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QT Lab.品質・技術研究室

技術者のための品質工学、品質管理、統計学、機械設計、信号処理を
解説します。

温故知新

2014-06-09 20:09:01 | 技術・エンジニア

 今日は同僚の若手、中堅の機械設計技術者数名に、私が入社した当時のタイムレコーダ2機種について構造や設計思想について実機を分解しながら説明しました。

 なにぶん、これらの機械をよくいじっていたのは30年くらい前ですから、分解に手間取りました。(ねじが固着していたことも原因ですが)

 世界初の電子タイムレコーダであった機種の分解を進めていくと、昔は気がつかなかった工夫や、生産技術の高さを再認識しました。

 部品に要求される特性にマッチするように、板金部品のごく一部だけ、せん断面と破断面を入れ替える “抜き返し” がされた部品や、印字のタイミングを決めるためのメカ式接点の工夫や、駆動用複合カムの形状など、若手の機械設計者にとって、手本になる設計が各所にほどこされています。

 現在のタイムレコーダの基本構造を設計したのは平成元年の秋ですから23年近く経過しています。今の同僚たちは、その基本構造しか知らず、タイムレコーダはこうあるべき、という “すりこみ” ができてしまっているため、なかなか新しい構造、構成を思考しにくい状況にあります。

 しかし、今日、今日のタイムレコーダとは異なった構成、機構の機種をみて、彼らもきっと思考が広がることでしょう。

 先輩技術者の方々が退職された今では、昔のタイムレコーダについての設計思想や構造、生産技術的な工夫などについて語ることができるのは、たぶん、私しかいないと思います。なにしろ、私が設計したタイムレコーダ以前の機種を設計した技術者(元上司)から直接伝聞しています。 

 少しずつでも後輩たちに伝えていこうと思います。

  この20年来、タイムレコーダの機能を獲得するためのメカニズム、構造の進化は停滞しているように感じます。それは、他社も同様です。

 進化論で語られているように、進化を促進するには環境の変化が不可欠です。現在の構造では絶対に実現できない仕様や要求・要望の生起という 『環境変化』 が起こり、タイムレコーダのメカニズムの進化が促進されるとよいのですが。


システムに埋め込まれたトラブルの遺伝子

2014-05-18 07:50:30 | 技術・エンジニア

 昨日(5月17日)と本日、山下公園の近隣地区で、
「2014 世界トライアスロンシリーズ 横浜大会」 が開催されています。
 昨日朝の散歩で、ちょうど 「パラトライアスロンの部」 のバイク、ランを
見ることができました。
 参加された選手全員の方々を尊敬します。それ以外のことばはありません。
 「希望信じて進めば、どんな壁も乗り越えられる」(あの空へむかって)
 私は、まだまだです。まったく壁を乗り越えることができません。

 もっと希望を信じて進まなければ、と思いました。

 さて、8年ほど前に購入したドラム式洗濯機のフィルタボックスにたまる
ダストの量が、この数日とても少なくなってきました。
 我が家では、「フィルタ掃除」のサインがでなくても、洗濯・乾燥を1回
するごとにフィルタボックスと通気口を掃除機で清掃します。

その理由は、3年まえ(5年間の長期保証が終了する1週間まえでした)に
洗濯したものが全く乾燥できない状態になりました。10時間以上乾燥運転が
続いても、脱水をした状態のままです。

 販売店に連絡したところ、メーカーのサービスマンではなく、販売店の
サービスマンが来てくれました。その方は、この症状にたいして手慣れた様子で
洗濯機を分解し、通風ダクトなどに手をつっこんでそこにたまっていた
『本来は乾燥してダストボックスにたまるはずの十分しめったダスト」をかき出して
くれました。都合3か所のダクトからでてきた「湿ったダスト」の量は、
レジ袋1.5袋分!
これが通風ダクトをふさいでいたのですから、乾燥などできるはずがありません。

これ以来、毎回フィルタボックスを清掃するようになりました。

 そして、そのサービスマンの方がいうには、
「この不具合はこのメーカーのドラム式だけの問題ではなく、外国製品もふくめて
 ドラム式洗濯機自体の欠点です。」
さらに、
「各メーカーには、改善を要求しているのですが・・・」 とのことでした。

 メーカーの設計ではなく、その上流の 『ドラム式洗濯機』 の遺伝子によるトラブルの
ようです。

 前回のトラブルのときも 「フィルター掃除」 のサインがでてもあまりダストがなく
乾燥時間が伸び始めた経験があるので今回もおなじトラブルになると思い、
とりあえず自分で清掃ができる可能性があるダクトの掃除に挑戦しました。

