかし、総参謀長に就任したシュツンプは、任務が極めて容易ならぬものであるのを知った。絶え間ない拡張政策のために、とどまることを知らぬ組織の変革が必要であったが、そのために部下を十分掌握する時間がなかった。(※中略)

一方ミルヒ自身も、ヒトラーからあまりに大きい信頼と寵愛を受けていたので、ゲーリングから睨まれていた。ゲーリングは、ミルヒこそ空軍の指導者として手ごわい競争相手である、と見ていたのである。ミルヒは私(筆者/アルフレッド・プライス―1936年生まれ。英空軍将校として主としてジェット爆撃機で2,700時間の飛行経験の持ち主で、新進の航空戦史家として定評がある)に次のように話したことがある。

「ナチ党員のある人たちは、空軍の真の総帥は私であって、ゲーリングではないと言い始めていた。彼らがそう言ったのは、特に私に好意を持ったわけではなく、ゲーリングを憎んでいたからだ」

ゲーリングは、疑心暗鬼の恐怖にかられたので、ミルヒの側近にスパイを入れたり、またミルヒの持つ権限のいくつかを取り上げることによって報復した。このため、ミルヒは空軍総司令部の幕僚部門、および技術、人事両部門への直接の支配権をアッという間に失ってしまった。(※中略)

かくて戦争の前夜、ドイツ空軍のトップにいた四人の男―ゲーリング、ミルヒ、ウーデット、イエショネク―は、それぞれが任務を果たすのに不適格か、あるいは力がないという状況であった。(※中略)

このような状態にも関わらず、ミルヒとウェーバーが樹立した空軍の基礎は、戦争直前に発生したこうした分裂の危機に対し、まだしっかりしていた。しかしその後、この爆発寸前の首脳陣の対立が、敵による外側からの圧迫と重なり合った時、ドイツ空軍の指導力の貧困さは、重大な結果をもたらすことになった。

なぜなら、ドイツ空軍は、その首脳部に指導されることもなく、単に管理されるだけで、戦争に突入していったからである。


◆首脳陣の不和、新型機に影響

空軍総帥部が、このようにバラバラなために、やがて大きなミスが生じた。中でも最大のミスの一つは、Do17とHe111以後の全ての爆撃機は急降下爆撃が出来なくてはならない、というイエショネクの下した決定であった。この決定がもたらした諸問題は、後で次第に明らかになるはずである。しかしまず、その背後にある原因について考えてみよう。

高性能爆弾による爆撃効果を増大させるには、二つの方法がある。

その一つは、大量の爆弾を投下するために、大型機を使用するか、あるいは小型機をたくさん使用するかである。

もう一つは、爆弾の浪費を少なくするために、爆撃精度を向上させることである。

事実、爆撃精度をわずかに改善するだけで、効果は非常に増大するのである。戦前のドイツの標準型水平爆撃照準器、ゲルツ219照準器は、性能の悪いお粗末な計測器であった。

このような照準器を使って、水平爆撃機で針の先ほどの目標を破壊するには、多量の爆弾を投下しなければならなかった。ところが、Ju87急降下爆撃機は―この機種はスペイン内乱で実戦効果が認められた―極めて正確に攻撃できる、恐るべき能力があることを実証した。

こういうわけで、ドイツ空軍部内には、長距離用急降下爆撃機の熱烈な支持者が育っていた。(※中略)


◆次期爆撃機の開発に失敗

1938~1939年になると、新しい中型と大型の爆撃機が、試験飛行の段階に達した。それは15トンのドルニエDo217と、30トンのハインケルHe177であった。このニ機種は、製作工程の中間で、急降下攻撃ができるように修正することが決定された。しかし初めの飛行テストで、両機ともこの目的には極めて不適格なことが、すぐに実証されてしまった。

急降下から機体を引き落とす時に加わる加重があまりにも強すぎて、機体構造が、正規の操縦に耐え切れないことがわかったのである。(※中略)


ドイツ空軍首脳の反目し合う人間関係と、スペイン内乱での成功体験の呪縛が、この後に暗い影を落とし始めるにはまだ時間がかかります。ただ強いリーダーシップを発揮できない組織の脆弱性が、その後じわじわと戦局に影響してくるのを読んでいると、いつの時代でも優秀な人材とリーダーシップが重要なんだということを感じさせてくれます。

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