
赤ちゃんを想ってだらう、母親は化粧をしていなかった。
我が子を見つめるその母親の表情は、とても優しく、嬉しさうで、綺麗だった。
いま、法律の権限が家庭内にまで及ばんとしてゐる。
しかし、社会をさうしてしまったのは、精神が未発達なまま体(がわ)ばかりが大きくなった、歪(いびつ)なオトナの存在である。
かうした結局はおのれしか愛せない人種に、人間としての幸せを享受する資格など無い。
やがて、用事を済ませて戻って来た若い夫と共に、彼女は赤ちゃんを抱ひたまま車に乗り込むと、駐車場をあとにした。
そこに、“親の愛”といふ麗しい香りを残して……。