QT Lab.品質・技術研究室

技術者のための品質工学、品質管理、統計学、機械設計、信号処理を
解説します。

デシベル 計算のはなし

2016-08-27 12:11:47 | 技術・エンジニア

品質工学のパラメータ設計で感度やSN比の要因効果をもとめる計算工程が
はらんでいる問題を提起することになるので、この内容を紹介することには
ためらいがありましたが、やっぱり有益な情報になると思いますので、
勇気をもって書きます。

今週、若い同僚がBlueToothによる機器間の通信特性を評価していました。
通信機器同志の方向と距離を変え、それぞれの組みあわせで数回ずつ計測し
その結果をまとめていました。

計測結果は計測器から出力される減衰率でdB(デシベル)表示でした。

彼は、ある条件で計測した複数の結果を算術平均してその条件での減衰率と
していました。

実はこの平均の計算には大きな間違いがあります。

解析対象が非常に広い範囲(たとえば0.001~10000のような)を取る特性を
評価するには10のn乗という指数表示にすると人間にとって認知性が高まります。
上記( )内の例ではnは―3~4 になります。

減衰や増幅の比率はこのnの値をB(ベル)という単位で表現します。しかし、
認知性の分解能を高くするために、nの値を10倍して表現します。これが
dB(デシベル)です。dl(デシリットル:100ml)と同じです。
さて、二つの増幅比があり、その平均が10dBであった場合、もとの二つの
デシベル値は、
 ①10dBと10dBの場合、②9dBと11dBの場合、③5dBと15dBの場合など
です。どの場合も平均は10dBになるのですが、対数変換する前の真値で考えて
みると、
①は10倍と10倍 ②は12.59倍と7.94倍 ③は31.62倍と3.16倍 です。

そして、その真値の平均は
①は10.00 ②は10.27 ③は17.39 になります。そしてこれをデシベルに
なおすと
①は10 ②は10.11 ③は12.40 となります。つまり、デシベルで表示されている
特性はそのまま平均してはいけない!ということです。

もし、平均を取る必要があるのなら、一度真値にもどし、それを平均し、対数変換
してデシベル表示にする必要があります。

同僚にこれを指導したところ、とても感動しているようでした。

そして、別の同僚もデシベル表示されている伝達関数の重心をもとめる作業を
していたのですが、彼にもこの内容を指導しました。

同源の問題をはらむ事象が2日つづけて起こったので、この内容は部内で
共有しようと資料作りをしています。

さて、今回の記事の冒頭部分、パラメータ設計の感度やSN比要因効果の推定は、
デシベル表示されている複数の結果の算術平均です。

パラメータ設計の場合、平均の対象となる複数の結果には問題となるほどの
大きな差はないので、まぁ、大きな問題はでないでしょうが、パラメータ設計の
要因効果の計算工程にはこのような問題があることを認識しておいたほうが
良いと思います。

さて、本日は毎年恒例のチャリティー番組の放送日です。
いつもウォーキングの帰りに通らせていただいている「日産自動車本社ギャラリー」
の通路からの画像です。

ここで、チャリティー番組のロケがあるようで、準備が進められていました。
証明の高櫓が2本くまれていましたが、そのうえで働いていた4名の技師の方は
みなさん女性でした。

櫓の横のモンキーステップを軽々と上り下りしていました。




黄色のTシャツも待機しています。
  


FFTについてのいくつかの誤解 その3

2016-08-24 19:59:15 | 技術・エンジニア

前回 真のナイキストサンプリングとはどのようなものか?を説明しました。
そして、真のナイキストサンプリングがなされていないと、FFTして得られた
周波数とパワーの情報は正確ではなくなる、ということも説明しました。

また、窓関数の性質についても少し説明しました。

今回は、多くの方(その中にはFFTを指導されている方も)が誤解している内容について
紹介します。

一般的に、なにかを観察するときには、なるべく細密に調査する、つまり、分解能を
高くして観察したほうが、観測対象の特性や状態をより詳しく把握できます。
FFTの場合もそうでしょうか?

