芥録 一冊目

Macやゲームが中心の、日記とコラムのブログです。二冊目→http://livrevie.blog58.fc2.com/

製作者と権利者 その二

2008-03-26 23:52:00 | コラム(著作権関連)
違反か販促か--著作権侵害動画の本質:CNET Japan オンラインパネルディスカッション - CNET Japan



前回の続きです。



この記事の冒頭で素晴らしいコメントがあります。

「ファンのいないところにエンターテインメントは成り立たない。好意を持っていてわざわざ宣伝してくれる。そんなファンをないがしろにして著作違反だとやっていたら,ファンなんかいなくなります」

全くもってその通り。素晴らしいですよね。
ではこれ、誰のコメントかと言うと、角川デジックスの福田正社長のものです。
私の記憶の中では、動画共有サイトからどこよりも熱心に動画を削除していたのは角川だったような気がしているのですが・・・。
記憶に自信が無いのが申し訳ないのですが、「ん?」と思ってしまう点ではあります。
まあ過去はどうあれ少なくとも現在は、最も積極的なアクションを起こしている会社と言えるでしょう。


少々話は変わります。
記事の最後に書かれているこの一文、ここから日本のテレビ業界が抱える問題を考えることができます。

番組製作者も空気のように消える番組ではなく、2度3度と見てもらい、おいしい思いをしたいはずだ。

ここで注意すべきは、「おいしい思い」をしたいのは「番組製作者」であることです。
実際に番組を流しているテレビ局は、むしろ番組を「空気のように消」すことを望んでいるのですから。

放送業界の収入は(NHKを除き)広告収入がメインです。
つまり放送業界にしてみれば、「一つの番組でいかに広告費を稼ぐか」が大事なわけです。
そのため、例えば人気ドラマであれば、大体こういうプロセスを踏むことになります。

テレビで放送(一回目の広告収入)

テレビ局の蔵入り

再放送(二回目の広告収入)

その後時々再放送(再放送ごとに広告収入)

このプロセスで最も大切な要素は、二つ目の「蔵入り」です。
これによってその番組を完全に自分の管理下に置き、視聴者が目にする機会をコントロールします。
そうすることで再放送の価値が上がり、当然の結果として広告収入も増えるわけです。
またこれ以外に、レンタル収入やDVD販売による収入などもあるでしょう。
しかし売り上げの大部分は広告収入が賄うので、テレビ局にしてみれば「蔵入り」という要素が非常に大事となります。


ところが、番組製作者の思惑は大きく異なります。(テレビ局の自社制作の場合は別として)
自分たちの作った番組なのだから、自分たちの自由に儲けさせろ、というわけです。
この辺りは説明すると長くなるので省きますが、通常テレビ局は番組に関する全ての権利を保有しています。
つまり先程の「完全管理」というのは、著作権やそこから発生する全ての利益も管理しているということです。
番組を買い取る際に相当な額を払ってはいますが、それは「歩合制」ではありません。
どんな人気コンテンツを作ろうと、一定額以上の儲けは出しようがないのです。
これが日本のコンテンツ業界の抱える最大の歪みでしょう。
番組製作者はあくまで下請け。そこから発生する殆どの利益はテレビ局のものとなるのです。

随分とおかしな話なのですが、これに番組製作者が強く反抗できないのにも相応の理由があります。
テレビ局からそっぽを向かれると、製作者としてはどうにもならなくなってしまうのです。
やはり、テレビの持つ影響力というのは強大ということでしょう。


ところが最近、状況が段々と変わってきました。
テレビにはまだまだ及ばないものの、破竹の勢いで影響力を広げるメディア、インターネットが現れたのです。
つまり番組製作者は、テレビ放送に頼らずとも多くの人々に知ってもらう手段を手に入れつつあるのです。
自分たちで作った人気コンテンツを使い、テレビ局に権利を握られることなく、自由に稼ぐことができる。
いいものを作れば作るだけ、相応のリターンが帰ってくる。
気概を持つ製作者にしてみれば、夢のような状況と言えるでしょう。


もちろん、そんな状況がすぐに生まれることは考えにくいです。
インターネットが成長著しいとはいえ、広告の市場規模はまだまだテレビが、文字通り桁違いな規模を誇っています。
しかし放送業界は、そろそろ現状に拘泥するのをやめた方がよい。
一視聴者として言わせてもらえば、今すぐやめていただきたい。
結局のところ放送業界も広告収入に依存しているのです。
記事で書かれている、こういう状況だって、あり得ない話ではないのです。




視聴率を見て視聴者を見ていない現状は打破されなくてはいけない。
そうしないと、広告主が直接、製作会社とニコニコ動画で番組を作りだす時代がやってきてしまう。
そのほうが、売れるのなら、広告主は躊躇しないだろう。




※参考文献
吉野次郎著『テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか』日経BP社刊
Amazonリンク






最新の画像もっと見る