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QT Lab.品質・技術研究室

技術者のための品質工学、品質管理、統計学、機械設計、信号処理を
解説します。

完全互換の方法による公差解析は意味がない!(一様分布の特性)

2018-04-21 08:32:07 | 技術・エンジニア

 かなり過激なタイトルにおどろかれた方もいることでしょう。
 昨日、先月開催されました日刊工業新聞社様主催のMT法に関するセミナーを
受講された方からのご質問を受けました。そのご質問は、一様分布するような
事象を項目に含む対象に、MT法は使えるか?というものでした。

 私は、MTシステム、公差解析、分散分析、実験計画法、品質工学、信号処理
などのセミナー講師をさせていただいております。

 どれも、統計学の知識が不可欠で、セミナー対象と同じくらい、統計学の解説に
力をいれています。これをしないと、セミナー対象の本質を理解していただけない

からです。

 統計学の解説のなかの中心極限定理の説明では、下の図を使います。
 中心極限定理とは、もとの分布がどのようなものであっても、そこからn個の
サンプルを取りだしてその平均を計算する、そして、これを多数回くり返すと
得られた多数の平均の群れの平均は、母平均にちかづき、群れの分散は、
母分散の1/nにちかづく。そして、さらに、その群れは正規分布にしたがう。
というものです。

さて、下の図をご覧ください。

 さいころの出る目はすべて1/6です。つまり、確率密度は一様分布になります。
 大きさちがいの4個のさいころをなげて、その出た目を合計すると、4×1=4
 から、4×6=24、(4~24)になります。
 上の図は、合計が4から24になるさいころの組みあわせを書きだして、
 積み上げたものです。14を中心に左右対称の釣り鐘型があらわれました。
 
  つまり、正規分布に近い形です。これが、統計学的な事実です。

 機械部品の寸法や電気部品の特性に、そのばらつきの範囲をしめすために
使われるのが公差です。機械部品の寸法や、電気部品の特性のばらつきは
正規分布にしたがうことが多いのですが、なかには、一様分布するものも
存在します。

 公差の集積(複数の部品を組みあわせたとき、結果がどの程度の範囲をとるのか?)
を推定する技術を公差解析といいます。
  公差解析には、完全互換の方法と不完全互換の方法があります。
 完全互換の方法は、取る幅の最小値と最大値を計算する方法です。
 上のさいころの例でいえば、公差の集積結果は4~24になる、ということを
結論とします。
 一方、不完全互換の方法は、統計学を使って、一定の危険率のもとで、
取る幅の範囲を推定します。私は、こちらが正しいと考えています。

 ごくわずかな確率で発生する集積公差の最小値や最大値付近まで、考えて
いたのでは、個々の部品にあたえる公差をとても厳しくしなければいけません。
 当然、大幅なコストアップにつながります。
 そればかりか、設計自体が成り立たなくなることも起こりえます。

 どの範囲にすればよいのか?は統計学的な危険率をもとにすればよいのです。
 製品の品質水準を3σ管理としたいのであれば、両側の確率が0.135%程度に
なるように推定すればよいのです。

 完全互換の方法も行うべき、と指導される上司などもいることでしょうが
たぶん、その方は統計学をあまり知らないのでしょう。

  昔、私は上司から、
「完全互換の方法でも・・・」といわれたのですが、さいころの事例を
説明したところ、納得していただきました。

ひさしぶりに技術的なはなし、しかも長文、最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。

 ご質問などありましたら、コメント投稿してください。コメントは
公開しませんかr、ご安心ください。

 

  


【告知です】 セミナー情報

2018-04-18 19:45:46 | 技術・エンジニア

この頃、MTシステムや機械学習、IoTのための信号処理技術といった切り口から
セミナー講師のご要請をいくつかのセミナー企画企業様より頂戴しました。
とてもうれしく思っております。

現時点で開催決定、または、開催予定のセミナー情報をアップいたします。

4月25日(水)『実践 公差解析講座』日刊工業新聞社様 主催 
5月17日(木)『よくわかるMTシステム 入門』情報機構様 主催
5月18日(金)『MT法を使った信号監視技術 徹底理解』情報機構様 主催
5月25日(金)『Excelで学ぶ分散分析と実験計画法の基礎と実践手法講座』日刊工業新聞社様 主催
6月13日(水)『機械学習MT法による異常検知システム構築に必要な信号処理技術』 TH企画セミナーセンター様 主催
6月29日(金)『MTシステムの基礎を習得し、即実践に結びつける』R&D支援センター様 主催
7月13日(金)『公差解析セミナー(仮)』TH企画セミナーセンター様 主催
8月20日(月)『MTシステムの構築と効果的な活用法』 日本テクノセンター様 主催

MTシステムへの関心が高まっているようです。

ところで、youtubeにアップした映像をご覧いただいた方々から、たくさんのメールを頂戴しました。
この場にて、あらためてお礼を申し上げます。
ご評価いただきまして、大変ありがとうございました。