 ダクトに直接掃除機の吸い込み口をあてることができればよいのですが、
ダストボックスのサイズの関係でそれができません。

 100円ショップで排水口掃除用のブラシを購入し、苦労しながらもダクトにつっこんで
ひきぬくと、「湿ってはいない乾燥したダスト」 がすこしかき出されました。
 何回かそれをおこない、空乾燥運転をしたところ、ダストボックスにダストが結構
たまりました。 応急処置としては正しかったようです。

 その後、掃除機で直接ダクトを吸うアイディアがうかび、べつの100円ショップにいき、
トイレ詰りのときにつかうゴムカップを買ってきました。
 カップについている柄をぬき、そこに穴をあけて洗濯機のダクトをふさぐようにとりつけ
掃除機でダクト口を吸えるようにしてみました。

 だいたい、自分の想像通りの機能を発揮してくれそうですが、効果はまだ確認できて
いません。

 だだし、のこり2か所のダクトの清掃には全く対応できないので、これからどうしたらよいか
考える必要があります。

 

 


 

進化論は驚異的な設計手法である、というはなし

2014-04-22 19:48:41 | 技術・エンジニア

 今日、ある実験計画について打ち合わせをしているとき、同僚から、
私が最近よく口にする「科学・技術への進化論の適用」とおなじようなことを
語っている技術雑誌の記事があったよ。と紹介されました。

 さっそく、その記事に目を通しました。

 【ダーウィニズム】ということばで紹介されている自然選択説(多様性と淘汰)
による進化は、一見するとムダが多いが、実は驚異的な設計手法である。
と語られていました。

 また、進化の源泉は『多様性』である。と述べています。そして、エンジニアが
生物から学ぶべきことがあるとすれば、設計思想ではなく、進化による設計手法
である、とも書かれていました。

ぜひ一度、この著者の先生とお話してみたいと思いました。

 うまく設計するコツ、それは、「多様性の獲得」になります。ただし、実務では
無作為に子孫を増やすわけにはいきません。そこで、直交表を使って
必要最小限の多様性を獲得し、その挙動を観察することで、環境に
淘汰されない遺伝子構成をみいだすのが品質工学のパラメータ設計です。

この説明はホームページ版 『QT Lab.品質・技術研究室』をご覧ください。

 でも、設計当初から設計者の提案する最適解とは別に17個の亜種を
設計して試作することに目がいってしまい、なかなかパラメータ設計に
踏み込めないのも事実です。

 このハードルはとても高い。しかし、こんなことばもあります。

「ハードルは高ければ高いほど、くぐりやすい。」 ・・・ 二郎

高いハードルをくぐる方法を探してみます。


クレームが発生するメカニズムについて Ⅰ

2014-04-16 21:04:14 | 技術・エンジニア

工業製品で『クレーム』が発生するメカニズムについて書いてみます。

設計者がそのもてる工学的知識と創造力、そして、情熱をそそいで設計し、試作、量産試作と十分な検証・評価をおこない、生産技術担当者が品質の安定と生産能率を追求して設計した工程と生産設備をつかって生産し、工程内、工程間、出荷検査などの品質管理という関所を通過して出荷された製品が、市場にでて予想もしない早さでトラブルを起こし、クレームが発生するのか?について考察してみました。

 

まず、複数の個体で寸法や機能が理想値からランダムにずれが発生している状態を 「ばらつき」 があるといい、設計者を含め技術者はこのことばをよく口にします。

しかし、自分の仕事に傾注すると、「ばらつき」 に対する意識が薄れる傾向にあることが多いのではないでしょうか。

設計者は部品の寸法や機能について公差を定めたり、その範囲を確認して購入品を選択したりします。このとき、公差の集積を計算し、場合によっては公差解析を実施して設計段階で設計不良にならないか、などを確認をします。私も含めて設計者が「ばらつき」を気にするのはこのときだけになることが多いのではないでしょうか。

生産技術の担当者も設計段階では自身が設計する工程や設備について「ばらつき」を気にするのですが、その工程や設備はいったん完成してしまうと、そこからの成果物自体についての「ばらつき」に関する意識は薄れてしまいます。

一方、つねに「ばらつき」との戦いにさらされている品質管理担当者は、当然、製品品質の「ばらつき」におおいに注目しています。しかし、どうしても、製品自体の品質の「ばらつき」に対する注意や意識であり、ほかの技術者ともども、その製品が使われる市場での環境や使われ方に関する「ばらつき」についてはほとんど気にとめていない場合が多いのではないでしょうか。

「ユーザーは、製品の使い方については驚くほど想像力がはたらかず、使い道については恐ろしいほどの想像力を発揮する」というのが30年以上技術職に携わってきた私の感想です。