前回のようにサンプリング間隔を1〔msec〕(サンプリング周波数:1kHz)でメガネ型の
サンプリング結果となるsin波の周波数は499.969481Hzです。
この周波数の1/4程度の周波数は約125Hzですから、125Hz程度のsin波を同じ
サンプリング間隔でサンプリングすると、499.969481Hzの4倍の観測密度になります。
こちらのほうが、より正確に観測対象信号の特性をとらえることができそうですが ・・・

信号の開始点と終点がゼロになるような125Hzに近いsin波の周波数は
124.9732963Hz になります。



上のグラフの左側最上段が1msecのサンプリング間隔でナイキストサンプリングできる
499.969481Hzのsin波を2の15乗(32768)個サンプリングした結果です。
左側2段目は1周期を4倍の観測密度でサンプリングできる124.9732963Hzのsin波を
2の15乗個サンプリングした結果です。ともに実効値は1V です。

それぞれのグラフの右にはその信号を矩形窓でFFTした結果を表示しています。
真のナイキストサンプリングができている499.969481Hz のsin波をFFTした結果の
スペクトルのピーク位置は499.9695Hzで、ピーク値は1.000V と、正確に波の
特性をとらえることができています。

しかし、124.9732963Hzのsin波を矩形窓でFFTした結果のスペクトルはすそ野が
若干広がっています。そして、スペクトルのピーク位置は124.72534Hz、ピーク値は
0.974V となって真のナイキストサンプリングができている信号の観測結果よりも
若干精度が悪くなっています。

観測密度を高くしても、波の特性は正確につかめるわけではありません。

メガネ型のサンプリング結果になったとき、もっとも正確にその波の特性を把握できる
のがFFTという信号処理です。

左側3段目は両者の信号を足すことで合成した信号です。
その右はこの合成信号を矩形窓でFFTした結果です。二つのピークはそれぞれの
sin波をFFTして得られた結果とぴたりと一致しました。

つまり、複数の異なる周波数のsin波を合成して得られた信号をFFTすると、もとの
単独のsin波をFFTした結果と一致します。

左最下段は合成信号のスタート部分の拡大、その左は合成信号の500Hz付近の
FFT結果のスペクトルです。

次回はメガネ型以外のナイキストサンプリングの特徴について紹介する予定です。


FFTについてのいくつかの誤解 その2

2016-08-22 19:58:25 | 技術・エンジニア

前回、サンプリング間隔1msec(サンプリング周波数1kHz)で499.9Hzのsin波(緑)と
499.964Hzのsin波(黄色)を32768(2の15乗)個サンプリングした下図の結果を
示しました。



これをFFTするとどうなるか?その結果を示します。

まず、両端は強制的にゼロにする矩形窓という窓関数と、最も一般的なハニング窓でFFTした結果です。
上から499.9Hz を矩形窓でFFTした結果、499.9Hz をハニング窓でFFTした結果、499.964Hzを矩形窓でFFTした結果、
最後が499.964Hz をハニング窓でFFTした結果です。
sin波の振幅は±√2(1.4142)Vですから、実効値は1V になります。
各グラフとも縦軸は0.2V/div で表示しています。

499.9Hzを矩形窓でFFTした結果はスペクトルのすそ野が広がり気味で、縦軸の実効値は0.9V 程度です。
また、それをハニング窓でFFTした結果は、スペクトルのすそ野が広く、さらに扁平でひすみがあり、実効値は0.5V 弱です。

一方、499.964Hzを矩形窓でFFTした結果は、FFTtが尖頭的であり実効値はぴたりと1V です。
しかし、ハニング窓でFFTした結果は少しすそ野が広がりひずみがあり、さらに実効値は0.5V ちょうどです。

これらの結果から、FFTして源信号の実効値が正確に分析できるのは、対象信号を2のn乗個離散的にサンプリングして
その両端がゼロであり、信号の周波数とサンプリング周波数の関係が499.964Hzと1kHz の場合のような特別な関係に
あるときだけです。めがねのように見える観測結果の場合だけです。
ナイキストサンプリングとはただ単純に信号周波数の2倍よりちょっと早い周波数で
サンプリングすればよい、ということではありません。

