QT Lab.品質・技術研究室

技術者のための品質工学、品質管理、統計学、機械設計、信号処理を
解説します。

技術の伝承をうまくするために

2015-06-27 06:06:15 | 技術・エンジニア

先日、中堅技術者の同僚から相談をうけました。

私が設計したタイムレコーダの内部に保守部品のフューズを装着するための構造があり、
事実、製品はそこに予備のフューズを取り付けて出荷・販売しています。
当然、そのフューズにはコストがかかっています。

ただし、そのフューズ取り付け構造は本体を分解しなければ表に現れず、ユーザーには
本体分解を禁止しているので、ユーザーは一生その部品を見ることはありません。

そして、基板に実装されたフューズがダメになった場合、機械自体には重篤な障害が
発生している可能性が少なからずあります。
ですから、ユーザーから連絡がありサービスマンが訪問すると、実装されたフューズを
確認しダメになっていたら本社の修理部門に送る、というのが一般的な処置になります。

そのため、相談に来た同僚は、このフューズを廃止すればコストダウンができるのですが
なぜ、使いもしないフューズを持たせているのですか?という質問をしてきました。

そのタイムレコーダはケースが樹脂で設計したのでその構造が設計できました。
それまでの機種はセロテープで本体内に予備のフューズを固定していました。

さらに、私が設計したタイムレコーダより後発で設計されたタイムレコーダの多くは
フューズを取説などと一緒に付属品としているので、ユーザーがなくしてしまう懸念が
大きく、この面からも不要なのでは?というのが彼の意見でした。

実は、フューズを本体に装備しておくことには重大な意味があり、付属品扱いにしては
絶対にダメなのです。

過去の製品を日頃からながめ、数機種連続して設計した経験があるため、その理由は
とくに意識していなくても身についていたので、フューズ取り付け構造を設計しました。

その後の機種の設計者たちは、なぜ、本体内、しかも、ユーザーが一生見つけられない
場所にあるのか?をほとんど考えずに
「付属品にいれちゃえ!」と判断したのでしょう。

このように技術は情報の本質が伝承されないとどんどん劣化していくのです。

技術がうまく伝承されるためには、設計者は過去の製品で不要と思うことがあった場合、
最大限に想像力を発揮して、その製品を設計した技術者の思考をトレースする、という
工程を自発的に身につけるように訓練することです。

PC上のメールによる情報伝達や、CAD設計作業により、設計者どうし直接伝達できる
情報量は相当減少しています。
とくに、CADの場合、画面には『今設計者が注目している』部分の情報しか表示されて
いません。

昔の製図板での作業では、設計者が注目していない部分もほかの技術者は見てとる
ことができ、
「ここは、こうしたほうがいいんじゃない?」などと情報交換ができたのですが ・・・

今は難しそうですね。その分、技術者の自発的な情報くみとり訓練が重要になります。


QES2015 参加報告

2015-06-16 19:39:08 | 品質工学

昨日、本日の2日間にわたってタワーホール船堀で第23回品質工学研究発表大会が
開催されました。 
品質工学を信頼し活用している(しようとしている)人々が、年に1度集い、研究成果を
披露したり、聴講したりする重要な催しです。

この機会でしかお会いできない方もたくさんいらっしゃるので、旧交を温めることも
楽しみのひとつです。

今回もある方から北海道のおみやげを頂戴しました。ありがとうございました。

そして、私もはじめてポスター発表をしました。
『SN比を利用した進化論的圧縮バネ最適設計方法の提案』 というテーマです。
午前のセッションの最後の発表だったので聴講してくださる方がどのくらい残って
くれるかちょっと心配していたのですが、大勢の方に残っていただけました。

発表後の質問はなかったのですが、自由討論の時間には多くの方とお話しさせて
いただくことができ、とても楽しい時間を過ごすことができました。

昨年のブログで、来年は発表する、と書いたのですが実現できました。

来年も必ず発表します!


