散歩途中に立ち寄ったリサイクルショップで、上村松園の「花がたみ」(大正4年)の繪葉書に出逢ふ。

同名の謠曲から取材したこの名画に、かつて國立近代美術館の特別展で初めて逢ったとき、口許から覗くお歯黒に艶めかしいまでの美しさを見て、しばらくその場から動けなかったものだった。
その狂女に、私は再び逢った。
原典の謠曲「花筺」では、狂女は愛する男性──天皇にておはします──との再會を果たし、狂亂はおさまる。
私自身は、さういふ劇的な再會など作品世界でしか知らない。
……だから私は、
思ひ出といふやつが嫌ひなのだ。