めがねのように観測するのが本当のナイキストサンプリングです。

ハニングなどの窓関数を使ってもこの問題を解決することはできません。窓関数は、横軸(周波数軸)の情報をなるべく正確に調べるために使います。

つまり、ある信号をあるサンプリング周波数で観測したとき、偶然にめがねのように観測できる周波数成分が存在すればその成分の実効値は正確に計測できるということです。

多数のsin波で構成されている信号の場合、FFTの結果の縦軸の意味は非常に希薄なものになってしまうのです。

次回は、この内容をもう少し深堀してみます。



 


桃神祭 2016

2016-08-15 11:33:10 | 日々徒然

一昨日(8月13日)、日産スタジアムに行ってきました。
ももいろクローバZ 夏のメインイベント『桃神祭 2016』に参戦するためです。

一昨年の参戦では物販や食事のために炎天下で行列する羽目になったので
今年はインターネットの物販先行販売で商品を購入しました。

そして、家で食事をしてから15時ごろにタクシーでスタジアムに向かいました。

 ← スタジアムへ向かう橋のうえにて

 ←物販会場はこんな感じ

顔認証によるチケット発券の結果 ・・・ 今回も残念な席

←開演1時間半前

メインステージの真正面ですが、もっとも離れた2階席です。
ただし、サブステージにはもっとも近いサイドでした。

そして、このサブステージで、『Chai Maxx』、『行くぜっ!怪盗少女』 を
やってくれました。

高い位置からの鑑賞だったので怪盗少女の完璧なダンスパフォーマンス
フォーメーションを見ることができたのは、幸いでした。

今回は警視庁が犯罪被害者遺児をこのライブに招待したそうです。
http://www.yomiuri.co.jp/local/tokyo23/news/20160814-OYTNT50004.html

少しでも心の痛みが癒されていることを祈ります。


第22回品質管理検定が実施されます!

2016-08-10 19:52:49 | 品質管理検定

今年もこの季節がやってきました。

私が品質管理検定の存在を知り、受験したのが2009年3月でした。
4級と3級を併願し合格することができました。そして、同年9月に2級と1級を受験し、
こちらも合格することができました。7年前の今頃は夏休み返上で一生懸命受験の
ための勉強をしていました。

その結果として1級に合格できたときの喜びは、一生の思い出になりました。

第22回QC検定の受験日まで1ヶ月をきりました。受験される方々は酷暑のなか、
勉強に励んでいることでしょう。最後まであきらめないでがんばってください!

品質管理検定の3級、2級では、手法編を苦手としている方が多いことでしょう。
SQCは統計学をもとにしているため、数学や統計学になじみのない方にとっては
かなりの重荷になってしまいます。

品質管理検定受験の支援をされている方のなかには、数理が理解できないならば
それを理解しようとして深堀するよりも、最初から手をださないでその他に時間と
力をさいて合格をめざすべき、と指導されていることもあります。一理あります。
 しかし、品質管理検定は、『検定』です。検定とは、検定の対象に対して自身が
どの程度の知識と応用力があるのか?を公正に知るためのものです。

せっかく受験のために勉強するのであれば、合格をめざすのは当然ですが、
学習した知識を仕事や生活に活用できるようにするべきだ、と私は思います。
さらに、統計数理を理解すれば理解していないほかの受験生に対して、とても
大きなアドバンテージになり、合格圏に大きく近づくことができます。

残念ながら現実として、品質管理検定の受験対策の書籍を読んでも、
統計数理についての解説がほとんどないので、数式を暗記することで
受験対策としている方がほとんどでしょう。しかし、QCに使われている
統計数理を理解すれば、試験問題に対する対処、対応能力が大幅に
上がるだけでなく、ふだんの仕事や生活で絶対に役にたつはずです。

私の勤めている会社では、品質管理検定はまったく重要視されていません。
しかし、私は品質管理の手法と実践はすべての技術者にとって絶対に
必要なものだと確信しています。そのため、自分の近くにいる同僚に受験を勧め、
学習を支援してきました。
その結果、1級1名、2級7名、3級多数の合格に微力ながら協力することができました。


その支援のなかでのきづきです。

QCで統計数理にふれて多くの方が面食らうのは主につぎのものです。

1.なぜ、平均だけでなく標準偏差や分散などばらつきもあわせて
  考えなければいけないか?

