紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

18 ファイルNO.17

2021-09-12 05:51:28 | 夢幻(イワタロコ)


「お茶が入りましたよう」
 階段下からお袋の声がする。
 咳払いを一つして親父が下りて行った。
「まっ、また煙草を吸ったのですか」
「吸っていないよ。おまえは疑り深いな」
「誤魔化しても駄目ですよ。匂いが服についているじゃない」
「気のせいだ」
「先生になんて言われたんですっけ。影は消えましたが喫煙を続ければ、今度は大変なことになるかもしれませんよって」
 お袋の甲高い声が続く。

 親父の書斎はガレージの上の中二階にある。七畳半の部屋にパソコン、テレビ、本棚などを置いて、親父は休日の半分はそこに籠もる。今日、俺は将棋をつき合っていた。
 親父の後から書斎を出ようとした俺は、棚の「NO.17」の箱型ファイルが目に入った。
『離煙協会』という見出しのプリントが透明な入れ物の中に見える。
 俺は、親父の気配を気にしながらファイルを開けた。その中に、禁煙サークル、専門医院、薬、道場、指導研究会、などの他、肺の生活習慣病に関する情報サイトのプリントがぎっしり入っていた。

「NO.17」の前後のファイルには、旅行案内や劇場案内のプリントが見える。
「もう、どうなっても知りませんからね」
「煙草は止めたって。止めるって」
「ほら、止めていないじゃない。なんかあったら、旅行だって行けなくなるんだから」
「きっとやめるよ」
 両親が言い合っている。
 隠れ煙草吸いの俺は、『禁煙する意志が全くない人間を禁煙させるには』というプリントを引き抜いた。


著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。


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