家で飲んだの久しぶり
原因は母からのメール。
ジムでいつものように筋トレをしていると、母からメールが送られてきた。
内容はこうだ。
「あくっまの資格、特技?趣味それと会社名と何課か?身長&体重も?よろしく」
この瞬間全てを理解した。
母は、自分を本気でお見合いさせたいらしい。
そもそも始まりは、先月中ごろに来たメールだった。
「伊●丹の写真館って、綺麗に撮れるらしいね。あんたは私達がカメラを向けると顔が引き攣るでしょ?ちゃんと写真撮っておこうよ」
母は24の時に父とお見合いをして結婚をした。
自分が25になっても結婚しないのが理解できないようだ。
だから去年臼蓋形成不全という病気が発覚したときから「手術する前にあんたを嫁にやるんだ!」とヒステリックに叫び、お互いに怒鳴りあいながら一年を過ごした。
幸いなことに24の時は祖父の介護で母も忙しくなり、自分の問題に関してはかまけていられなくなった。だが今年になってから、父は上京するたびに自分をデジカメで撮った。
「ほら、自然の方がいいだろうから」
自分は生涯独身で通したいとか、そういう理想は無い。
時期がきたら結婚したい、子どもも欲しい。
だが、ようやく体調も良くなり働き出して10ヶ月、これからという時に母は当然のように写真館を予約した。
自分もとりあえず1枚写真を撮っておけば、母は満足するだろうと思っていた。
新しい洋服も買ってもらえるという下心もあったが……。
そんな事よりも、またヒステリーを起こされるぐらいならこちらから折れたほうが良かった。
そして29日に写真を撮った。
引き攣った笑顔の自分を、父と母は「綺麗ねえ、私達が撮るとあんなに顔がこわばるのに」と喜んだ。
自分は母の口から「父が好きで結婚した」と聞いたことが無い。
母はいつも口癖のように自分に言った。
「お母さんはね、お祖母ちゃんがお父さんのことを気に入ったから結婚したのよ」
母は父と見合いをしても、特に気に入らなかった。だが祖母は父のことを気に入り、「とってもうちの娘が気に入っているのよ」と父に言い聞かせながら祖母の手製の弁当を持たせ、「娘が作ったの」と言いながら渡したそうだ。
25にもなって情けないことを言うかもしれないが、嘘でもいいから父が好きだったから結婚したと言って欲しかった。
そうでないと、自分は気に入らなくてもとりあえず学歴がそれなりでと収入もそれなりの男と結婚し、セックスし、子どもを生まさせられるだろう。
そして男の子ならコピーのように親族に恥じないような大学へいかせるために、勉強させられるのだ。
女の子なら、可愛く着飾られてとりあえずは世間に出しても恥ずかしくないような学校へ進められるのだ。
嗚呼嫌だ。
自分の運命が誰かに決められるのは嫌だ。
それなのに、皆自分が子どもを愛していると疑っていないのだ。
確かに愛されているだろう。
家に帰ればいつも母がいて、手作りの菓子があった。誕生日パーティを開けばどの友達も我が家を羨ましがった。綺麗な家で、素敵な洋服を着て、好きなだけ本を読んでいられた。
勉強に関してはどれだけ高い塾に行こうが、金は払ってくれた。
そして自分はこの家系の女として最低限の学歴を持たせてもらった。
兄は、最高学府へ行った、従兄弟も最高学府へ行った、もう二人も立派な大学へいった。
男達は浪人をしてでも、最高の学歴じゃないと認められなかった。
代わりに女は、満足の行く相手と結婚させられることを義務付けられた。
この家に生まれたのだから、分かっているつもりだった。
それでもジムで、自分の資格をケータイに打ち込みながら涙が出てきた。
普通自動車免許、日本語教師、学芸員、ファイナンシャルプランナー2級、英検、秘書検(予定)
趣味:アーチェリー、読書、サッカー観戦
身長160cm 体重51キロ
どれも大した資格じゃないけれど。鼻で笑うような学歴だけど。自慢できないような容姿だけど。
今まで自分の人生は何だったのだ。
何のために勉強した、何のために社会に出た、何のために本を読み、感動したのだ。
男の下で唸りながら子どもを生んで、子どもを今度は自分の成績表にするための人生なのか。
それでもいい、自分で受け入れたのなら。
でも、まだ自分は嫌だ。
愛情が重たすぎて、苦しい。首が絞まる、前が見えない。
未来の閉じる音がする。
25にもなって、家を飛び出せばいいのか。
運命を自分で切り開くと彼女達を放り投げればいいのか。
彼女達のやさしい思い出と共に、自分は「あんたは私の分身よ」と言った言葉を一生忘れないだろう。
彼女が自分が言った「あなたはただ娘の悩みを聞いていればいい」と言った言葉を忘れないように。
あなたの愚痴が耐えられなかったんだ。あなたの悩みは螺旋を描いていて、終わりが無い。
螺旋が娘の体を締め付け、苦しいのを分かっていない。
そしてあなたも娘が母を傷つけたのを記憶から消せない。
なんて似ていて、可哀想な、気持ち悪い母娘。
とりあえず一人で生きていく力を身につけねば。
こんなところから抜け出すために。
社労士?行政書士?とにかく今の会社を抜け出すのだ。
もうなんでもいい、この真綿の首輪をねじ取らなければ。
とりあえず一人で生きていく力を身につけねば。