視点を変える その1

2015-06-06 08:55:24 | 技術・エンジニア

 技術者が仕事に行き詰ったとき、よく、『視点を変えてみる』 とよい、と言われていますが、
これを実践することは相当難しいことです。技術者にとって視点を変えることができるほど
余裕があることはめったになく、また、どのように視点を変えればよいのか?も明確になる
ことも少ないと思われるからです。

 私は33年の技術者活動のなかで、視点を変えて問題を解決できたことは、大きな問題では
2回ありました。

 ある会社が、カードを媒体としたすべての企業内活動を管理するシステムを構築し、私の
勤めている会社は、そのなかの生産管理用端末を担当することになりました。

 媒体カードはバーコードを印刷するその会社が開発したプリンタで発行します。大量にカードを
発行するため高速印刷が要求されます。そのため、ラインドットプリンタをわずかにライン方向に
往復移動しながらドットの密度を高めると同時に、カードも間欠ではなく連続送りするという、
かなりハードな印刷方法を採用していました。 

 当時、その設計を担当した技術者は製造・販売していたモデルをベースに、バーコードリーダを
搭載して端末を開発しました。いざ、そのカードを読ませてみると、まったくコードを読むことができず、
カードエラーになってしまったのです。これは大問題となりました。その会社の担当者の方は、私たちの技術力に大きな疑問を感じたようです。

 この問題の解決を私が仰せつかりました。まず、現実を確認するために、まず、カードを正規の
読み取り方向から読ませると、当然読むことができません。しかし、カードを正規の方向とは逆の
方向から読ませると、問題なくバーコードを読み取り、デコードすることが可能です。

 つぎに、そのカードをコピーしてバーコード部分を切り取ってカードに貼り付けて実験したところ
どちらの方向でも読み取りが可能です。

 いろいろと原因の仮説を立てたのですが、解決にはつながりませんでした。
 そして、そのとき、視点を変えるアイディアがわいたのです。そのアイディアとは・・・
 
 自分自身がバーコードリーダの目玉(フォトトランジスタ)になることです。バーコードリーダは
紙面に対してやや傾いた方向からLEDで光をあて、その反射光を、これもやや傾いたフォト
トランジスタで受光します。

 顕微鏡でフォトトランジスタの傾き方向からカードを観察しました。当然、光源もLEDとおなじ
傾きで配置します。

 その結果、印刷されたバーコードがドットプリンタによってある方向にささくれ立っているのが
確認できました。そして、カードを正規方向に送って観察するとささくれが乱反射して、本来は
インクがのって黒くみえるはずなのに、白くみえたのです。このため、バーの幅を誤認識して
いたのです。カードを逆方向に動かすと光とささくれの干渉で、正規方向に送った時ほど白くは
なりませんでした。

 コピーしたバーコードはささくれがないのでどちらからでも問題なく読み取りができていたのです。

 これが確認できたとたん、すぐに対策が浮かびました。バーコードリーダをやや傾けて取り付ける!

 取り付け板金の曲げを変えてカードを読ませたところ、正規の方向でも問題なくバーコードを
読み取ることができました。十分な検証を行った後、対策図面を出図、無事に納品することが
できました。

 当時、その会社さんが開発していたほかの端末で使うカードは、バーコードを1000枚発行する
たびに印刷機のインクリボンを交換するというきまりでした。それ以上発行するとインクが薄くなり、
読み取りに問題がでるから、という理由です。

 納入した端末はその会社の担当の方々が検証されたのですが、印刷機で1000枚、2000枚
3000枚・・・と印刷を続けたカードの読み取らせたのです。
  結果として、納品した端末は1万枚以上印刷したインクリボンを使って印刷したカードでも
バーコードを読むことができたそうです。

 システム運営が始まったとき、私の上司もその式典に招待されたのですが、その会社の方から
「どうしたら10000枚以上も発行したリボンを使っても読み取ることができるのですか?」と
聞かれたそうです。しかし、
「それはわが社のノウハウですから」と対策内容を教えなかったようです。

 翌日、その上司がその話を私に伝えに来ました。そして、
「鼻高々だったよ」と嬉しそうに付け加えました。

 でも、あなたは、
「なんとかしろ!早く原因を見つけて対策しろ!」と私を怒鳴り続けていただけですけどね。