迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

くるま噺。

2018-07-16 00:10:22 | 浮世見聞記
かつては江戸の盛り場、現代(いま)は外国人観光客たちの盛り場に屯する、人力車。 人力車──俥は明治時代、西洋人の馬車から日本人が思ひ付いた、純国産の発明品と聞く。 明治時代のそれは、やがて路面電車に取って代わられて姿を消したが、現代に至って観光用として復活し、いまではどこの観光地でも定番の乗り物として、すっかり根付いた感がある。 さりながら、若い車夫が往来に立って溢れるやうな観光客を物色 . . . 本文を読む
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ピリ辛印な陽気。

2018-07-14 23:43:49 | 浮世見聞記
朝、起床して窓を開けた瞬間、 「こらアカン……」 と、窓を閉める。 朝にしてこの熱気、とても普通ではない。 窓からの日射しをカーテンで遮断し、冷房を目いっぱいに稼働させて、今日は読書に充てることにする。 読む速度より、新古書店や古書街で気になった本を買ひ求める速度のはうが速いため、今では買ひ控へなくてはならないほど、押し入れには未読本が溜まってしまってゐる。 「あの本が早く欲しいから . . . 本文を読む
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御魂をしのぶ。

2018-07-13 23:59:04 | 浮世見聞記
“陽射し”とはよく言ったもの、朝から刺すやうな陽の光りに当てられ、全身から噴き出す汗に、水分の補給も追ひつかない有様。 陽が落ちる頃になってやうやく歩く気持ちを取り戻し、住まひ近くまで来て空をふり仰げば、 不思議な色に染まってゐるを見て、しばし足を留める。 早く部屋に帰ってシャワーを浴びやう──と、再び前を向ひて歩き出したとき、今は亡き先輩のことを、ふと思ひ出した。 その先輩とは、 . . . 本文を読む
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ちゃうじゅの眼差し。

2018-07-11 12:08:22 | 浮世見聞記
神奈川県川崎市中原区小杉町── 江戸時代の初期には徳川将軍の仮御殿が設けられ、また東海道の平塚宿から江戸までの最短脇往還として重宝された中原街道の宿駅がおかれ、現在は工場跡地とその付近に乱立された超高層マンションなどによって、最寄りの武蔵小杉駅が悪質な混雑に陥ってゐるこの町の一角に、昔を偲ばせる一本の木ありけり。 道路端からはみ出してゐるやうに見へるが、伐採することなく道幅を広げたため、結果 . . . 本文を読む
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現代の名奉行。

2018-07-09 17:31:05 | 浮世見聞記
6月18日──大阪北部地震の発生した日──、加藤剛さんが胆嚢癌でお亡くなりになってゐたことを、今日の訃報で知る。 小学生のとき、平日の夕方に再放送されてゐた「大岡越前」をほぼ毎日観て、私はすっかり加藤剛さんのファンになった。 その後、木挽町の芝居小屋で歌舞伎役者の扮する大岡越前守忠相を観たときには違和感を覚えたくらゐ、加藤剛さんの大岡忠相は当たり役だった。 後世に伝わる大岡越前像は、「官 . . . 本文を読む
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歩ひて出逢ふ楽しみに出逢ふ。

2018-07-08 23:34:07 | 浮世見聞記
横浜にぎわい座で、「第7回 南光•南天ふたり会」を楽しむ。 会は七回目だが、私は昨年に続いて二回目。 昨年は落語でここまで笑ったことはないくらゐに笑ひこけて、とても楽しかったので、今年も期待して出かける。 開口一番の師弟トークで師匠から恥ずかしい“過去”を暴露された南天師が、動揺を抑えきれないまま(?)「動物園」を、続いて南光師が「壷算」を丁寧な運びで聴かせる。 「壷算」は初代春團治の古 . . . 本文を読む
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悪天候の目を掠めよ。