唯一、製品品質と市場での環境や使われ方の両方の「ばらつき」を意識しているのは品質保証にかかわる技術者だけかもしれません。しかし、製品品質の「ばらつき」の大きさはある程度把握できているかもしれませんが、市場環境や使われ方の「ばらつき」の実態はほとんどつかめていないことでしょう。

過去の経験などから

「ひどい場所で使うお客さんがいてさぁ ・・・」とか、
「ひどい使い方をするお客さんがいてさぁ
 ・・・」 などと口にすることはあっても、その状態やひどさのレベルについて明確に言及することはできません。

したがって、
「これくらいひどい環境やひどい使われ方の経験があり、このひどさは正規分布で●シグマくらいだから、設計マージンはこれくらい必要だよ。」などと設計情報として設計者にフィードバックすることもできません。

では、クレーム発生のメカニズムと、なるべくクレームが発生しないための戦術についての情報を、次回紹介いたします。


再現性とは?

2014-04-10 20:46:45 | 技術・エンジニア

 昨日の小保方さんの会見をリアルタイムで見ていました。
(有給休暇をとったので)
まず、質問する側の記者のなかに、「割烹着」だとか「実験室の壁の色」
などゴシップ記事の感覚で質問をする人が何人かいました。
当然、ニュース番組では、そのような質問は放映されていませんが、
あまり愉快とはいえないものでした。
また、「実験ノート」の冊数についての質問もあがりました。
しかし、本件では実験ノートの冊数なんかは問題ではないのです。
そこに、「なにが書かれているのか」が問題なのです。この件の本質は、
『「STAP細胞」はすくなくとも1度は実験室内で作成されて実在した。』
という命題の真偽です。ここだけを確認し、命題の真偽いずれかを証明する
証拠、または、論理が提案されればよかったのです。今回は残念ながら、
この命題の真偽判定にはいたらなかったのですが。

 会見での小保方さんの発言で、STAP細胞を生成するレシピはある、
しかし、コツも必要、ということでした。コツをつかむということは、
【技能】が重要な要素である、ということです。つまり、STAP細胞生成は
まだ、【技術化】されていないのです。

 私は技術の定義として、
【技術】=【転写性】=『再現性』+『線形性』と提案しています。
  http://www8.ocn.ne.jp/~qchoney/26501.html 
    ↑の『パラメータ設計』【パラメータ設計と進化論】を
ご覧ください。

今回、論文の記載資料の内容と取り扱いについて、小保方さんは
批判されても致し方ないかもしれませんが、論文の趣旨は
STAP細胞を生成する技術」に関するものではなく、
STAP細胞が存在し、生成することができた」という報告の
論文ですから、私個人的には、論文を訂正して再度発表すればよい、
と思うのですが。そして、一刻も早く、「STAP細胞生成の技術化」を
めざしてほしいです。

小保方さんの実施した実験は、仮説検証のガリレオ型ではなく、
研究対象にいろいろな刺激をあたえ、研究対象の応答を観察することで
研究対象を解明していく、というベーコン型になると思います。

一般的にベーコン型の実験では、実験環境の管理と記録が十分に
なされていないと、再現性の獲得は難しくなります。それは、
日々変化する管理や計測できない環境ノイズが実験におおきな影響を
及ぼしている可能性があるからです。

品質工学のパラメータ設計もベーコン型といわれていますが、
2通り以上の強烈なノイズ環境下で実験することによって、
実験室(実験環境)の管理しきれないノイズの影響を、その
ふたつの
ノイズ環境の影響に埋もれさせるという戦術を取ります。

今後のチャレンジにぜひ、品質工学を使ってもらいたいなぁ。

会見を見終わって、なぜか、ももクロちゃんの『労働讃歌』の
歌い出しが浮かびました。

「いまや、運命は我らにかかった、上の連中は、サッサと逃げちまった、
立場だなんだありゃ、そりゃそうするよな・・・」

毎年春先に妻の実家で恒例となっているバーベキューには、
いつも私のオリジナルソースに漬け込んだスペアリブと
スパイス調合からはじめるタンドリーチキンを持参します。
そして、私が焼き、仕上げます。家族以外の参加者にも大好評です。
しかし、今年は都合により参加できません。そのため、妻の妹たちから
スペアリブソースとタンドリーチキンのレシピを教えてほしいと
頼まれたので先日メールしました。

しかし、私の味は絶対に再現できないと思います。ソース作りにも
焼きにもコツがあるからです。

とくに仕上げの焼きは、その日の炭火の様子にあわせたグリル網と
炭の位置、肉の配置、肉を返すタイミングなど「技術化」できない
「技能」のかたまりです。彼女たちの努力と奮闘の様子と、それを
食べたときの評価、いずれ聞いてみようと思います。