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女の肌を連想させる山は、藍色がかった灰色で、薄く二、三か所に煙を上らせている。
煙の立ち上っている地表は朱に染まり、朝日に輝いていた。
お婆は、山を左手に見て急いだ。
村の子供が、そこの溶岩の中に立ってみると、自分の中に棲むものに会うことが出来ると言った。
黒い溶岩は何処までも続き、しがみついている松や杉にも、非情なほどそっけなく、それでもそれらの木々は、根を這わせ水分を得ている。
お婆は、足場の良いところに立った。山は天に曲線を描き、遥か裾野は淡い緑と、針葉樹の深緑の相俣中に、風が遊んでいた。
「ギャーッ」
悲鳴は、さっき見かけた人影のあった方からだ。お婆は、弾かれたように飛び上がった。
「とんでもない。とんでもないことだ」
北からの旅人に聴いたことのあるトドのような図体の男が、溶岩の間に足を取られてもがいていた。目を見開いたまま「俺は大店の主人だ。他人からは仏の善右衛門と呼ばれていた。俺の中に居るはずはない。そんな者は居ないっ」と、宙を睨んだ。
お婆は、驚いて辺りを見回したが何もない。それよりも、温かな風が花の香りさえ運んできている。
溶岩の表面がキラリと光り、お婆の姿が現れた。痩せぎすの体に灰青の縞模様の着物。自分の姿を見て、もんぺが大分汚れているなと思った。後ろに纏めた髪が白く、艶も失せていた。
髪が緩く解け逆立ちはじめた。目がつり上がり、口が裂けていく。白髪の間を突き抜け、鋭い角が伸びていった。
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