ニセペンギン

 動物園のペンギン舎へ行くと、ときどき、一羽へんなのが混じっていることがある。ペンギンの餌の魚を狙ってやってくる、ゴイサギである。明らかに偽者であるくせに、何食わぬ顔をしてペンギン然として、プールサイドに突っ立っている。偽者であるけれど、白と灰色に塗り分けられた羽や、直立の姿勢が、なんとなくペンギンに似ていなくもない。
 ペンギンは、ゴイサギには知らん顔である。ゆうゆうとプールを泳ぎ、ときどき潜って、底に沈んだ魚の山から一匹取っては食べている。
 目の前にごちそうの山があるというのに、ゴイサギは食べることができない。ペンギンと違って、ゴイサギは潜ることができないのである。だから、ただじっと待っている。
 ときどき、プールの底から魚をくわえて浮上したペンギンが、うっかり魚を落としてしまうことがある。ゴイサギが狙っているのはそのときだ。すかさず大きな翼を広げて飛び上がり、水面近くに浮いた魚をひっさらう。魚を得たゴイサギは少し離れたところに降り立って、落ち着いてごちそうをいただく。
 川の中にじっと突っ立って、すばやく泳ぎ回る魚たちをしとめるチャンスを忍耐強く待つよりは、動物園でペンギンのおこぼれを気長に待つほうが、きっと楽なのだろう。
 ペンギンは飛べないから、ペンギン舎にはフェンスも屋根もついていない。お腹が膨れたら、とらわれの身の飛べないペンギンたちを尻目に、ゴイサギは翼を伸ばして自由な空へと飛んでいく。からだの自由はそのままに、動物園の餌だけを利用する、ゴイサギの贅沢気ままな生活である。
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