昨日の続きで、馬券の払戻金への課税問題を取り上げます。
今の所得税法上の規程では、馬券の払戻金は『一時所得』として扱われており、年間の当たり馬券の合計額が70万円を超えれば、その金額に対して所得税を課す決まり。ちなみに、外れ馬券を費用とは見做せず、当たり馬券だけに課税が為されるという酷いもの。しかも、あらかじめ馬券売上げの10%を国庫納付金として源泉徴収しているにもかかわらず、です。
今の所得税法は「競馬なんかやっても絶対に稼がせない。馬券が当たっても、勝ち分だけに課税して、必ずトータルマイナスにしてやるからね!」という内容。酷い法律だと思います。
このような一方的で理不尽な法律が今まで現存しているのには、実は訳があります。少し前までは、この課税は原則として「見逃されていた分野」だからです。
かつては、馬券と言えば「紙の馬券」を窓口で購入し、外れればゴミ箱、当たればまた窓口で換金されるシロモノでした。当然ながら無記名であり、誰が幾ら当てたかなんて記録に残らないものでした。従って課税などしようとしても無理な世界でした。
ところが、昭和の終わりことから『電話投票』、そして『NET投票』が普及していったため、個々人ベースでどの馬券を幾ら買ったかがトレースできるようになりました。もちろん、JRAサイドから、そのデータが税務署へ流れることはありませんが、NET投票用に開設した専用の銀行口座は、税務署が調査に入れば、銀行側は協力する義務があります。結果として、WIN5などで高額払戻があった場合は、税務署が動き出すという訳。
国側も一枚岩ではありません。まず、JRAの監督官庁である農林水産省は、上記の税務署の動きには渋い顔をしています。せっかく競馬人気を復活させてきて売上げが3兆円に戻ったところなのに、大穴馬券を当てた人間を狙い撃ちにするような税務署の行動が、売上げそのものを落とすきっかけになったら目も当てられません。売上げ3兆円に対して10%もの国庫納付金が手に入る大事な市場を、税務署に荒らされたら国益にならないからです。
このあたりは、実は税務署の上層部である財務省主税局ですら、同じ想いです。1億円、2億円といった規模の個人課税によって、馬券の売上げが落ちることになったら、国庫納付金の規模が、すぐに数十億円、数百億円と縮小してしまうから。
それでも、現場の税務署がこうした案件をチマチマ追いかける訳はなぜか? まず国庫納付金の金額が幾らになるかは彼らの仕事ではなく、現場の税務署には関心がないから。個々の税務署にしてみれば、自分の管轄の中で『法令上、取れる税金は取り尽くす』というのが彼らの唯一のモチベーションなんです。
正直、こんなところから税金をむしり取る意義は、ほとんどないと断言できます。意味のない仕事に精力を使う税務署の行動を止めるためには、やはり『所得税法の改正』が必要。お台場や横浜のIR=カジノ熱が冷えないうちに、公認されているギャンブルについての払戻金課税を撤廃して、国庫納付金一本に集約するべきだと思います。