DALAI_KUMA

いかに楽しく人生を過ごすか、これが生きるうえで、もっとも大切なことです。ただし、人に迷惑をかけないこと。

どうする(84)

2015-03-04 07:39:10 | ButsuButsu


「時は流れるものだ」

実感として感じながら、私はアヴェニューの長い坂道を登った。

35年前、自転車に乗って行き返りしていた坂道が、何と長く感じられることか。

距離としては4キロメートルほどだが、単調な上りに疲労がたまる。

年は取りたくないものだ。

レトロがかった郵便ポストに自分の姿を重ねる。



明治時代に日本の郵便制度は英国から導入されたので、ポストの色も形も同形だ。

「こいつは変わっていないのだな」

ふと微笑ましくなる。

35年前と明らかに変わっているのは、バス停の表記だ。

以前は時刻表すらなかった。

驚いたことに、立派になった停留場には,デジタルの表示板までついている。



誰一人待ち人がいないバス停に、到着時刻を知らせる数値が妙にアンバランスだ。

坂道を登りきったところに大学がある。

以前、私がいた海洋学部は、今はウォーターフロントへ引っ越している。

さらに10分ほど進むと右に折れる。

少し道に迷いながら懐かしい門にたどり着く。

35年前、大きな荷物をかついでやってきた、大学の寮だ。

グレンエアーコンプレックス

2012年に車で来た時には、見落としてしまった看板だ。

中に入るとレンガ造りの建物と、コンクリートの建物とが一定の距離をとって配置されている。

入寮するときに

(1)とても騒がしい部屋

(2)騒がしい部屋

(3)普通の部屋

(4)静かな部屋

(5)とても静かな部屋

の5段階から選ぶことができた。

私は最初(3)の部屋を選んだのだが、早々に(5)へ変更する羽目となった。

日本人にとって「普通の部屋」は、イギリス人にとって「とても静かな部屋」に相当することを知った。

最終的に落ち着いたレンガ造りのフラットは、私の生活にあっていた。



こうして暮らした2年間は、多くの思い出にあふれている。

35年ぶりにたどり着いた記憶のつながりは、出会いの場所でもあった。

ここで初めてブライアンとも会った。

ワインレッドのジャガーで迎えに来てくれた中年のおじさんは、寮でも話題だった。

その彼は、今はいない。

次々と思い出が広がる。

35年ぶりのゲレンエアーは、ちっとも変わらずにあった。

時は流れるが、変わらないものもある。

この事実に、少しほっとした時間を過ごすことができた。