
薬は仁丹にそっくりだが味は全く別もの。正式名は「透頂香」。
表記は「ういろう」に非ず。「ういらう」にこだわる「懐中必携之霊薬」
いやぁ、驚きました。
21世紀になって、いまどきこんなに古風頑固一徹、誇り高い薬屋さんがあるとは!
小田原「ういろう」のことです。
ういろうというとお菓子の「ういろう」を思い浮かべるでしょうが、
小田原でお菓子のういろう も 売る店「ういろう」の主力は薬の「ういろう」で、
正式名を「透頂香(とうちんこう)」といいます。
先日静岡からの帰り、小田原の「ういろう」に立ち寄りました。
小田原「ういろう」は、ぜひとも行ってみたかった薬屋です。
ある集まりで、団十郎の歌舞伎十八番「外郎売」の口上で有名な「ういろう」が、
私の愛用する「仁丹」に似ていると知ったから。
仁丹は、持病の咳喘息による咳き込みを当座収めるのに重宝しているので、
私にとっては感謝感謝の銀の粒です。

薬のういろうの隣には、ういろうを入れる印籠を売っている。古風さは半端じゃない
小田原ういろうは、我が家から約80㎞と遠く、
電車では乗り換え3回、1時間半以上かかる場所にあります。
それではと通販で買おうとういろうのサイトを調べたら、とんでもないことでした。
この現代になんと通販不可、しかも対面販売のみという、ストイックな販売方法です。
ついでに言えば、このういろうサイトの古風さは、
この店の姿勢すべてを物語っていると言っても良いでしょう。
「薬のういろう『透頂香』は、昨今の環境破壊のため、
原料の生産が非常に少なくなってしまいました。
六百数十年前の製法を今も守っておりますので、充分に作ることができません。
症状が合う方にだけ対面販売させて頂いております。
通信販売は致しておりません。」 というコメントがあります。
小田原のういろうに足を運ぶことができない人は、決して入手できないというわけ。
初回の人には薬剤師が対面で症状を聞き、それ以外の人への販売せずとか。
う~む、これはもう行くしかない。
禁じられると、いっそうそそられるのが人の常なのでした。
ところで市川団十郎とういろうのご縁は、江戸時代末期に遡ります。
元禄時代、17歳で団十郎を襲名した二代目は、
決して人気がある歌舞伎役者ではなかったそうです。
その二代目が、「助六」「暫」などの舞台に新趣向をこらして興行が成功するようになり、
20代半ばを過ぎて人気役者となっていった頃のこと。
ある日、咳と痰が止まらなくなり、声が出なくなってしまったそうです。
あれこれ薬を試して後、「ういろう(透頂香)」を服用したところ、
まもなく快癒して、ぶじ舞台に立つことができたのだそうです。
二代目は江戸から2日かけて小田原「ういろう」に出向き、
お礼にと、この薬を題材に歌舞伎の演目を作ることを申し出ました。
誇り高いこの店、そのような宣伝をしてもらう必要はないと固辞したそうですが、
ういろうの由来や効能を広く世間に知らしめることは世のため人のためだと説得され、
団十郎の演目「外郎売」は、享保3年 (1718年)に初演を迎えたのだそうです。
先祖は中国は元の時代に順宗帝に仕えた医師で、元が明により滅ぼされると、
日本に渡って帰化して陳外郎と名乗ったのだそうです。
六百数十年続いた薬屋「ういろう」の主人は、いまも外郎さんです。
陳外郎の子、宗奇が、足利義満の命により外郎家伝来の薬「霊宝丹」を我が国に伝え、
それが効能顕著であったため、時の帝から「透頂香(とうちんこう)」の名前を頂いたのだとか。
というわけで、「ういろう」は日本最古の著名な薬となったのです。



お菓子のういろうは、薬に合うお菓子ということで売り出され、
外郎家の歴史とともに京都→名古屋→小田原と各地に残しつつ現代に至ったのですが、
本家本元は外郎家のお菓子ういろうなのだそうです。

小田原城近く国道一号線沿いに建つお城のような店です。
店内撮影禁止とは書いてないものの、写真を撮るなど到底できない雰囲気が漂っています。
店員さん達は凛として客を迎え、真っ直ぐにこちらを見据えてすきがありません。
正面のウインドウにはお菓子のういろうが並び、左奥に回って進むと目指す薬局があります。
一番奥に白衣を着た老薬剤師がシャキッと立っていました。
幸いにして(?)私は、薬のういろうを服用するにはうってつけともいえる喘息持ちです。
それを伝えると、「喘息の薬や吸引薬の合間に、こちらを服用してください」ということでクリア。
ありがたく3000円の箱を1箱買いました。
その合間にも次々とお客が立ち寄り、
何やら白い紙を渡すと、薬剤師はサッと5000円の箱を渡しています。
恐る恐る「見た目が仁丹に似てますが、成分は違うのですか?」と訊ねると、
「全く違います」と、ひとこと。
そのような質問、不本意でござりまする、と言わんばかりの端的なお返事でした。
薬局員はもちろん店員さん達も、ういろうの矜持を背負った雰囲気で匂わんばかり。
ちなみに「ういろう」の成分は、
【石膏、丁香、龍脳、薄荷脳、麝香、萆襏(ヒハツ)、人参、阿仙、桂皮、甘草、蓬砂、縮砂】
「仁丹」の成分は、
【阿仙薬、甘草末、カンゾウ粗エキス末、桂皮、丁字、益智、縮砂、木香、生姜、茴香、l-メントール、桂皮油、丁字油、ペパーミント油】でした。
舌に乗せると仁丹はスーッとしますが、ういろうは全く違います。
仁丹には、メントール、ペパーミント油など薄荷系成分の比率が多いのでしょうか。
ダブっているのは、甘草、桂皮、阿山、縮砂、丁香(丁字・丁字油)です。
というわけでいま、毎夜一粒ずつ舐める「ういろうタイム」が習慣になりました。
補充したいとなったとき、1時間半かけて出かけることを考えると、
よほど効果がなければ継続は無理だと思うのは、私だけではないでしょう。
小田原ういろうは、その買いにくさから買い手の本気度を試します。
そして中途半端な利用者は淘汰され、“たくさん売りたくない”店の本音はこれにて成就。
めでたく適度な販売量は保たれるということになります。
いまどきこのような販売方針で成り立つ「ういろう」、お見事です。
いまどき、このような売り方をすること自体、信じられませんが、
この店の薬剤師が直接会って話を聞き、
これなら売ると判断しない限り売ってくれません。
ほんとうに不便なんですが。
もったいなくて残していたが正露丸をきらせてしまい風邪の症状があったので風邪薬の効能書きを読むと下痢は記載されていず、とっておきの薬を12粒白湯にて服用。効能は色々あって感染予防との記載も。ありがたやー。母に一袋持って行かれた挙句、仁丹と同じやん、と言われた事を思い出し、こちらに来ました!!味も中身も違うのですね〜。お店には行った事がありません。20年来の知人に頂いたのですが彼女は国際結婚でヨーロッパに住んでおり帰国時に小田原に行き買い求めているそうです。値段や格式ある物だと知らなかったので「菓子のういろうでお願いします。」と言ってましたが(^^)お薬も買い難くなっているのですね〜。情報ありがとうございました。京都より(^^)