マグリットの『自然の驚異』Les merveilles de la nature(図 シカゴ現代美術館)は、あるページでは『愛の歌』Song of Loveと題されている。
実際、「愛の歌」でもよさそうに思える。この絵に添えられれば『自然の驚異』と同じ黒いユーモアを生むだろう。
何でもいいわけではないが、「メタファー型タイトル」(→4/18日記)にはそういう自由さがある。とりわけマグリットのように絵と言葉の「不一致の一致」「一致の不一致」を特徴とする作家では。
どうやらマグリット自身、タイトルを忘れていたらしい。絵の持ち主に題はLe Chant d'amour(愛の歌)だと知らせ、かと思えば1965年の回顧展の際友人に尋ねられ、忘れたと答えている。カタログ・レゾネ作成の機会に、元のタイトルと、1953年ブリュッセルの画廊La Sirène での人魚のテーマによる展覧会と自身の個展に出展されたことが明らかになった。
(上の図の解説による)
1935(?)年の『集団による発明』L'invention collectiveはすでに頭が魚の逆さ人魚を描いている。
ポール・デルヴォーにも『人魚の村』などの作品がある。53年の人魚展にはデルヴォーの絵も出展されたのかもしれない。
頭が牛、体は人間のミノタウロスについてボルヘスの『幻獣辞典』(柳瀬尚紀訳 晶文社)は「ダンテは古代人の著作に馴染んではいたが、その貨幣や建築には疎く、ミノタウロスが人間の頭をもち雄牛のからだをしていると想像した。(「地獄篇」第12曲1-30)」
「セイレーン」の項には、「『オデュッセイアー』第12書で彼女たちのことを最初に語ったホメロスは、彼女たちがどんな姿だったかまでは伝えていない。オウイディウスによると、彼女たちは羽毛の赤みがかった鳥で、幼い少女の顔をしている。ロードスのアポロニウスによると、上半身は女、下半身は海鳥である」
図はアテネの壷絵 紀元前6世紀末から5世紀初め 大英博物館