にせ猫ちぐら

 一番上の伯母は猫好きである。家には白黒ぶちの猫がいるし、外の野良猫にもご飯をあげて、病気になれば獣医に連れて行ったりもする。
 その伯母が、読んで面白かったからと、岩合光昭の「きょうも、いいネコに出会えた」という猫の写真のいっぱい載った本を送ってくれた。
 この本によれば、岩合さんの自慢の猫グッズは、「猫ちぐら」だそうだ。「猫ちぐら」は以前に読んだ町田康の「猫にかまけて」という本にも出てきていて、私はそれまで「猫ちぐら」が何であるか知らなかったのだけれど、わらで編んだかまくら形の猫ハウスで、明治か、それ以前の昔からあるものだという。新潟県関川村の民芸品で、村のお年寄りたちが、農閑期に一週間から十日かけて、一つ一つ、編み上げて作る。「ちぐら」とは、地元の言葉で「ゆりかご」の意味だそうだ。夏は涼しく冬は暖かい快適な猫ハウス、インテリアにも最適、などというネットショッピングの宣伝文句を見ているうちに、私も欲しくなってしまった。
 みゆちゃんの冬の寝場所は、二つある。一つはソファの上の毛布をかけた座布団。だいたいいつもここで寝ている。隣に座った人が気を利かせて、丸くなったみゆちゃんの上に毛布を被せてあげるとなお快適だが、このみゆちゃんの座布団のおかげで、もともと二人がけのソファは、定員が一人になってしまっている。
 もう一つは、形は猫ちぐらみたいなかまくら形だけれど、素材は綿入れの布であるペットハウス。去年の冬にホームセンターで安く買ったもので、あまり趣味のいい柄ではない。入り口が少し大きすぎるので、保温のために、毛布で半分覆っている。その冬は、初めて子供部屋を与えられた子供みたいに、プライベートな空間を得たことに大喜びで、いつも入って寝ていたが、今年はあまり使っていない。たまにのそのそともぐりこんで、寝に行ったのかなと思ったら、入り口のすきまから、目だけ出してこっちを見ていたりする。
 もう一つ、これも前の年の冬に、みゆちゃんが寒くないようにと、内側に断熱材を貼り付けたダンボールハウスを、ピアノの椅子の下に置いているのだけれど、こちらはちっとも使ってくれず、今は息子のおもちゃのバスの車庫になっている。
 この断熱材を貼り付けたダンボールハウス、夏の間は必要ないと思って、二階の物置部屋の棚の上に上げておいたのだけれど、ある日、みゆちゃんの姿が見えないので呼んでみると、その箱の中から、ひょいと首を出した。南向きの物置部屋はただでさえ暑い。そこで脚をだらっと伸ばして、いかにも暑そうに寝ている。いったい何を考えているのだか、猫ってちょっとわからない。
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