?La place de Simenon est l’une des énigmes que résoudra l’histoire littéraire future.?
シムノンの位置は、未来の文学史が解くはずの謎の一つである。
ガエタン・ピコンGaëtan Piconの?Panorama de la nouvelle littérature française?(1949)には邦訳(『現代フランス文学の展望』白井浩司訳 三笠書房 1954)がある。
死の年に刊行された改訂新版(1976, Gallimard)で、シムノンはそれほど大きな扱いを受けていない。
現代小説が変貌を遂げる中、その流れの外でも多くの注目すべき作品が書かれているとピコンは言う。?Elles s’inscrivent dans le sens d’une littérature traditionnelle ; elles ne mettent pas fondamentalement le roman en question.?(それらは方向としては伝統的文学の枠に入る。それらは小説を根底から問題化するものではない。)
それらの作についてこの本では多くを語らないとしても、そこに必ずしも価値判断は含まれないと断わった上で、「伝統的作家」を「バルザック系」と「スタンダール系」に分類する。
小説というジャンルのあらゆる手を駆使して、虚構でありながら現実に似た世界を創造する「バルザック系」の小説では、「想像力と社会観察、打ち明け話confidenceと心理学」が同じ権利で混じりあう。
「スタンダール系」の作家にとって小説とは「彼らが書くことに味わう愉しみに開かれた空間」un espace ouvert au plaisir qu’ils prennent à écrire である。読者の側も、何より文章を味わい愉しむことになる。
?Il y a les romanciers qui cherchent à faire sortir un monde d’eux-mêmes, et ceux qui cherchent à faire entendre leur accent.Il y a des romans de romanciers, et des romans d’écrivains.?
(自分の内部から一つの世界を生み出そうとする作家〔バルザック系〕と、自分だけの美しい音色(ねいろ)を響かせようととする作家〔スタンダール系〕がいる。小説家の小説があり、文章家の小説がある。)
前者の例としてまずシムノンの名が挙がる。独創inventionよりも雰囲気atmosphèreが大きな場所を占める、量abondanceが創造的多様性の錯覚を与える、手厳しい評ばかり目立ち、最後に? Simenon est aujourd’hui le type du génie romanesque innocent.? (シムノンは今日無邪気な小説の天才の典型である)
次にアルベール・コーエン以下同じ系の作家を見て行くが、まず?Du côté des romanciers, des ?vrais romanciers,...?(さて小説家、≪本格作家≫の方では
)とつまりシムノンはこのグループの中でも別扱い。「小説家」の筆頭に挙げざるを得ないが、留保つき。
小説家と文章家の区別は、シムノン生誕百年を機に書かれたFrançois Nourissier, Ecrivain ou romancier ? (Le Figaro Littéraire, 9/1/03 2005.11.10 今年のゴンクール賞に一部を引いた)にも見られる。
ジッドがシムノンを今日もっとも偉大な作家と讃えたのはあまりにも有名だが、それがromancierへの賛辞であることに気づくには時間がかかった。
フランスでのシムノンの論じられ方を通して、前提とされる枠組み、ある種の格付け(それらは不動のものではないだろう)が、少しずつ見えてくる。
シムノンは文体を持たない、単調で平板な文章しか書けないと否定する声があり、いや間違いなくシムノンの文体は存在すると、真面目な議論の対象になりえるのだということ。("style Simenon" 検索結果) そこにはおなじみの「『異邦人』と白いエクリチュール」という話に劣らず考えさせるものがある。