告知! 新刊が出版されます

2017-11-12 07:14:48 | 技術・エンジニア

今まで、品質工学のパラメータ設計やMTシステム、公差解析に
関する書籍を日刊工業新聞社様から出版していただきました。

今回、今までとは毛色がちがう「信号処理技術」に関する書籍を
秀和システム様から11月17日に出版していただけることに
なりました。定価2160円(税込み)です。

内容は、信号処理技術を「道具」としてとらえ、
道具の「使い方」と「使い道」にしぼって、
1.周波数解析(STFTを含む)
2.デジタルフィルタ
3.相関関数
4.周波数応答解析
5.信号収録技術
6.MT法を使ったFFT重心監視による異常信号検出技術
を紹介しています。

道具はその「しくみ」や「原理」をよく知らずに使うと
ケガをしますから、簡単な数理なども掲載しています。

例によって、いろいろなソフトウェアを無償でダウンロード
していただけます。
1.FFT重心監視シミュレータ
  MT法によるFFT重心監視が、いかに強力、かつ、高い
  精度と信頼性で信号発生源の変質やノイズ混入量の変化を
 とらえることができるか?を体験していただけます。

2.信号解析装置(ソフトウェア)
     通常、信号処理を行うには高価なADコンバータが必要ですが、
   PCのマイクロフォンジャックを使って信号を収録し、収録した
 信号に本書で解説しているすべての信号処理を行うことができます。
    また、音響信号だけでなく、レーザー変位計で収録したデータや
    ロードセルからの信号でも『音』として聴くことができます。
     複数の周波数帯にデジタルフィルタをかけると、自分の声は
 こんなふうに聞こえるのか、など、いろいろと遊べます。

3.ファイル変換ツール(ソフトウェア)
     今までため込んだ時系列データなどCSV形式のファイルで保存し
   その数値情報ファイルをwav形式の音響ファイルに変換するための
 ツールです。
    日経平均の日々の変動をwavファイルに変換して、音として聴いて
 みたり、信号解析装置で周波数解析してみたり、いろいろと便利な
 ツールです。
    wavファイルをCSVファイルに変換することもできます。

4.信号の数値情報生成ツール(Excel)
      ファイル変換ツールで音響化したい信号を自作するためのツールです。
  フィルタ評価のためのchirp信号の数値情報を作ることもできます。
  リサージュ図形を表示する機能も実装しています。

  信号解析装置を使えば、時系列に周波数成分やそのパワーが変化する
信号でも実装されているSTFT機能を使って、




のように3Dで観測することができます。突発音やギアの軋みなどの音響解析には
とても役立ちます。

現在、Amazonさんで予約受付中です。よろしくお願いいたします。


    

 

 


信号処理ソフトウェア

2017-01-16 18:47:31 | 技術・エンジニア

現在、個人的な趣味で汎用性の高い信号処理ソフトウェアを、日本ナショナルインスツルメンツ社のLabVIEWで制作しています。
一般的に信号処理を行うにはマイクロフォンや加速度ピックアップのアンプ増幅後の電気信号をADコンバータで量子化した後に
PCにとりこみ、専用の信号処理ソフトウェアで目的の信号処理を行います。

多くの場合、フィルタ処理と周波数分析が目的の信号処理になりますが、ADコンバータは高価であり、自分で購入することは
なかなか難しいというのが現状です。

ほとんどのPCはマイクロフォンジャックがついていて、そこにミニピンジャックつきのマイクロフォンを挿せばPCで音響信号を
録音することができます。そして、録音された信号はwindows7以降wmaというファイル形式で保存できます。
ただし、このファイル形式はとても使い勝手が悪いです。

windows7以前のサウンドレコーダで録音するとwav形式のファイルで記録でき、こちらは再生時にいろいろなエフェクタが
使えてとても便利でした。フリーソフトウェアで現在のwindows10でもwav形式で録音できる使い勝手のよい音声記録ができる
ものがあります。

こちらを使ったり、wma形式からwav形式に変換できるサービスを使って音響信号などをwav形式で記録することで、
その信号に対して、フィルタリングや周波数分析ができるツールができました。

↓の図がそのソフトウェアのメイン画面です。画面は0.75秒間で0Hzから10kHzませ漸次増加するchirp信号に対しての
処理をしたものです。

chilp信号全域のFFT結果(右上)に対して、5色で示した帯域を阻止するフィルタリングの結果が左下の線図です。
そのFFT結果が右下の周波数線図です。線図中のx座標、y座標は周波数線図の重心です。緑の●でも図示しています。
また、全体領域の周波数分析だけでなく、時系列の周波数変化が表現できるSTFT(ショートタイムFFT)も実行できます。
↓の図の右下画面