原因は母からのメール。
ジムでいつものように筋トレをしていると、母からメールが送られてきた。
内容はこうだ。
「あくっまの資格、特技?趣味それと会社名と何課か?身長&体重も?よろしく」
この瞬間全てを理解した。
母は、自分を本気でお見合いさせたいらしい。
そもそも始まりは、先月中ごろに来たメールだった。
「伊●丹の写真館って、綺麗に撮れるらしいね。あんたは私達がカメラを向けると顔が引き攣るでしょ?ちゃんと写真撮っておこうよ」
母は24の時に父とお見合いをして結婚をした。
自分が25になっても結婚しないのが理解できないようだ。
だから去年臼蓋形成不全という病気が発覚したときから「手術する前にあんたを嫁にやるんだ!」とヒステリックに叫び、お互いに怒鳴りあいながら一年を過ごした。
幸いなことに24の時は祖父の介護で母も忙しくなり、自分の問題に関してはかまけていられなくなった。だが今年になってから、父は上京するたびに自分をデジカメで撮った。
「ほら、自然の方がいいだろうから」
自分は生涯独身で通したいとか、そういう理想は無い。
時期がきたら結婚したい、子どもも欲しい。
だが、ようやく体調も良くなり働き出して10ヶ月、これからという時に母は当然のように写真館を予約した。
自分もとりあえず1枚写真を撮っておけば、母は満足するだろうと思っていた。
新しい洋服も買ってもらえるという下心もあったが……。
そんな事よりも、またヒステリーを起こされるぐらいならこちらから折れたほうが良かった。
そして29日に写真を撮った。
引き攣った笑顔の自分を、父と母は「綺麗ねえ、私達が撮るとあんなに顔がこわばるのに」と喜んだ。
自分は母の口から「父が好きで結婚した」と聞いたことが無い。
母はいつも口癖のように自分に言った。
「お母さんはね、お祖母ちゃんがお父さんのことを気に入ったから結婚したのよ」
母は父と見合いをしても、特に気に入らなかった。だが祖母は父のことを気に入り、「とってもうちの娘が気に入っているのよ」と父に言い聞かせながら祖母の手製の弁当を持たせ、「娘が作ったの」と言いながら渡したそうだ。
25にもなって情けないことを言うかもしれないが、嘘でもいいから父が好きだったから結婚したと言って欲しかった。
そうでないと、自分は気に入らなくてもとりあえず学歴がそれなりでと収入もそれなりの男と結婚し、セックスし、子どもを生まさせられるだろう。
そして男の子ならコピーのように親族に恥じないような大学へいかせるために、勉強させられるのだ。
女の子なら、可愛く着飾られてとりあえずは世間に出しても恥ずかしくないような学校へ進められるのだ。
嗚呼嫌だ。
自分の運命が誰かに決められるのは嫌だ。
それなのに、皆自分が子どもを愛していると疑っていないのだ。
確かに愛されているだろう。
家に帰ればいつも母がいて、手作りの菓子があった。誕生日パーティを開けばどの友達も我が家を羨ましがった。綺麗な家で、素敵な洋服を着て、好きなだけ本を読んでいられた。
勉強に関してはどれだけ高い塾に行こうが、金は払ってくれた。
そして自分はこの家系の女として最低限の学歴を持たせてもらった。
兄は、最高学府へ行った、従兄弟も最高学府へ行った、もう二人も立派な大学へいった。
男達は浪人をしてでも、最高の学歴じゃないと認められなかった。
代わりに女は、満足の行く相手と結婚させられることを義務付けられた。
この家に生まれたのだから、分かっているつもりだった。
それでもジムで、自分の資格をケータイに打ち込みながら涙が出てきた。
普通自動車免許、日本語教師、学芸員、ファイナンシャルプランナー2級、英検、秘書検(予定)
趣味:アーチェリー、読書、サッカー観戦
身長160cm 体重51キロ
どれも大した資格じゃないけれど。鼻で笑うような学歴だけど。自慢できないような容姿だけど。
今まで自分の人生は何だったのだ。
何のために勉強した、何のために社会に出た、何のために本を読み、感動したのだ。
男の下で唸りながら子どもを生んで、子どもを今度は自分の成績表にするための人生なのか。
それでもいい、自分で受け入れたのなら。
でも、まだ自分は嫌だ。
愛情が重たすぎて、苦しい。首が絞まる、前が見えない。
未来の閉じる音がする。
25にもなって、家を飛び出せばいいのか。
運命を自分で切り開くと彼女達を放り投げればいいのか。
彼女達のやさしい思い出と共に、自分は「あんたは私の分身よ」と言った言葉を一生忘れないだろう。
彼女が自分が言った「あなたはただ娘の悩みを聞いていればいい」と言った言葉を忘れないように。
あなたの愚痴が耐えられなかったんだ。あなたの悩みは螺旋を描いていて、終わりが無い。
螺旋が娘の体を締め付け、苦しいのを分かっていない。
そしてあなたも娘が母を傷つけたのを記憶から消せない。
なんて似ていて、可哀想な、気持ち悪い母娘。
とりあえず一人で生きていく力を身につけねば。
こんなところから抜け出すために。
社労士?行政書士?とにかく今の会社を抜け出すのだ。
もうなんでもいい、この真綿の首輪をねじ取らなければ。
とりあえず一人で生きていく力を身につけねば。