2018-07-07 23:57:30 | 浮世見聞記
異常豪雨の尾を引いたやうな、すっきりしなゐ天気の一日。 中部や関西、中国の豪雨被害に、もはや「災害」といふ枠を超えてしまった恐怖を覚え、今宵は七夕であったことすら忘れる。 駅に貼られた盛夏の観光を誘(いざな)ふポスターすら、空虚なものに映ってしまふ。 が。 私は今夏の計画を取りやめぬ。 私は、生きる。 身の安全を第一に、 しかし自然の意志には逆らはず、 そろりそろりと参 . . . 本文を読む
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阻む天候を笑ふ。

2018-07-06 18:22:48 | 浮世見聞記
凄まじい雨音で夜が明けた今日、窓を開けて空を見上ぐれば、低い雲が早足に流れるを見て、これはそのうち小降りになって止むだらうと、読む。 そして読み通りに鉄道各線がコケたのは、 ほとんどが技術屋の技術不足ゆゑ。 今日は、荒天のせいならず。 駅前の狭い道には、人とクルマが詰まってゐる。 サッと通り抜けられる知恵の無い者は、通行厳禁なり。 その狭い道の真ん中を、優雅に歩く男あり . . . 本文を読む
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出かける喜び、阻む天候。

2018-07-05 20:17:10 | 浮世見聞記
一尺の渋扇を、京都からやうやく取り寄せる。 一尺──約30Cmの長さは舞扇と同寸で、開き具合は仕舞扇と変はらず、手猿楽のちょっした創造にも手頃なのである。 以前に半ば間に合はせで江戸仕立ての九寸渋扇を購入したが、親骨が四角四面で持った感触が好みでなく、京都の渋扇で親骨が古風な仕立てになってゐるものが出てゐるのを見つけて、コレや! と膝を打ったのである。 さりながら、決して廉(やす)ゐ買ひ物 . . . 本文を読む
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文明の裏方たち。

2018-07-04 17:17:44 | 浮世見聞記
横浜開港資料館の企画展示、「金属活字と明治の横浜」展を見る。 中国の四大文明として「羅針盤」•「火薬」•「紙」、そして「活字 」が挙げられるが、部屋で読む本を切らせるとたちまち禁断症状に陥る私などは、活字といふ文明の恩恵に、もっとも与ってゐるクチだらう。 漢字の金属活字は、東洋におけるキリスト教の布教をにらんでヨーロッパで発達したもので、日本へは明治ニ年(1869年)、長崎に輸入されたのが始 . . . 本文を読む
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遺産は資源なるか。

2018-07-03 22:07:36 | 浮世見聞記
長崎、天草地方の“隠れキリシタン”関連の遺跡が、世界遺産に登録されたと云ふ。 その子孫たちが喜びを語りつつ、「これからも静かに形態を守っていく」と述べてゐるところに、数百年にわたる「潜伏」から会得したものであらう、信仰の矜持を見る。 さりながら。 隠れキリシタンの集落のほか、“島原の乱”の舞台となった原城の跡、大浦天主堂などが世界遺産に登録されたとなると、それらがたちまち観光資源に利用され、 . . . 本文を読む
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葉村屋は一枚看板。

2018-07-02 22:27:48 | 浮世見聞記
横浜開港五十周年を記念し、大正七年(1918年)に横浜市民の寄附金によって開場した公会堂、「横浜市開港記念会館」のホールに、初めて足を踏み入れる。 今夏に横浜各地で開催さるる大催事の全体説明会に、手猿楽師•嵐悳江として、初めて参加するためなり。 手許の資料に目を通しながら、 説明に耳を傾けつつ、 当日の光景を想像しつつ、 万全を期すことに、 気持ちを引き締める。 ──師匠の“嵐 . . . 本文を読む
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初日初音。

2018-07-01 18:44:53 | 浮世見聞記
七月最初の日に、今年最初の蝉の聲を聞く。 夏が、いきなりやって来た。 強ひ日差しに街は白く揺らめき、 海と空の深い青が、 目にしみる。 先代桂小文治の「辰巳の辻占」が収録された中古CDを見つけたので、廉価を幸ひ手に入れる。 若手時分の大正時代に上京して以来、東京の噺家として活躍し、中堅までは新作物を、晩年は故郷の大阪を偲んでか、上方落語の大ネタをよく手がけてゐたと云ふ . . . 本文を読む
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