そして、その結果を3Dで表示することもできます。


さらに、処理対象信号から時系列に任意の領域のみを取り出してその部分についてのフィルタ処理、周波数分析、重心計算、MT法による判別も可能です。
対象信号は加速度ピックアップ信号をアンプで増幅した後、ピンプラグでPCに取り込むようにすれば、振動の信号処理も可能です。
また、Excelで作成した数列を信号としてcsvファイルで保存し、それをwavファイルに変換すれば、処理対象信号として扱うことも可能です。

そして、このツールのめだま機能がFFT重心をMT法で監視できることです。



上の図は処理対象のchirp信号について250~400msec の区間を50msec間隔で抽出し20個の周波数分析結果の重心を単位空間として作成しました。
そして、0~50msec を1個目、10~60msecを2個目・・・として移動し、その周波数分析結果の重心位置履歴を表示した結果が図5です。
MDが3(5%有意)~4.6(1%有意)であれば黄色でプロット、4.6以上は赤でプロットしています。

単位空間は3.5~4..0kHz(250~300msec)から4.8~5.5kHz(350~400msec)です。自動で連続的に移動させながら観察することができます。

このような機能を実装していますので、いろいろな局面で利用できるツールになるものと思っています。

3月24日に日刊工業新聞社東京本社で開催される 『品質工学 MTシステムの習得と音響診断技術への応用』 セミナーで無償で提供いたします。
このツールについての取扱説明もセミナー内で行います。



技術者が本業の技術以外で追及しなければならない技術とは

2016-12-03 10:07:40 | 技術・エンジニア

 スーパーマーケットやコンビニエンスストアの床は、白系統でとても光沢度が
高く管理されています。
 そうすることで、天井の照明が床に反射し、生鮮食品などの色合いが鮮明に
なるのと同時に照明の機材を減らすことができて、省エネルギーにつながるからです。

 そのために、床は毎日洗浄とみがきが行われています。
 スーパーマーケットでは、半年に1度、床のワックスを剥離して、ワックスを塗りなおす
特掃という作業が行われます。
 当然、閉店後に行うのですが、夜10時ごろから作業をはじめて翌日の午前3時ごろまで
かかる大変な作業です。

 20年ほど前、床面洗浄機を開発していたとき、勉強のためとのことで、ビルメンさんの
深夜の作業を観察(というより作業のてつだい)しにいくことが何度かありました。
 深夜手当はおろか、時間外手当もなしで、しかも当日は通常業務という、今なら
大きな問題になることでしょう。ただ、10時までに出社すればよい、というなんとも
やさしいご配慮もしていただいてはいましたが ・・・

 スーパーマーケットはこのようなことができるのですが24時間営業のコンビニでは
特掃はできません。

 店がオープンする時点で分厚くワックスをぬっておき、日常管理は深夜でお客さんが
少ないときに、店員がバフィングマシンという床磨き機械をかけて光沢を復活させる
という方法の対応です。

 私がワックスを塗布する機械を構想したとき、ワックスのかわりに光硬化樹脂を
塗布しながら紫外線灯で硬化させる方法を考えました。光硬化樹脂はかなり硬度が
高いのでみがきは苦労するのですが、傷つきにくいので光沢がおちにくいという
効果もある、と考えました。

 今では、当時の光硬化樹脂に含まれていたビスフェノールAはホルモン攪乱物質
だったので、製品化しなくてよかったのですが。

 機械の構想に苦労していた時、いっそ、光硬化樹脂でコーティングしたタイルを
製造販売したほうがよいのでは ・・・ と思い、営業企画との会議で提案したのですが
「そんな物つくったら、うちの機械やワックスが売れなくなるじゃん!」と怒られて
しまいました。

 自分の中では、床材自体の研究をしなければだめなのでは?と思っていました。

 それから数年して、強度が高く、光沢度も高い表面処理がほどこされたタイルが
ある企業さんから発売されました。

 また、大手コンビニさんは、新規開店の店舗で床を樹脂製タイルから、高強度な
セラミックタイルに変更することで、ワックス塗りやみがきの作業をする必要を
なくしてしまいました。
 
 企業や技術者にとって、自身が開発・製造・販売している技術の研究をするのは
当然ですが、
『自分の首を絞める技術』 も常に研究していなければいけないと思います。

 もし、ほかの企業や業界がその技術を手に入れたとしたら ・・・
本当に自分の会社の首を絞められてしまいます。

 自らがその技術を手に入れることができれば、知的財産権でその技術を保護する
ことで 「首が締まる」 可能性を大幅に低減できます。

 蛍光灯の特許を取った企業が、電球工場の投資回収が終わるまで、蛍光灯の
製造をしなかった事例や、デジカメの普及で大幅に需要が減ったフィルムメーカーさんが
そのデジカメ自体を開発し、製造販売したことなどに、『自身の首を絞める技術』 の
研究という本質が見て取れるのではないでしょうか。

 本日は58回目の誕生日です。妻、義理の妹と食事にいくことになっています。
 楽しみです。