ラジオ放送の寶生流「紅葉狩」を聴く。
劇的要素の濃い“風流能”であることから、「船辨慶」と並んで薪能などで飽きるほどによく上演される大衆向け扱ひな曲となってゐるが、謠の詞章には本朝唐國の故事古歌がふんだんにちりばめられてゐるところに、猿樂の“品格”が保たれた一曲。
前シテの上臈がいよいよ妖しい正体を仄めかす、「堪えず紅葉青苔の地……」の謠ひは白樂天の古詩から採ったものだが、さういふことは關係なく私は流麗にして妖氣あふれる節付けが好きで、時おり口ずさむ。

──ヘンなのに欺されないための、私なりの呪文(おまじない)である。