筒井康隆は、1934年生まれだ。
ということは、80歳に近い。
小松左京、星新一らと並んでSF御三家と言われていたそうだが、今ではただひとり存命中だ。
「旅のラゴス」は1994年の作品だから、彼が60歳の時のものだ。
やっとパソコンが私たちとフレンドリーになり始めた頃だ。
それにしては、アイデアと精神の若さが溢れているよい作品だ。
一人で旅をする男、ラゴス。
奴隷になったり、王様になったり、教授になったりと、波乱万丈の人生を送るのだが、そこに祖先の宇宙船や空間転移とかが登場し、SFの妙味がうまく散りばめられている。
しかも、この本には、終わりがない。
オチがないのだ。
そこには、還暦を迎えた筒井康隆の、貪欲なまでの情念が見え隠れする。
彼がラゴスの口を借りて語る言葉は、案外、筒井自身の心を代弁しているのかもしれない。
***
わたしは、そもそもがひとっ処にとどまっていられる人間ではなかった。
だから旅を続けた。
それ故にこそいろんな経験を重ねた。
旅の目的はなんであってもよかったのかもしれない。
たとえ死であってもだ。
人生と同じようにね。
***
生きるということは、それ自体にはそんなに意味は持たない。
人は、生を得、恋をし、競争をし、そして死を迎える。
集団の中には、私の代わりをする人は多くいるのだろう。
ただ、個々の人生はその人のドラマであり、代替え性のあるものではない。
そのことを一冊の本にまとめ、語りものとする。
そこでは、空も飛べるし、壁さえくぐり抜けれる。
精神の自由さが、人間の超能力を可能にする。
小松左京ほど現実的ではなく、星新一ほどの軽いノリではなく、筒井康隆らしいファンタジーの世界に触れた気がする。