名古屋はずいぶん涼しくなりました。
さすがにクールビズは終わりですが、事務所から裁判所や弁護士会へ自転車で行くと、まだまだ汗だくです。
さて、特許法における職務発明規定(35条)の改正。
以前、朝日新聞の飛ばし記事にまんまと引っかかって記事を書いてしまいました(こちら)。
最近の報道を見ると、社員が職務上行った発明について、特許を受ける権利を会社帰属とする基本的な方向性がほぼ固まりつつある感じ。
現状の制度と選択制とするなど、まだ議論の余地はあるようですが。
社内発明帰属、選択性も 特許改正案で中小などに配慮(日本経済新聞)
今回の改正は産業界からの要望に応えたものです。
特許制度って、毎年大量に出願する大手メーカーに支えられているようなものなので、特許庁としても産業界の要望には応じざるを得ないんでしょうね。
ところで、この点に関して、今年のノーベル賞受賞者である中村修二教授が、猛反対されています。
特許は会社のもの「猛反対」 ノーベル賞の中村修二さん(朝日新聞社提供記事)
中村教授の青色LEDに関する業績に関しては尊敬しますし、ノーベル賞受賞についても素晴らしいこと。
でも、ノーベル賞受賞後のインタビュー記事等では、アメリカ万歳、日本(裁判所も)を Dis りまくり。
職務発明規定の改正に関する発言を含め、読むたび、なんだかなぁという気持ちになってしまいまうのは僕だけでしょうか。
よく、発明の対価が2万円だったと言われたりしますが、昇進や年収がどのくらいだったのかも考慮すべきと思いますけどね。
社員技術者がノーベル賞受賞したのは、過去に田中耕一さんという例もあるし、中村教授だけが社員技術者の代表みたいな扱いされるのはなんか違和感。
もっと、普通の社員技術者が改正についてどう思っているのか、取材してもらいたいところです。
また、マスコミが、「特許を会社のもの」に改正する、と報道していることも、うーんな感じ。
まあ、紙幅が限られているし、細かく説明してるとかえってわかりづらくなるのかもしれませんが。
特許法の改正によって会社のものとなるのは、「特許権」ではなく、あくまで「特許を受ける権利」です。
「特許を受ける権利」は、それを持ってるだけでは何にもなりません。
その権利を持つ人(会社)が、発明について日本国特許庁に特許出願し、所定の審査を受け、要件を充足していると判断されて初めて特許権を取得できる。
特許権を取得するには、こうやって段階を経る必要があり、コストも結構かかります。
出願手続から特許権を取得してそれを維持するのに、だいたい100万円くらいでしょうか。
特許権を長く維持しようとすれば、もっとかかります。
現状では、社員が発明した場合、その発明について特許を受ける権利は社員にあるので、それを会社に譲渡し、会社がもろもろの費用を負担して、発明を特許権として成立させ、維持するわけ。
特許出願しても権利にならない場合は当然あります。
また、権利になっても実際の製品には使われない場合もあるし、ライセンスを受けたいという会社がないこともある。
そういうリスクがある中で、100万円以上のコストを社員技術者が個人で負担しますかね?しませんよね、普通。
なので、特許を受ける権利を会社に譲って、あとは会社任せというのが現状のやり方です。
それを、特許を受ける権利という最初の段階から会社に帰属させるようにする、というのが今回の改正議論の基本的な方向性です。
さらに、会社帰属に改正した場合、会社への対価請求権をなくしてまうのはちょっとねってことで、それに代わる報酬等を義務付けるという議論にもなってます。
会社としても、下手な制度にしたら優秀な技術者は不満をもって離れていくわけですし、これはこれでバランスとれた制度だと思いますけどね(細かい話はおいといて)。
もっとも、報酬等の請求権を規定するなら、現状の制度と実質的には変わらないので、あえて改正する意味あるんかな、という気はしますが…
ちなみに、著作権法では、社員が会社の職務として創作した著作物(職務著作)の著作権は会社のものとなります。
例えば、新聞記事や写真の著作権は本来なら新聞記者のもののはずだけど、修正されて新聞社のものとされている。
職務発明制度の改正に批判的なマスコミは、記者が書いた記事に対して、給料以外の報酬を払ってるんかな。
法律事務所と特許事務所が、AIGIグループとしてタッグを組んでます。
それぞれのページをぜひご覧ください!
★あいぎ法律事務所(名古屋)による知財・企業法務サポート
★あいぎ特許事務所
商標登録に関する情報発信ページ「中小・ベンチャー知財支援サイト」もあります