"九品仏(くほんぶつ)"と聞くと、私のやうな人種は、




"廰"に、歴史を感じまする。




『途中の「九品仏」では、前(後ろ)一両のドアが開きません』

の、↑をまず連想する。
さりながら今回の話しは、その東急大井町線の驛名ともなった古刹を訪ねることにあり。

改札口を出てすぐ左に曲がった先に續く参道を行くと、件の「九品山唯在念仏院浄眞寺」(東京都世田谷区奥沢7-41-3)ありけり。

延宝六年(1678年)に珂碩上人が奥澤城の跡地を賜り創建した浄土宗の寺で、戦國城郭の名残りで土塁に囲まれた境内は、七堂伽藍の古態を現在に傳へる貴重なものだとか。
山門をくぐり、真新しい白木の閻魔堂を過ぎると、境内で殺生を禁ずる警視庁の古い石標が。

"廰"に、歴史を感じまする。
この古刹の通称「九品仏」は、もちろん九躰の阿弥陀佛に因んでゐる。

阿弥陀佛像を三躰づつ、三つのお堂に分けて祀ってゐることから"九品仏"と云ふわけだが、現在は一躰づつ修復中で、再び九躰揃ふのは2034年頃になるらしい。

三つお堂の向かひに建つ龍護殿には、釈迦如来像が祀られ、

なかに入ってより近くで拝むことが出来るが、傍らのPR映像の音聲が耳に障り、静かな気持ちにはなりがたし。
またこの古刹では、いはゆる"お迎へ"のさまを視覚化した「二十五菩薩来迎会」、俗に"おめんかぶり"と云ふ行事が三年に一度、五月に行はれる。

菩薩の面をかぶった行者が橋の上をしずしずと歩むさまは、古への大衆信仰のさまを視覚的に傳へてゐるやうで、なかなか興味深いものがある。
奇しくも2020年がその年に当たってゐるさうで、ならば実見したいものと思ふのだが、カメラを掲げた有象無象の姿にいやはや……。