紫陽花記

エッセー
小説
ショートストーリー

別館★写真と俳句「めいちゃところ」

重罪

2021-01-28 16:35:34 | 風に乗って(おばば)



 重罪

 道に迷って入り込んだ村で、お婆は一人の女の裁きに遭遇した。村人は、他国の人なら冷静な判断を下せるだろうと、お婆に、協力してくれないかと頼んだ。

「手を下さなくっても、殺人罪だ。想像の中ででも、息子の首に紐を巻いたとなれば、殺意はあったのだから」
「いやっ。それは母親の愛情がそうさせたのでしょう。絶対無罪だ。あくまでも心の中での事ではないですか」
「それに、覆い被さったらと思ったとも言うではないか」
「確かに。身動きの出来ない子供に被されば、窒息の可能性はあります」
「でしょう。だから殺人罪だ」
 告発人の神主が御幣を振り回した。
「地鎮祭じゃあるまいし、御幣なんぞ振り回すなっ」
 弁護側にいた男が野次った。
「確かに、殺人罪に値する想像だ。だがなぁ、足萎えの息子が明日をも知れぬ病の時だと言うし、不眠不休で看病していた時だと言うし。無罪だ。無罪」
 弁護側の坊さんが数珠を鳴らした。
「うちのばぁさんの七回忌にはまだ早い」
 神主側の女が冷やかした。

 裁きの場となった庭の隅から、這ってくる男の子がいた。それには誰も気がつかない。自分たちの主張を通そうと、大声を出し合っていた。
 男の子は身を縮めている母親にやっと近づくと、膝に手を置きそっと撫でた。母親が息子に詫びている。
「おばば、あんたの考えは……」
 村の人たちはお婆が口を開くのを待った。
 お婆は、ついに何も言えなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別館ブログ「俳句銘茶処」
https://blog.ap.teacup.com/taroumama/

お暇でしたら、こちらにもお立ち寄りくださいね。
お待ちしています。太郎ママ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最新の画像もっと見る