怒(ヌー)族の呪術者であるお婆さんは、ニコリともしないでこちらを見据えた
年齢を重ねた人には、例えようもなく豊かな魅力に溢れている人がいます。
少数民族調査の旅では、神話、習俗などいろいろ語ってもらう関係上、
お年寄りとの出会いが多かったのですが、
とりわけいまその姿を思い返しても、瞼にありありと浮かんでくる筆頭がこのお婆さん。
惚れ惚れするほど格好いいというのは、こういうお年寄りを言うのではないでしょうか。
彼女に会ったのは1997年8月、
雲南省貢山独龍(ドゥーロン)族・怒(ヌー)族自治県の中心都市、
貢山(ゴンシャン)から40㎞ほど北にある丙中洛郷という小さな村でのこと。
貢山独龍族・怒族自治州は雲南省の奥地の西北端にあり、
すぐ隣はミヤンマーという位置にあります。
数㎞離れた甲生村から2時間ほど歩いて、丙中洛の公安局に来てもらったときのことでした。
こんなお年寄りを歩かせて、と不謹慎に思うでしょうか?
確かにそうですね。
しかしちょっと言い訳するなら・・・・、
日程の関係で、貢山の公安局でいろいろな人にいっぺんに会う予定だったため、
現地が気を利かせて呼んでくれたのです。
山道を2時間歩くというと、機材を持った私たちには難行ですが、
健脚の彼らにとっては山の傾斜地を歩くのも日常的なことで、
ヤワな日本人とはまったく違うのです。
もちろん、感謝感謝でした。
彼女の名は甲底(ジャディ)さん、80歳。
ヌー族では「ニマ」と呼ばれる巫師(ふし=呪術者)で、
ヌー族の神話をよどみない安定したメロディーで歌ってくれました。
取材が終わり、さて村に帰るというとき、屋外に出た彼女を写真を撮らせてもらったのがこれ。
まあ、この立ち姿の素晴らしいこと!
竹製のキセルをくわえ、使い慣れた上等な杖を突いてすっくと立ち、
こちらを見据える眼には強い意志が溢れています。
媚びない生き方を貫く自信に満ちて、どんな立派な衣装にも負けない神々しさ。
ファインダーを覗きながら、身震いするほど感動したのを思い出します。
強い意思と自信、誇りに満ちたお年寄りに出会うと、それだけで感謝したくなるのは何故でしょう。
(雲南省貢山独龍族・怒族自治県貢山 1997.8)
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