紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

9 配置換え

2023-02-05 08:17:47 | 著書・夢幻★すみれ五年生


 祖母の竜子は考えごとをしているようだ。時々箸を止めため息をついている。すみれは、見ないふりをしていたが、気になっていた。
 すみれは竜子の様子を目の端に入れながら思い出していた。千代は八十歳を二つ越したと言っていた。竜子はそれよりずっと若いと思うが、時々肩を叩いたり腰を叩いたりするのを見ると、きっと毎日の仕事に疲れているのだろう。
 それに、すみれ自身が竜子に対して取る態度は、竜子には悲しいことに違いない。かといって、自分のどうすることも出来ない苛立ちを抑えることが出来ないでいる。
「配置換えされたのよ。今度はもっと早くに出勤しないといけないわ。だから、すみれ、あなたもリュウちゃんを頼らずに学校へ行くのよ」
「はいちがえ?……」
 竜子はすみれの咄嗟の反応に、予想外だったのか目を見開いてすみれを見た。すみれは、何か恥ずかしいところを見られたような気がして、顔を背けた。
「うん。始業前の掃除をするの。だんだん追いやられて、そのうちリストラされるわ、きっと」
 すみれは、山谷を思い出した。『仕事が出来るだけでも良い』と、言っていたが、今頃どうしているだろう。もうタクシーに乗っているのだろうか。竜子も大変なのだな、と思ったが黙ってみそ汁を飲んだ。
「掃除のおばさんが来なくなったら、途端に私に掃除係をしてくれって。イヤだなんて言えば辞めさせられるし、仕方ないわ。この歳だと何処でも雇ってもらえないから。来週から早出。そのかわり、夕方は今より早く帰れると思うわ」
 竜子はため息混じりに言った。




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著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
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