2.なぜ、ばらつきを分散という特性値の2乗で計算し、さらにその平方根をとって
  標準偏差という特性値と同じ次元にもどすのか?

3.なぜ、分散の計算で『偏差平方和』をデータ数ではなく(データ数-1)で
  割るのか?

4.なぜ、正規分布にしたがうデータ群を標準正規分布に変換するのか?

5.相関係数:rの計算式はどのようにして導き出されたのか?

その他にも多くの疑問や疑念があることでしょう。


前述のように、QC検定受験対策の書籍には統計数理のくわしい解説はありません。
ましてや、上記3項の理由や七つ道具の『管理図』の原理となっている『中心極限定理』は
一切説明されていません。

『中心極限定理』はくわしい統計数理の書籍を読んでも、ほとんど実感が
ともなわない不思議でおどろくべき統計学上の性質です。しかも、多くの
統計数理の源泉になっている定理です。残念ながらこれを知識として
修得するには、この性質を実体験するしかありません。

過去、私は「バーチャル実験で体得する実践・品質工学」、
試して究める!品質工学 MTシステム解析法入門」、
めざせ!最適設計 実践・公差解析」という書籍をいずれも日刊工業新聞社から
出版していただきました。
これらにはそれぞれに必要となる統計数理も解説してきました。
そして、先月末「今度こそ納得!難しくない品質工学」(日刊工業新聞)という書籍を
上梓しました。



この書籍は「品質工学」の思想や原理、そして数理と活用方法などを解説した
ものですが、品質工学の数理を理解するには統計学の数理は必要不可欠です。
そのため、かなりの紙面を割いて統計数理を解説しています。当然、これらは
QCの数理にも直接結びつくものです。本文254ページ中64ページを使い、

・サンプリング ・平均 ・Σという記号の性質  ・偏差平方和 ・分散と標準偏差
・ヒストグラム ・正規分布と標準正規分布  ・基本統計量をイメージする 
・『中心極限定理』 ・分散計算の疑問の解決 ・散布図 ・相関と相関係数 
・回帰分析と寄与率 ・F検定 ・分散分析 などを解説しています。
解説は概念をイメージとしてとらえられるような事例を使ったものと、純粋な
数学による解説の両輪を用意しています。社内での受験支援で作成した
テキストにさらにくわしく加筆した内容となっています。


また、本を読んだだけではほとんど理解と修得にいたらないであろう
『中心極限定理』を実体験できるMicrosoft社のExcelで制作した
『中心極限定理シミュレータ』を無償でダウンロードできます。これを試して
いただければ、
「中心極限定理って、こういうことか!」と理解していただけるはずです。

本来は『品質工学』をわかりやすく解説するために執筆したものですが、
品質管理検定の手法編を理解、活用するために必要な多くの統計数理の
知識を得ることができるはずです。

また、品質管理という管理の対象である『品質』という特性の本質はなにか?
も十分解説していますので、きっとこの「品質」の解説も参考になるものと思います。

QC検定1級には『品質工学』も出題されます。将来1級を受験される方にとっても
いずれ、お役にたつはずです。

夏休みを利用して拙書で3日間集中して学習していただければ、
きっと2級、3級のQC検定に合格できる統計数理を修得できると思います。
価格は3024円とかなり高額ですが、QC検定に必要な統計数理を
真剣に学びたい方には自信をもっておすすめします。

そして、本書に目をとめていただいた技術セミナーを主催されている
企業様から、品質技術に活用する統計学セミナーの講師を依頼されました。
書籍の解説がわかりやすい、というご評価をいただいたためです。

先日、私が懇意にさせていただいています『(有)増田技術事務所』
増田所長のブログで拙書を紹介していただきました。リンク
このブログ、とってもおもしろい記事が満載です。私は毎日チェックしています。